個人事業主としての起業を検討している方にとって、個人事業主として起業するためにはどのような手続きを経る必要があるかという点は、重要なポイントです。
また、個人事業主ではなく法人を設立して起業する方法も考えられますが、法人と比較した際の個人事業主として起業するメリットやデメリットがイマイチわかっていない方もいらっしゃるかもしれません。
個人事業主として起業するのであれば、必要な手続きや流れをきちんと把握して、問題なく起業日を迎えられるよう事前準備に努めましょう。
この記事では、個人事業主と法人・フリーランスの違いや、個人事業主として起業することのメリット・デメリット、個人事業主として起業する際に必要な手続きなどについて説明します。個人事業主として起業を目指す方はご一読ください。
目次
個人事業主の概要を解説
個人事業主とは、個人として継続的に事業を営んでいる人のことを指し、税務署に開業届を提出することで個人事業主になることができます。
個人事業主ではない起業の形態に「法人」、個人事業主と混同されやすい言葉に「フリーランス」がありますが、それぞれ個人事業主とはどのように異なるのでしょうか。
個人事業主と法人やフリーランスの違いについて、詳細を以下で説明します。
●法人との違い
個人事業主と法人の違いは、法律上の人格として「法人格」が認められているかどうかです。
個人事業主には法人格が認められていませんが、法人には法人格が認められており、個人から独立した権利義務の帰属主体となることが可能です。
個人事業主と法人では設立などの手続きが異なり、法人格が認められている法人のほうが、多くの手続きを行う必要があります。
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●フリーランスとの違い
フリーランスは、個人事業主と同じような意味合いで用いられることも多いですが、一般的には「特定の企業や団体に所属しない働き方」を表す言葉です。
個人事業主と法人は完全に別物ですが、フリーランスは法人化することも可能です。
そのため、「法人化していないフリーランス=個人事業主」と考えることもできます。
個人事業主として起業することが多い職種
個人事業主が営むことのできる事業に制限はありませんが、法人と比べて小規模な事業展開になりやすい分、物流のような事業を営むことは現実問題として難しいと言わざるを得ません。
少しデータは古いですが、総務省が平成26年に行った調査の結果によると、個人事業主が営んでいることが多い職種としては、主に以下のようなものが挙げられます(かっこ内の数字および比率は、個人事業主の数および占める割合)。
・ 卸売業、小売業(488,066、52.5%)
・ 宿泊業、飲食サービス業(445,482、81.6%)
・ 医療、福祉(167,098、60.3%)
・ 生活関連サービス業、娯楽業(319,467、82.8%)
我々が普段何気なく利用しているサービスに関わっているものも多く、我々の生活がいかに個人事業主によって支えられているかがわかると思います。
社名や店名を耳にする機会が多いBtoCの企業の中には、個人事業主がフランチャイズという形で事業を行っているところも多いです。
個人事業主として起業する3つのメリット
法人ではなく個人事業主として起業するのであれば、自分にとって如何なるメリットがあるかを把握しておくことが大事です。
個人事業主として起業することには、以下に挙げるメリットがあります。
・ 起業の手続きが比較的簡単
・ 税務や会計の処理が簡単
・ 利益が少なければ税の負担が軽い
それぞれのメリットについて、詳細な内容を説明します。
●①起業の手続きが比較的簡単
個人事業主としての開業手続きは、法人として開業する場合の手続きよりも簡単で、税務署や都道府県税事務所、市町村に開業届を提出するだけですぐに開業することが可能です。
これに対して法人が開業する場合は、定款の作成および認証や登記申請など、さまざまな手続きが必要となります。
法人の場合は登記するにあたって登録免許税を支払わなければなりませんが、個人事業主の場合はそれも必要ないため、起業時のコストを抑えやすいと言えるでしょう。
●②税務や会計の処理が簡単
個人事業主として事業を営む場合、多くの場合は毎年の確定申告が必要となります。
確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類がありますが、白色申告は様式自体がシンプルでわかりやすく、比較的手間のかかる青色申告でも会計ソフトを利用すれば簡単に申告することが可能です。
法人が法人税の申告書を作成する場合は税理士に依頼するのが一般的であることと比較すると、税務や会計処理の大変さは、法人と個人事業主で大きく異なります。
税理士に依頼する場合でも、法人税の申告に比べて税理士への依頼費用は安いケースが多いこともメリットです。
●③利益が少なければ税の負担が軽い
個人事業主は、所得に対して所得税を支払う必要があります。法人でそれに対応するのは法人税ですが、所得が少ないうちは法人税よりも所得税のほうが負担は少ないです。
利益が大きくなっていくと、個人事業主でいることによる税負担の恩恵は少なくなっていくため、しかるべきタイミングで法人を設立する「法人成り」を検討することをおすすめします。
一般的には、利益が800万円程度のタイミングが法人成りに適したタイミングだと言われていますが、所得控除や事業以外の所得の有無などによって適したタイミングはケースバイケースなので、税理士などに相談しながら判断するとよいでしょう。
個人事業主として起業する3つのデメリット
個人事業主として起業した後に「最初から法人を設立すればよかった」などと後悔しないためにも、あらかじめ個人事業主として起業するデメリットを知っておくことは重要です。
個人事業主として起業することには、以下に挙げるデメリットもあります。
