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パンやパン作りが好きで、パン屋を開きたいと夢を見ている方も多いのではないでしょうか。
しかし、中小企業庁の調べによるとパン屋を含む飲食店は、廃業率が3年以内で70%と他業種に比べて高く、決して経営が簡単とは言えません。夢の実現には情熱と同時に、しっかりとした準備と計画が必要です。
そこで本記事では、パン屋を取り巻く市場状況から開業後に失敗してしまうケースの共通点と原因を読み解き、開業に失敗するリスクを軽減するためのポイントを解説します。
パン屋の市場状況
まずはパン業界の市場状況を見ていきましょう。
パン食の需要は年々増加している
パン屋の需要と市場規模は年々増大し続けています。総務省統計局が公開している「経済センサス」によると、2021年のパン小売業の市場規模は2.1兆円、推移は2016年から減少傾向にあります。コロナの影響もあり、業界全体の売上が落ちたと考えられます。
これに伴い、パン屋の数は2016年と比較して9.5%減少。一方で、1店舗当たりの売上高は2021年に2,048万円に上り、2016年比+12%という数字が表れています。
また、農林水産省による「家計における主食的食糧」の調査結果では、昭和56年より米の購入数量が減少の一途をたどっているのに対し、パンの主食的食糧の割合は相対的に高まっており、今後もパン食志向は年々増加していくでしょう。競争が激しい
「経済センサス(平成28年版)」によれば菓子・パン小売業の事業所数は61,922軒にも及びます。日本のコンビニの店舗総数が55,633店であることを考えると、コンビニ以上にパン屋があるということになります。
また、コンビニやスーパーでもパンは買うことができます。そのためライバルは同業者だけでなく、食品を扱っている小売店全般と言えるでしょう。
日本政策金融公庫の調査によれば、新規開業を行った事業主のうち47.3%もの人が開業後に苦労していることとして「顧客・販路の開拓」を挙げています。調査結果の中でも最も多くの人が抱えている課題であり、特にパン屋のようにライバルの多い業態では、顧客や販路を獲得するのは非常に重要な課題と言えるでしょう。
こうした競争を勝ち抜いていくためには、単においしいパンを作るだけでなく、競合店との差別化や集客なども行う必要があるでしょう。パン屋開業の課題とは?
需要の高まりを受けてライバルも増えているパン屋業態では、どのような課題を抱えているのでしょうか? パン屋開業で待ち受ける課題を3つご紹介します。
開業資金が高額
パン屋は飲食業の中でも開店資金が高くなりやすい傾向があります。
日本政策金融公庫の調査によれば、さまざまな業種を含めた2022年度の開業資金の平均額は1,077万円。業態や、お店の立地・規模、設備の充実度にもよりますが、飲食店の新規開業の場合およそ1,000〜2,000万円程度の資金が必要になると言われています。
パン屋の開業資金が高額になる大きな理由は以下の2つです。
✔パン屋専用の厨房設備の導入
✔厨房スペースの確保
厨房設備の中でも、特にパンを焼くための業務用オーブンは、新品で購入すれば300〜500万円ほどかかります。他にもパン生地をねるための業務用ミキサーや、パンを発酵させるためのホイロ(発酵器)は必須の設備です。店頭で扱うパンの種類によってはさらに設備が必要になります。
また、一般的な飲食店の厨房面積は全体面積の30%〜40%ほどですが、パン屋の場合は厨房設備の多さから店舗の50%以上を占めるケースもあります。物件に必要な最小面積が広くなれば物件取得にかかる費用や賃料がかさみ、開業費用が高額になってしまうのです。
参考 日本政策金融公庫「2022年度新規開業実態調査」
客単価を上げにくい
パン屋を経営する事業主の抱える課題に、客単価を上げにくいというものがあります。
総務省の「家計調査 2016年~2018年(二人以上の世帯)」を見ると、日本でパンの消費量・消費金額が最も多いといわれる神戸市でも、各世帯のパンの購入金額の平均は2年間で37,951円となっています。
各世帯につき1日当たり50円分程度しかパンを購入していないということです。客単価が少ないということは粗利も上げにくく、お店として得られる利益は小さくなります。そもそもの客単価が低く、さらに人々の食生活に深く根付いていて購入機会が頻繁だからこそ、値段そのものも上げにくいのです。
実際、たまの贅沢として少し高級なパンを購入することがあったとしても、毎日のように1000円、2000円分のパンを購入するというお客様は決して多くはないでしょう。よって、パン屋は高単価の商品を販売するよりもいかに多くの商品を販売するかが重要な、いわゆる「薄利多売」のビジネスモデルで経営している事業者が多いと言えます。パン屋は決して「儲かる仕事」とは言えない
