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西武池袋駅から電車に揺られること約40分。埼玉県入間市にある入間市駅からはさらに徒歩18分。狭山茶の産地としても知られる自然豊かなこの場所に、たくさんのメディアから注目を浴び、週末にもなれば多くの人で賑わうスポットがある。それが、古き良きアメリカを彷彿とさせる町並みのなかに、住宅地と商店街を混在させた独自のスタイルを築き上げている『ジョンソンタウン(JOHNSON TOWN)』だ。都心からも遠く、交通の便も良くない。そんな場所になぜ人は集まるのか。
ジョンソンタウンが人気スポットへと変わったその理由を管理者サイド、出店側である個人経営者の方々に取材し、この場所に人が集まり、この場所で商売が成り立つ理由を探った。「よい住宅地」を目指したはずが、予想外の人気スポットに
カフェに雑貨店、パン屋、さらには歯科医院やフォトスタジオ、美容室――さまざまな店が軒を連ねるこの一帯は、今や入間市を代表するスポットのひとつになっている。「こうなることをまったく予想していませんでした」と話すのは、この場所を管理する株式会社磯野商会の常務取締役・磯野章雄氏だ。この街は元々米軍ハウスを大幅にリノベーションして賃貸の住宅地にしたもので、そこに自然発生的にお店を開きたいという希望者が集まってきた。
「よい街には人がやってくる」という考えに基づいて建物は店舗でも住居でも使えるように設計。実際、当初から住居兼店舗として使う方が多かったという。住居兼店舗という形が経済的メリットになると考える入居者は多く、現在は55軒中30軒が住居兼店舗だ。自宅でお店を開けるという手軽さが開業を後押ししているのだろう。しかし、「その方々が商売を続けていくためには集客も大事だと考えています」と、街に人がいること、活気があることの大切さを磯野氏は重要視している。そう考えるのは、初めてこの街を訪れた時の悲惨な光景が脳裏に焼き付いているからだ。「街」としての機能
ジョンソンタウンから目と鼻の先には入間基地がある。かつては日本陸軍の士官学校で、そこに勤務する将校のためにこの地にできたのが50棟の日本家屋だった。しかし、戦後、士官学校は米軍に接収されジョンソン基地へと代わった。そして軍人向けの高級住宅地として日本家屋と混在させて建てられたのがいわゆる「米軍ハウス」だった。その後1978年に日本に全面返還されて以降は日本人向けの賃貸物件になったものの、年月の経過とともに建物の老朽化や高齢化が深刻な問題になった。土地を管理していた磯野商会社長・磯野達雄氏(章雄氏の父)はその惨状に心を痛め、この現状を変えるべく、建築家の渡辺治氏に住宅の設計や街のコーディネイトを依頼したのが今のジョンソンタウンの起点だった。
そして、このプロジェクトを任されたのが章雄氏。「最初にここへ来たときは、平成の時代だというのに水洗トイレもなくて…。戦後の日本のように朽ち果てていて、当時の家賃は1~2万円。本当にこの場所を賃貸にしてお金が取れるのかと悲しくなりました」。
磯野氏はこの街を整理するために奮闘。場合によっては、高齢者の方と一緒に生活保護を申請しに行くといったこともあったのだという。
「良い街には人がやってくる――」を合言葉に、建物はすべて壊して再開発するのではなく、「日本の建築史上の歴史の1ページとして残しましょう」という渡辺氏のアドバイスから、米軍ハウスを大規模にリノベーションする形に。老朽化していた日本家屋だけはほぼ解体したが、そこには平成ハウスというアメリカの趣を感じる家屋を建築し、現在のような統一感のある町並みが完成した。
タウン内はジョンソンタウンのカラー=青色の郵便ポストをはじめ、標識や地図、店舗の看板の英語表記など、景観全体の統一感がある。
「看板などお店の外観には必ず事前に申請を出していただき、承認が通ったものしか掲示できません。場合によっては顧問のデザイナーに判断してもらって、街の雰囲気が崩れずテナントさんの意向も汲める折衷案を出すこともあります」といった徹底ぶりだ。
一方で内装は自由にリノベーションできる。そのため独自性が出やすく、店内に足を踏み入れたときの店ごとのカラーの違いがこの街のひとつの魅力になっている。2タイプの消費者がいる街
この街の消費者は、「住民」と「観光客」に大別される。住民にはライターやカメラマン、ミュージシャンといったクリエイターも多く、半分以上は在宅ワーカーだ。年齢層は30〜50代が主で、子連れのファミリーも多い。一方、観光客は30〜40代の女性が最も多く、その女性たちに連れられて男性や家族連れが訪れるという。
