2022年に入ってから、毎日のように発表される食品の値上げ。値上げラッシュの波は一向に収まる気配がなく、飲食店においてもメニューの値上げを余儀なくされる苦しい状況が続いています。
しかし、いざ値上げに踏み切ろうと思っても、どのように値上げを行えばよいのかわからず途方に暮れている…という方もおられるかもしれません。
この記事では、メニューを値上げする際のポイントと注意点を詳しく解説。また、これから飲食店の開業を考えている方、メニューの値付けに迷っている方にも試していただきたい「付加価値のつけ方」についてもご紹介します。
目次
怒涛の値上げラッシュが飲食店を直撃中
昨今、食品の値上げラッシュが続いており、一般消費者はもちろん、飲食店にとっても経営を圧迫する大きな課題となっています。ロシアによるウクライナ侵攻や原油価格の高騰、急速な円安進行など、食材価格高騰の要因は山積しており、いまだ値上げラッシュの終わりが見えない状況です。
飲食店が利益を確保するためにはメニューの値上げが必要ですが、安易な値上げは客数や売上減に直結するリスクがあります。とはいえ値上げを躊躇すると、食材費や人件費を削らざるを得なくなり、店の価値を下げてしまう可能性も。
客数や売上を減らさず、お客様に値上げを受け入れてもらうにはどうすればよいのでしょうか?
メニューを値上げする際のポイントと注意点
現行メニューをただ値上げするのはNG
メニュー内容を変えずに単純に価格だけを上げたり、同じ価格で量を減らしたり質を落としたりするのは危険です。お客様は想像以上に価格に敏感であり、一方的に価格が上乗せされたという悪い印象を与えてしまいます。
多くのお客様は、昨今の事情により多少の値上げは仕方がないと理解されていますが、あまりに直接的な値上げを目の当たりにすると、気分を害してしまうものです。
どうしても価格だけを上げたいのなら、「経営が苦しいため値上げさせていただきます」と正直に事情を説明した方が、店の評判を下げずに済みます。
全てのメニューを一度に値上げするのもNG
全メニューを一度に値上げすると、客足が一気に遠のくリスクがあります。値上げは、特に原価が高騰しているメニューに限定したり、高単価商品を新たに追加するなど、現行メニューの値上げは段階的に行う工夫が必要です。
定番・売れ筋メニューを値上げした方が利益は上がりますが、同時にお客様へ与えるインパクトも大きくなります。定番・売れ筋メニューの価格は据え置きにし、季節限定メニューや新メニューのみ値上げするところから始めるのも一つの手です。
メニューの一新と値上げを同時に行う
客数と売上への影響を最小限に抑え、お客様に値上げをうまく受け入れてもらうために、メニューの一新と値上げを同時に行うのが好ましいです。
ポイントは、お客様になるべく値上げの印象を与えず、損を感じさせないこと。例えば、量を増やしたり、食材の質を上げたりして付加価値を高めたメニューにグレードアップさせる、レギュラーサイズとハーフサイズの2種類を設けて選択肢を増やすなど。
メニューの一新と値上げを同タイミングで実施し、以前のメニューと価格を比べにくくすることで、お客様に受け入れてもらいやすくなる効果もあります。
料理に付加価値をつけるには?
料理に付加価値をつける要素はさまざま。食材や調理、提供方法にこだわることで特別感を引き出したり、見た目のインパクトやトレンドを意識してSNS映えする料理を開発したりするなど、この料理を目当てに来店したいと思わせる看板・人気メニューを生み出していくことが大切です。
食材にこだわる
食材の産地や品質にこだわることによって仕入価格は上昇するものの、お客様の満足度が高まることでメニュー価格も上げやすくなります。
例えば、単なる「お刺身盛り合わせ」よりも「北海道とれたて直送!お刺身盛り合わせ」、単なる「生ハムサラダ」よりも「24か月熟成のハモンセラーノ使用!切りたて生ハムと朝採れ野菜サラダ」の方がお客様には魅力的に映ります。
どのような食材を使用しているのかが明確で、なおかつ新鮮で品質の良いものなら、ちょっと高いお金を出してもいいと感じるお客様は多いものです。
調理・提供方法にこだわる
低温真空調理、燻製など調理方法を工夫するだけでも、料理の付加価値は高まります。また「体験型メニュー」を取り入れるのも付加価値をつける方法の一つ。
例えば、焼き網をのせた電熱器を使って自分でお餅を焼いて食べられる、蛇口をひねって自分でお酒を注げる、自分で搾れるセルフ生搾りオレンジジュースなど。そうしたエンターテインメント性も付加価値アップのカギになります。
SNS映えを意識する
メニュー内容や盛り付け方を工夫し、SNS映えを意識した料理を生み出すことで付加価値を高めることもできます。
東京・神田にある海鮮居酒屋「とらえもん」は2015年4月にオープンし、2016年9月にマグロに特化した業態にリニューアル。そのリニューアルに合わせて開発した「トラエモンマウンテン」は店の名物となっています。
ネギトロ軍艦(5貫)の上に本マグロ中落ち、ウニ、イクラ、ミョウガ、カイワレを豪快に盛り合わせたメニューで、価格は2〜3人盛りで2,860円。決して安い値段ではありませんが、贅沢で豪華な内容と、見た目の美しさがSNSで話題になり大ヒット!特に女性客はこのトラエモンマウンテンを目当てに来店される方が多く、注文された方のほとんどが写真や動画を撮影しているといいます。
SNS映えを目指すうえでは、料理の見た目のインパクトや華やかさ、豪華さは必須です。例えば、トラエモンマウンテンのように寿司や肉を積み上げてタワー型に盛り付けてみたり、海鮮丼を透明のグラスに盛り付けてパフェ風に仕上げてみたり。
現行メニューにちょっとした工夫や手間を加えるだけでも、映えるメニューが作れます。
値上げの事前告知も忘れずに
事前告知無しに値上げを行うと、お客様に不誠実な印象を与えてしまい、客離れにつながる可能性も。遅くとも価格改定日の1〜2週間前には、店内ポスターやチラシ、SNSなどで値上げの事前告知を行いましょう。
いつから・どのような理由で、どのメニューを何円値上げするのかを告知するのが一般的ですが、メニューの一新と値上げを同時に行う際は、付加価値の部分を発信することも重要です。新メニューの特徴やこだわりは何なのか?など、お客様の期待感を高める内容を盛り込んで告知することで、値上げのインパクトを抑える効果も期待できます。
料理に付加価値をつけ、値上げしても愛されるお店を目指そう!
まだまだ終わりが見えない食品の値上げラッシュ。飲食店における値上げは、客数・売上減少のリスクを伴うものの、利益を確保し経営を維持するためには欠かせません。
しかし、単に価格だけを上げたり、同じ価格で量を減らしたり質を落としたりするのでは、お客様に悪い印象を与え、客足が遠のいてしまう危険も。
飲食店の値上げ成功の近道は、料理に付加価値をつけ、お客様に納得いただけるメニュー作りと価格設定を行うこと。そうすることで、値上げをしてもお客様が離れず、多くの人に長く愛される店づくりが可能となります。
毎日のように食品値上げのニュースが放送され、値上げを許容する消費者マインドもあるいま、思い切って値上げに踏み切ることも大切です。
ライター:上田はるか(フリーライター)
大学卒業後、輸入食品商社に勤務し、新規店舗の立ち上げや自社直営ティーサロンのメニュー開発を経験。その後、大手ギフト会社の企画開発部、広報宣伝部を経てフリーランスに。現在はWEB媒体をメインに、食ジャンルの原稿執筆を行う。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