株式会社カカクコムが運営する「求人ボックス 給料ナビ」の調査によると、パン屋の平均年収は352万円とされています。
対して、国税庁公表の「令和5年分民間給与実態統計調査結果について」における日本人の平均給与は460万円です。パン屋の所得水準は決して高いとは言えません。
パン屋の給与が安い理由には、以下の3つが考えられます。
✔客単価を上げにくい
✔原材料の価格高騰
✔人件費などのコスト増加
また、パン屋の利益は原材料の高騰もあり、減少傾向にあるという報告も出ています。年商2,000万円を超える人気パン屋もありますが、開業したすべてのパン屋が成功できるとは限らないのが現実です。
参考 求人ボックス 給料ナビ「パン屋の仕事の年収・時給・給料」パン屋の経営が失敗してしまう理由
パン屋経営を失敗してしまう理由は、意外にもパン作りのスキルは関係ありません。大きく分けて、以下の3つが考えられます。
✔経営知識の不足
✔顧客が集まらない
✔お客様が離れて行く要素がある
それぞれ原因を読み解いていきましょう。
飲食店開業で失敗する原因をもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひチェックしてみてください。
関連記事 なぜ飲食店の開業で失敗する?失敗する原因やオーナーの特徴について解説1.経営知識の不足
パン屋の経営に失敗する理由のひとつに、経営に関する知識不足があります。飲食店を運営するからには、お金の管理やマーケティングなどの知識も必要です。経営知識が不足していると、店舗運営に支障が出るだけでなく、顧客満足度の低下にもつながりかねません。
パン作りのスキルや知識は積極的に学んでいても、経営知識を二の次にしてしまう人は意外と多いものです。どんなにパン作りの腕がよくても、原価と利益のバランスを考えずに価格を決めたり、ニーズに合わないパンばかりを作ったりすれば、いずれ経営は行き詰まります。
パン作りだけに偏らず経営の知識も学んでおきましょう。2.顧客が集まらない
集客できずに経営に失敗するケースもあります。せっかくのこだわりパンも、お客様が来なければ味や実力を知ってもらえません。結果、売上の低迷や資金繰りの悪化につながってしまいます。
顧客が集まらないときの主な原因は、立地の悪さとアピール不足です。立地問題は、開業してしまうと簡単に移転できないため、物件選びを慎重に行う必要があります。事前にしっかりと市場調査や顧客分析を行い、地域の動向やニーズを把握しましょう。
また、店の売りや魅力を多くの人に知ってもらうためにはマーケティングも大切です。SNSの活用やチラシの配布、定期的なイベントの開催などで積極的に情報を発信し、お店をアピールする必要があります。ただお客様を待つだけでなく、自ら呼び込む努力が必要です。3.お客様が離れて行く要素がある
経営が失敗したパン屋には、お客様が離れてしまう要素があります。お客様が離れてしまう主な原因は他店舗と差別化ができていないことにあります。
競合の多いパン業界では、味の他にも見た目や店内の雰囲気、接客態度など、お客様はさまざまな項目の総合点で通いたい店かどうかを判断しています。独自の魅力がなければ、お客様を惹き付け続けることは困難です。
おいしいパンの提供だけではなく、来店から退店まで気持ちよく過ごしてもらえるような魅力作りがリピーターを増やし、経営の成功につながります。飲食店が差別化を図る際に、基本となる考え方については以下の記事で解説しています。合わせてチェックしてみてください。
関連記事 開業から3年で7割が閉店すると言われる飲食店…「おいしい」だけでは繁盛しないパン屋の経営を失敗しないためのポイント
パン作りの腕だけでは決して成功できないのがパン屋経営の難しいところです。では、どうすれば失敗を回避できるのでしょうか? 押さえておきたいポイント5つをご紹介します。
✔個性的なお店作り
✔経営者としての高い意識を持つ
✔マーケティング知識やIT関連の知識を身に付ける
✔地域住民とのコミュニケーション
✔パンを好きになる
以下の解説を読んで、安定したパン屋経営に役立ててください。1.個性的なお店作り
パン屋の経営を失敗しないためには、お店の個性を出すことは重要なポイントです。
ここまで述べてきたように、お店にお客様が入らなければパンは売れません。多くの人が入りたくなるような個性的なお店には、他にはない売りや魅力があります。つまり他店との差別化ができているのです。
例えば、以下のような内容でパン屋の差別化が図れます。
