個人事業主として事業を行うためには開業届を提出する必要がありますが、事業を行っている間に引っ越しを行うことも考えられます。
開業届には事業を開始した時点での住所を記載して提出しているため、引っ越したあとには記載されている内容と実態が食い違ってしまうこともあるでしょう。
このようなケースにおいて、「住所変更した開業届を改めて変更すべきなのか?」と迷っている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、引っ越しを行った際に開業届を再提出する必要があるのかについて、ケースごとに紹介します。開業届以外に提出が必要になる書類やそれらの提出方法についても説明するので、引っ越し予定がある個人事業主の方はぜひ参考にしてください。
目次
住所変更時に開業届を再提出すべきなのか解説
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」と言い、個人事業主として事業を行うために提出が必要となる書類です。
引っ越しに伴う住所変更時はもちろん、氏名変更といった身の回りのことに変化があった際にも、開業届を再提出すべきか迷うでしょう。
そこでここからは、引っ越しによって住所が変わるケースを中心として、どのような場合に開業届の再提出が必要なのか、もしくは必要でないのかについて説明します。
●開業届の届け出が必要なケース
事業用の事務所や事業所の新設・増設・移転・廃止に伴い引っ越しを行った際には、開業届の再提出が必要です。
すでに開業届を提出した経験があると思いますが、そのときと同じ手続きを行うことになります。
また、業種や屋号を変更した場合にも、開業届の再提出を行わなくてはなりません。
●開業届の届け出が必要ないケース
結婚や離婚により名字が変わった場合には、開業届の再提出は必要ありません。
また、現在行っている事業以外に新しい事業を始めた場合にも開業届の再提出は行わなくてよいです。
住所変更に伴い提出が必要な書類
引っ越しを行った際に提出が必要な書類は、開業届だけではありません。ケースに応じて複数の書類が必要となるため、出し忘れのないようあらかじめ書類の種類を確認しておきましょう。
ここからは、住所変更に伴い提出が必要な書類について説明します。
●個人事業の開業・廃業等届出書
上述したように、開業届は、事業用の事務所・事業所の住所変更に伴い再提出が必要です。
引っ越し後になるべく早く手続きを済ませるようにしましょう。
●所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書
所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書は、以下のケースに当てはまる場合に提出が必要となります。
・ 納税地を変更した場合
・ 住所地から居所に納税地を移す場合
・ 住所とは別に事務所を構えてそこを納税地とする場合
・ 居所もしくは事務所から住所地に納税地を移す場合
納税地に関する書類なので、どのようなケースにせよ納税地が変更になった場合に提出すると考えてください。
●預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書
預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書は、振替納税を利用して納税を行っている場合に提出が必要な書類です。
納税地の管轄税務署もしくは書類に記載されている金融機関に、振替納税の期限までに提出しましょう。
●労働保険・社会保険に関する書類
労働保険・社会保険に関する書類は、健康保険・厚生年金といった社会保険や労働保険の加入に関する書類で、事務所が所在地を移す場合に提出が必要となります。
移転後の所在地を管轄する年金事務所に、所在地変更から10日以内に提出してください。
●給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出は、給与等の支払いを行う事務所等を移転(または廃止)した場合に、提出が必要な書類です。
給与支払事務所等の所在地の所轄税務署に、事務所を移転してから1ヶ月以内に提出する必要があります。
ただし、開業届に給与の支払い状況などを記載した場合は、提出する必要はありません。
●事業開始(廃止)等申告書
事業開始(廃止)等申告書は、個人事業主として開業または廃業したことを知らせるために提出を行う書類です。
地方税の納付に関連する書類なので、税務署ではなく都道府県の税事務所へ提出します。
個人事業の開業・廃業等届出書の提出方法
過去に開業届を提出したことがある方であれば、提出方法や書き方などを把握しているはずですが、提出してから時間が経っていると、それらを忘れている可能性もあるでしょう。
そこで改めて、開業届の入手方法・提出場所・提出期限・書き方などについて、詳細を説明します。
●個人事業の開業・廃業等届出書の入手方法、提出場所、提出期限
開業届は最寄りの税務署の窓口で受け取ることができるほか、国税庁のサイトからもPDFで取得することができます。
提出場所は事務所管轄の税務署で、持ち込む場合は営業時間中なら窓口、夜間は「時間外収納箱」へ提出する形になり、郵送での提出も可能です。
提出期限は、「事務所等を移転した日から1ヶ月以内」となっているため、引っ越し後に行わなければならない手続きはいろいろとありますが、忘れないうちに提出しましょう。
●個人事業の開業・廃業等届出書の書き方
住所変更に伴い開業届を再提出する際に記入が必要なのは、以下に挙げる項目です。
・ 提出先の税務署・提出日
・ 氏名や住所などの届け出を行う人の情報
・ 届出の区分(「移転」にチェックを入れる)
・ 所得の種類(「事業所得」にチェックを入れる)
・ 住所変更を行った日付
・ 移転後、移転前それぞれの住所
「氏名や住所などの届け出を行う人の情報」で記入する住所は、移転前の情報です。
記入が必要な情報は特別多いわけではないので、漏れなく記入して提出してください。
所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書の提出方法