入居者の募集はインターネット等で行っており、開業希望者にはどんなお店がやりたいのかを最初にある程度聞き、業態や内容、その方の心意気などによっては「お断り」することもあるそうだ。その理由については「夢見心地で出店されてすぐ退去されては、ご本人が一番悲しいでしょうけど、私たちにとってもマイナスイメージになる」とのことだ。それでも「集客に困っている店舗さんにはアドバイスをさせていただくこともあります」と、開業初心者の方にとっては、同じ敷地内に親身になって商売をサポートしてくれる管理会社がいることや、同じような境遇の仲間がいることは心強い。それもあってか、この場所でお店を開きたいという声は後を絶たないのだという。
ちなみに、ここには住民や観光客の声を汲み取って、管理者自ら誘致したお店も数店ある。
消費者=住民でもあるため、よりダイレクトにその声が管理者に届きやすい環境にあること、もっと言うと管理者がその声に耳を傾け、住民の居心地の良さや観光客の快適さを追求している柔軟さが、この街を元気にしているのかもしれない。消費活性化のための極意
消費を活性化するために、ジョンソンタウンではどんな販促を行っているのか、というストレートな質問を磯野氏にぶつけてみた。それに対して磯野氏は、「取材を受け入れてPRする程度」と屈託なく答え、中でも一番反響が大きかったのは、「出没!アド街ック天国(テレビ東京)」と笑った。てっきり、広告を出稿したりするなど、街全体をアピールするプロジェクトを行っていると思っていたが、「費用がかかる広告は出していません」とは驚いた。それでも、Facebookでお店の情報を流すといった宣伝活動は欠かしていないという。大変でも毎日1回は更新し、社員持ち回りで続けているとフォロワーも増え、拡散効果が出てきたそうだ。1回の大きな広告よりも、スタッフの毎日の努力がこの人気スポットを支えている。
ただ、磯野氏はこんな悩みを口にする。「新しいお客さんが多くなってきて、最近はインスタ映えするということで写真だけを撮りに来る方も増えています」。テナント側にとってはお金を落とさない来訪者が増えるのは死活問題だ。一方の観光客の立場に立つと「いつ行っても閉まっているよね」と言われることが悩みのタネでもある。ジョンソンタウンには趣味の延長でやっているお店も多い。「みなさん自由な雰囲気で営業されていて、不定期で休むお店もありますし、大型商業施設のようにきちっと時間通りにやっていません。そんなところもここの魅力だと言ってくれる方も大勢いるのですが、店舗をやるからにはちゃんと時間を決めてやらなきゃダメだよねというご意見もあって、ジョンソンタウンとして今後どう考えるかは議論があるところです」と困惑する。
極端な話、磯野氏からすれば、賃貸住宅物件がすべて埋まれば何も言うことはないだろう。でも、それだけではダメだとわかっているから頭を悩ませる。「ここで商売を営んでいる住民の方々がここで長く商売を続けていくためには、集客のことも頭に入れてやっていかないといけない」と磯野氏。この街に人が訪れるからこそ、ジョンソンタウンが成り立っているということを知っているのだ。
最後に今後、ジョンソンタウンでお店を開きたいという方にメッセージをいただいた。
「客観的にいろんなお店を見てきて感じるのは、地元の方が来ているところは長続きしています。だからリピーターをいかに獲得できるのかが大事なのかなと。最近はうちを観光地と思ってお店を開きたいという方も多いのですが観光客が来るのは週末がメイン。それだけをターゲットにしていると現実はなかなか厳しいと思います。どこでやっても同じですが、立地やヒト任せにするのではなく、お店自体が主体的に魅力のある商品やサービスを出して営業努力をしていくことが、お店をやる上での絶対条件ですね」。
本来は商業施設という位置づけではなかったことから明確な販促手法もない。磯野商会が独自のスタイルでテナント管理をしてきた。この街の特徴はビジネスライクではなく人情型の「ご近所付き合い」があること。管理会社とテナント、住民同士、経営者同士、さまざまな立場の人が横の繋がりを保ちながら自由な雰囲気のなかで商売をやれていることがこの街全体ののんびりとした空気感、そして、居心地の良さを育み、個人経営者にとっては商売しやすい街になっているのかもしれない。今後もこの街がどんな発展をしていくのか、注目していきたい。ジョンソンタウン
埼玉県入間市にある、米軍ハウスと呼ばれる平屋のアメリカン古民家と、平成ハウスと呼ばれる現代的低層新築住宅が、樹々の間に点在して建っている自然豊かなレジデンスプレース。映画やドラマのロケ地として使用されたり、さまざまなメディアに登場し、近年人気を集めている。
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