✔専門性での差別化(カレーパンのみ、食パンのみなど)
✔話題性での差別化(SNS映えする店内のディスプレイなど)
✔素材のこだわりでの差別化(高級食材や地域の特産品の使用など)
パンの味や商品ラインナップ以外にも“お店の売り”は作れます。そこでなければ買えないパンや、できない体験などの個性を作り、「〇〇といえばあのお店」と選ばれるお店作りが、経営を成功に導くでしょう。2.経営者としての高い意識を持つ
経営者として高い意識を持つことも重要です。パン屋を経営していくならパン職人としての素質に加え、経営者として利益を確保し、お店に人を集める力が求められます。
いくらおいしいパンが作れても、話題性のあるお店であっても、採算が取れなければ事業として成り立ちません。経営の基本である売上や原価などの数字の把握はもちろん、売上の傾向から新商品を開発したり、改良や改善を加えたりする感覚も必要です。
開業後も、パンのトレンドや社会のニーズを敏感にキャッチし、経営者としてお店を導いていく高い意識が求められます。3.マーケティング知識やIT関連の知識を身に付ける
パン屋の経営には、マーケティング知識やIT関連の知識も欠かせません。
商圏調査や分析を通して顧客や地域のニーズを把握し、差別化のための戦略や効果的な宣伝方法を考える指針にします。
例えばビジネス街では、丁寧さより迅速な接客のほうが、お昼休みに早くパンを買いたいニーズに合っています。一般的に喜ばれるはずのサービスも、地域や顧客によってはニーズに合わない場合もあるのです。
また、POSシステムなどのIT知識は業務効率化に役立ち、パン作り以外の作業時間を削減できます。生まれた空き時間を使い、商品開発や経営戦略にも注力できるのが魅力です。
4.地域住民とのコミュニケーション
近所住民とのコミュニケーションも経営の成功に必要です。出店場所周辺に住む人が主な顧客となるパン屋では、地域とのつながりは大きな強みになります。
地域イベントに参加してお店を知ってもらい、常連客になってもらえれば経営が安定します。顔見知りのお客様が増えればニーズもつかみやすくなり、経営戦略の一助になるでしょう。インターネットにおける口コミやレビューだけでなく、地域のコミュニティ内で人から人へと伝わる口コミの効果も侮れません。
他店とのコラボ商品開発やパン教室の開催など、地域や住民との積極的なコミュニケーションは、経営を続けていく上で重要な要素です。5.パンを好きになる
経営者自身がパンを好きになることは、基本とも言えるポイントです。趣味から仕事にする以上、楽しさや嬉しさばかりでは成立しません。何か困難が立ちはだかったとき、初心である「パンが好きな気持ち」は強い味方になります。
パン業界にもトレンドがあり、移り変わりの激しい世界です。必ずしも流行を追う必要はありませんが、新しい製法やレシピにアンテナを張って、お店に取り入れたり、レシピの改良をしたりすることは、長く愛されるお店作りにもつながります。新商品のアイデアもパンが好きでなければ浮かばなくなってしまうでしょう。
さらに、パンを店頭に出す際は味をチェックするため、毎日パンを口にします。パンを「作る」「食べる」のどちらも好きでいることは、長くお店を経営していく上で重要です。パン屋開業を実現するために
飲食店業態の中でも、設備投資が高くつき、儲けが少ないパン屋の経営を安定させるためには多くの努力が必要であることがわかりました。
ここからは、パン屋を開業するためにどのような手順をとればよいのかを解説します。繁盛するパン屋にするためにも、開業準備段階で押さえておきたいポイントも交えてお伝えします。資金調達を行う
開業に1,000万円以上かかると言われるパン屋では、自己資金だけでまかなうのは難しく、資金調達を行う必要があります。
開業資金を調達する方法は、以下の通りです。
✔日本政策金融公庫の「創業融資制度」
✔民間金融機関からの融資
✔政府や自治体の補助金や助成金の利用
✔クラウドファンディングの活用
中でも日本政策金融公庫の創業融資制度は、事業主にとってメリットの大きい制度です。財務省所管の金融機関である日本政策金融公庫は、政府機関の政策として積極的に融資に取り組んでくれます。原則として無担保・無保証人で融資してくれる点もポイントです。
各調達方法ごとにメリットデメリットがあるため、適切な制度を利用して、リスクを減らしながら資金調達を行い、パン屋の開業を目指しましょう。
飲食店の開業で使える補助金や助成金の種類、メリット・デメリットについては、以下の記事でご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
関連記事 【2024年最新版】独立支援金として利用できる補助金、助成金制度とは?
