「飲食店は地獄」――大げさな物言いと思われるかもしれませんが、経営コンサルタントや投資家、弁護士など、事業やお金回りに詳しい専門家は、口をそろえて言います。
居心地のいい空間で、顧客が喜ぶ姿を見ながら暮らしたいと、早期退職や定年後の第二の人生の舞台として考えている人も多い夢のある仕事であることは確かです。
しかし、それが地獄とは一体どういうことなのでしょうか。
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目次
人は、人生で一度、必ず飲食店をやりたいと思うようになっている
独立・開業・起業を果たしたとしても、成功するのはよほどの才能や商売の才覚があるかどうか。
しかし、飲食店というのは、ほぼ毎日のように見かけたり、利用したりする、とても身近な場所。
自分が働いている姿がイメージしやすく、「味」「空間」「サービス」など、素人でも理想のビジネスを描きやすい業界なのです。
また、アルバイトの雇用も多く、従業員として働いてみた経験から、「私ならこうする」「私にもできるかも」と思う人も少なくありません。
だからこそ、人は人生で一度や二度、「飲食店をやりたい」と思ってしまうわけです。
しかし、そこには落とし穴が…。
なぜ、飲食店の経営は困難を極め、地獄と言われるのか
独立・開業・起業の理由として一番多いのは、「自分が本当においしいと思えるものを提供したい」という食へのこだわりではないでしょうか。
しかし、お金を支払う以上、飲食店の料理がおいしいのはある意味当たり前。
特に日本には、おいしい店など山のようにあります。
「自分が本当においしいと思えるもの」=「他人に必要なもの」と思い込んんでいる人が多いのです。
こうした傾向は、趣味のそば打ちやコーヒー好きなどが高じて転職を図るオーナーに多く見られるようです。
商売はなんでも自分本位ではなく、顧客が何を求めているかが肝心。
たとえ一時的に繁盛しても、顧客が飽きてしまえばそれまでです。
本当に「売れる!」となれば、資金力のある大手も同じジャンルのものに着手するでしょう。
バブルの時流にのってイタリン・レストランで爆発的に流行ったティラミスも、今ではスーパーで簡単に手に入りますし、並んででも食べたいデザートではなくなりました。
現在、若者たちに人気のタピオカも、このブームが初めてではなく、第3次であることは良く知られた話です。
そのおいしさに、今も昔もさほど変わりはないはずなのですが……。
味にこだわるオーナーに欠けているのはズバリ、経営者としての目線です。
競合店との差別化を図るための「おいしい」以外の戦略。
そして、売上をあげるノウハウです。
しかし、味以外に目を向けない、向ける余力のない“職人気質”であることが、かえって経営を困難にしているのです。
来店した客が再度足を運んでくれる確率はせいぜい4割。
何か対処しなければ、その先は2割以下となり、先細っていくだけなのです。
そもそも、飲食店は「始めやすく」「潰れやすい」というデータがある
先にも触れたように、飲食店は「経験が乏しくても参入できるのでは?」と思える要素がいくつもそろっています。
食品を扱うにもかかわらず「調理師免許」が不要というのも意外です。
基本的には1~2日の講習で取得できる「食品衛生責任者」と「防火管理者」の資格があればOKなので、ITや医療、教育などの業種と違い、特別な専門知識や資格、業界内のコネクションがなくても始められるという点が、より敷居を低くしているようです。
しかし、2011~2015年に日本政策金融公庫が実施した業種別の廃業率の調査によると、全業種の平均が10.2%であるのに対し、飲食業・宿泊業は18.9%。
業種別ではトップにランクインしています。
開業するのはやさしくても、維持するのは極めて難しい業種であることが数字でも確認できます。
飲食店の開業は“地獄”
こうして素人が安易に手を出しがちな飲食店は、仮に開業できたとしても、その先は「地獄」と例えられるほど、厳しい現実が待っています。
その原因と背景を考えてみましょう。
どんぶり勘定の事業計画
「FLコスト」という言葉を知っていますか?
F「FOOD(食材原価)」とL「LABOR(人件費)」を合わせた経費のことで、売上をこのFLコストで割り、どれだけ比重を占めているのかを表したものが「FL比率」と呼ばれています。
また、支出のなかで、もう一つ大きな割合を占めているのが「RENT(テナント料)」。
そのRも含めた「FLRコスト」、「FLR比率」というものもあります。
一般的に飲食店はFL比率が55~60%で、それより低ければコスト管理がされていて、利益が出ているという証し。
優良店は50%以下になっています。
しかし、60%以上となると問題で、特に65%以上はつぶれる可能性が大。
利益に対するFLRコストは一般的に50%で、70%を超えると危険といわれています。
計算自体は簡単で、F、L、Rの合計から逆算すれば、月々、そして1日単位の売上目標も立てられますし、テナントを借りる際に、賃料が経営全体を圧迫しないか、といった判断の基準にもできます。
閉店を回避する比率内にこの出資3項目を収めるには、仕入れ先やスタッフ構成の見直し、設備投資の仕方や頭金の再考など、「おいしい」以前の問題を細かくチェックし、クリアしていかなくてはなりません。
食材原価を下げられなければ、1皿の分量をグラム単位で調整することもあり得ます。
しかし、そんな数式があることさえ知らない素人のオーナーが多いのが実状。「おいしければなんとかなる」というざっくりとした事業計画が、後々の破綻を生んでいるのです。
未曾有の被害による人材削減
帝国データバンクによると、2020年の外食関連業者の倒産件数は780件で、前年に比べて6.2%も増えました。
また、調査を開始した2000年と比べると、その数はおよそ5.3倍にもなっています。
もともと失敗しやすい飲食店ですが、その状況を近年さらに悪化させているのが2020年に流行した新型コロナウイルスです。この影響による経営不振で解雇・雇止めにあった人数は1万人を超えました。今まで店舗に影響を与えてくれた人材までも失ってしまいます。今後、FLRコストに占めるLの割合は低くなっていきます。
だからこそ、人材をうまく活用するマネージメント能力、あるいは機械化などの思いきったシフトチェンジを実行する力がなければ、この業界では生き残れません。
リテラシーの低さが地獄を生む
飲食店の経営が難しいことを示すデータをもう一つ紹介しましょう。
総務省が5年周期で実施する2018年度の「事業所・企業統計調査」によると、5年間で新たに業界に参入した飲食店の数は全体の23.7%にのぼりましたが、閉店した店も32.2%と高い数字でした。
新店ができる傍らで、続々と既存店が撤退していることがわかります。
景気がいまひとつ上がらないため、顧客が外食にかける費用は少なくなっています。
それにもかかわらず、巷では飽和状態といっていいほど飲食店が乱立し、同じパイを奪い合っているのです。
マーケティング、人材、資金、運営方法、税金対策……敷居が低いからといって、こうした項目の知識や理解、すなわちリテラシーも低くて良いはずがありません。
むしろ参入相手が多い分、開業前には時間をかけてしっかりとした事業計画をたてる必要があります。
「飲食は地獄」という言葉を心に留めておきましょう。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
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