住所変更に伴い提出が必要な書類の中では、「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」も提出しなければならないケースが多いです。
そこで、所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書の入手方法・提出場所・提出期限・書き方などについて、わかりやすく説明します。
●所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書の入手方法、提出場所、提出期限
所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書は、最寄りの税務署の窓口で受け取れるほか、国税庁のサイトからもPDFで取得できます。
提出場所は納税地を所轄する税務署で、持ち込む場合は営業時間中なら窓口、夜間は「時間外収納箱」へ提出する形になり、郵送での提出も可能です。
なお、提出先は新しい納税地を所轄する税務署ではなく、異動・変更前の納税地を所轄する税務署である点には注意してください。
提出期限は「納税地の異動があった後、遅滞なく」となっており、厳密に決められているわけではありませんが、この届出書の提出があった日以後に納税地が変更されるので、なるべく早く提出するよう心がけましょう。
●所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書の書き方
所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書を提出する際に記入が必要なのは、以下に挙げる項目です。
・ タイトルの所得税・消費税いずれかにチェックを入れ該当しないほうを二重線で消す
・ 提出先の税務署・提出日
・ 氏名や住所などの届け出を行う人の情報(※)
・ 異動年月日
・ 異動前・異動後の住所
開業届と同じく、「氏名や住所などの届け出を行う人の情報」で記入する住所は、移転前の情報です。
引っ越しから時間が経つほど、書類に関する手続きを後回しにしてしまうことも考えられるため、開業届とまとめて記入して早めに提出しましょう。
特殊なケースごとの対応方法
引っ越しを行った際の基本的な対応方法だけでなく、中には「こういうときにはどう対応すればいい?」と悩んでしまうケースもあると思います。
ここからは、少し特殊なケースにおける対応方法について説明します。
●事務所は移転したが居住地は変わっていない場合
事務所は移転したけれど居住地は変わっていないというケースでは、納税地として登録しているのが事務所なのか居住地なのかによって対応が変わります。
居住地を納税地としており、かつ事務所のみ引っ越した場合には、開業届のみ提出が必要です。
事務所を納税地としており、その事務所が引っ越した場合は、開業届と、所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書の両方を提出しなくてはなりません。
●居住地は移転したが事務所は変わっていない場合
居住地は移転したけれど事務所は変わっていないという場合でも、納税地として登録しているのが事務所なのか居住地なのかによって対応が変わります。
事務所を納税地としている場合は、とくに手続きの必要はありません。
居住地を納税地としている場合は、所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書のみ提出が必要となります。
●海外に引っ越す場合
海外に引っ越す場合、日本に住所を残し、かつ海外での滞在が1年未満となるのであれば、国内の居住者とみなされるため、とくに手続きは必要ありません。
現地での滞在が1年を超えて海外に生活の拠点を移す場合には、以下に挙げる書類を提出し、国内における廃業の手続きを行う必要があります。
・ 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
・ 所得税の青色申告の取りやめ届出書
・ 所得税・消費税の納税管理人の届出書(日本で確定申告を行う必要がある場合)
提出場所はいずれも、直前に居住していた住所地を管轄する税務署です。
個人事業主の引っ越し代は経費にできる?
業者に依頼して引っ越しを行う際には引っ越し代がかかりますが、この引っ越し代を経費にできるかについては、個人事業主が納税を考える上での大きな問題です。
事業に関わる支出は経費計上できるので、住居と事務所が独立しておりその事務所が引っ越しを行う場合には、すべて経費計上することができます。住居兼事務所から事務所だけが引っ越すという場合も同様です。
住居兼事務所のまま引っ越しをするケースでは、引っ越し代全額を経費計上するわけにはいかず、事業用となる割合を家事按分して経費計上しなくてはなりません。
引っ越しにかかった費用をどのような勘定科目として計上するかに関しては、引っ越し業者に支払った費用は雑費、不動産会社に支払った仲介手数料は支払手数料とするのが一般的です。
住所変更時に提出が必要な書類は開業届以外にもさまざまある
個人事業主が引っ越しを行い納税地に異動があった場合には、開業届を再提出する必要があります。
引っ越しに伴い、「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」をはじめとした複数の書類を提出しなければならないケースもあるため、各自が抱える事情に応じて提出が必要な書類をきちんと把握しておかなければなりません。
しかし、引っ越しに限らず、身の回りに何かしらの変化があったときにどのような手続きを行わなければならないかについて、詳細を把握できていない方も多いと思います。
とくに、開業時に必要な手続きを忘れてしまうと開業後の経営にも影響を与える可能性があるため、手続き面に不安がある方は、開業支援サービスを利用しながら開業を目指してはいかがでしょうか。
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この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