開業費用を抑える
パン屋は開業コストが高くなりやすい点が課題です。しかし、開業費用を大幅に抑えられる方法もあります。
✔中古の厨房機器を使う
✔パン屋の居抜き物件を活用する
✔キッチンカーで開業する
中古や居抜きでの設備の引き継ぎには、設備購入費である「造作譲渡費」を支払う必要があります。前オーナーが自由な金額を提示できるため相場がありませんが、ゼロから開業するよりコストを抑えられることが一般的です。タイミングや運にもよりますが、不動産会社に相談しつつ、さまざまな物件情報に目を光らせておきましょう。
また、キッチンカーを利用した移動式ベーカリーも、車の購入や手続きの手間などは増えますが、物件取得費用が不要になるため開業費を抑えられます。
費用を抑えながら理想のパン屋を開業するために、上記の提案を検討してみてください。事業計画を練る
競争が激しく、薄利多売のビジネスモデルのパン屋で利益を上げるためには、固定客を掴んでリピーターを増やすことが重要です。そのためには、事前にしっかりとした事業計画を練る必要があります。
事業計画を考える上で、パン屋を利用する顧客に刺さるマーケティングの知識も必要です。まずは以下の3つから始めてみましょう。
✔商圏調査(出店地周辺の環境チェック)
✔競合調査(近隣の競合店チェック)
✔顧客調査(近隣住民や客層のチェック)
店舗を構える場所の市場調査が終わったら、ニーズにマッチする商品やサービスを考え、事業計画に落とし込んでいきます。
おいしいパンを作るだけでは、必ずしも事業がうまくいくとは限りません。開業失敗のリスクを抑えるためには、来店する顧客の予測を立てたうえで、客単価や来客数といった指標を用いて月の収益予測を立て、地に足のついた事業計画を考えていくことが必要です。
事業計画をまとめた事業計画書の書き方については、以下の記事を参考にしてください。記入例だけでなく、メリットや注意点もご紹介しています。
関連記事 事業計画書とは?書き方やメリット、記入例などを解説!無料のテンプレート付きまとめ
パン屋開業には多くの課題がつきものですが、パンの需要は増加傾向にあり、適切な戦略をとれば開業成功の可能性は十分にあります。競合の多いパン屋経営で鍵となるのは、パンへの情熱に加え、経営知識やマーケティング戦略です。
『canaeru(カナエル)』では、経営知識やマーケティング戦略に長けたプロの開業プランナーが、パン屋開業をサポートしています。パン屋開業に必要な物件探しや資金調達のアドバイスも行っているので、気軽にご相談ください。
無料開業相談この記事の執筆
ライター・パン職人
中村ことは
専門学校卒業後、大手製パン会社に就職。個人店への転職を経て「パンが主食の国で生活がしたい」と2019年単身フランスへ。パン学校やインターンなどを経験し帰国。現在は再びパン職人として働きながら、取材やグルメを中心にライターとして活動中。
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