・ 信用度が低くなる傾向にある
・ 資金調達が難しいケースがある
・ 所得によっては税の負担が増える
それぞれのデメリットについて、詳細を説明します。
●①信用度が低くなる傾向にある
個人事業主は法人ほど事業の規模が大きくないことも多く、登記申請も行いません。そのため、対外的な信用度は法人に劣る傾向にあります。
中には、法人としか取引を行わないという方針の企業もあるため、取引の幅が狭まってしまう可能性も考慮しておかなければなりません。
●②資金調達が難しいケースがある
個人事業主は、法人に比べて金融機関からの融資を受けにくいとされています。
その理由は、法人は個人と別人格で会計も別になっているのに対して、個人事業主の場合は事業資金と個人の生活費の境目があいまいになりやすい傾向があるためです。
融資審査に通りやすくなるためには、事業計画書のクオリティを上げたり事業用と生活費の預金口座を分けたりして、金融機関からの評価を高める必要があります。
●③所得によっては税の負担が増える
所得が少なければ税負担も少ないところが個人事業主のメリットであることは、先ほど触れた通りです。
しかし所得税は累進課税なので、所得が増えていくと同じ所得に対してかかる法人税よりも、負担が大きくなってしまいます。
また、法定業種に該当したり所得が一定のラインを超えたりすると、個人事業税も課せられます。
これらの税負担をできる限り少なくするためには、先ほど触れたように、しかるべきタイミングで法人成りを検討することが重要です。
個人事業主としての起業の仕方
個人事業主として起業するためには、しかるべき手続きを経る必要があり、その際にはさまざまな書類も必要になります。
個人事業主として起業するために必要な手続きや書類について、以下で説明します。
●必要な手続き
個人事業主として起業するために最低限必要となる手続きは、「税務署に開業届を提出する」ことです。
提出先は店舗や事業所の所在地を管轄する税務署で、提出期間は起業してから1ヶ月以内となっています。
開業届は税務署の窓口で受け取る、もしくは国税庁のサイトからPDFで取得した上で提出しましょう。国税に関するオンラインサービス「e-Tax」でも、開業届の提出は可能です。
また、開業届を提出する際には、以下のものを準備してください。
・ マイナンバーが確認できる書類(マイナンバー通知カード・住民票の写しなど)
・ 本人確認書類(運転免許証・健康保険証など)
・ 印鑑
なお、マイナンバーカードは1枚で「マイナンバーが確認できる書類」と「本人確認書類」の両方の役割を果たすことができるため、マイナンバーカードをお持ちの方はそちらを利用すると便利です。
●必要な書類
個人事業主として起業する際、提出が必須となる書類は開業届のみですが、ほかにも提出したほうがよい書類、場合によっては提出の必要がある書類も存在します。
開業届とあわせて提出の有無を確認すべき書類は、主に以下の通りです。
・ 青色申告承認申請書
・ 所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
・ 青色専従者給与に関する届出書
・ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
・ 給与支払事務所開設届出書
「青色申告承認申請書」は、確定申告を青色申告で行うために必要な書類です。提出しない場合は白色申告になるため、青色申告をしたいと考えている方は必ず提出してください。
青色申告を行うことで、所得控除を多めに受けられたり赤字を繰り越すことができたりといったメリットがあるため、個人事業主として起業するのであれば青色申告での確定申告を検討することをおすすめします。
「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」は、起業にあたって引っ越しを行い、納税地が変わる場合に提出が必要となります。
「青色専従者給与に関する届出書」は、確定申告で青色申告を行う場合に、配属者や親族に対して支払う給与を経費計上するために必要な書類です。確定申告を青色申告で行わない場合や、配属者や親族を従業員として雇わない場合には、提出する必要はありません。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、雇った従業員に給与を支払う際、源泉徴収した所得税を毎月の支払いから年2回まとめての支払いへと変更するための特例を適用するために必要となります。
ただし、この特例が適用されるのは常時雇用する従業員が10人未満の場合のみであることは覚えておきましょう。
「給与支払事務所開設届出書」は、従業員を雇用して給与を支払う場合に提出が必要となる書類です。
このように、どのような形で事業を行うかによって提出が必要な書類は異なります。自分の状況と照らし合わせて、提出すべき書類をきちんと判断した上で手続きを行いましょう。
個人事業主として起業するメリットやデメリットを踏まえた上で判断することが大事
個人事業主として起業することには、法人と比べると起業時の手続きが簡単、利益が少ない間の税負担が軽いといったメリットがあります。
一方で、資金調達が難しい場合がある、利益が増えると法人よりも税負担が重くなる可能性があるといった点はデメリットです。
こういったメリット・デメリットを踏まえた上で、個人事業主として起業するべきかどうかを判断しなければなりません。
自分だけでは判断しきれないという場合は、開業までの準備を支援してくれるサービスに頼るのもおすすめの方法です。
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この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
