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パワハラ防止法が事業者に与える影響は?義務化された措置や就業規則の注意点を解説

パワハラ防止法が事業者に与える影響は?義務化された措置や就業規則の注意点を解説

2019年に改正された「労働施策総合推進法」。企業が講ずべきパワーハラスメントの防止措置を規定したことから、パワハラ防止法とも呼ばれています。2022年4月からは、中小企業も措置義務の対象に。従業員を雇う飲食店の経営者にも、法律の理解と防止措置の徹底が求められるようになりました。

そこで本記事では、条文で示されたパワーハラスメントにあたる行為や、飲食店の経営者がとるべき対策について、法改正の背景などを交えながら解説します。

2022年4月からパワハラ防止措置が中小企業も義務化

2019年5月に改正されたパワハラ防止法(労働施策総合推進法)。2020年6月には大企業に対してパワーハラスメントの防止措置を講じることを義務付け、2022年4月からは中小企業にも防止措置の実施義務が課されることとなりました。

■なぜパワハラ防止法は改正されたのか?

パワハラ防止法の改正が行われた背景として、企業が実施するパワーハラスメント予防に関する取り組みが十分でないことが挙げられます。なかでも大きな問題となっているのが、中小企業におけるパワハラ防止措置の実施状況です。

厚生労働省が平成28年度に行った実態調査によると、従業員99名以下の企業のうち、パワハラに関する措置を講じている企業の割合は26%。従業員1,000名以上の企業の実施割合である88.4%と比べ、非常に低い値を記録しています。

多くの企業でパワーハラスメントを防ぐための措置が不十分である状況を鑑みた結果、労働施策総合対策推進法は改正され、パワハラ防止措置は企業が行うべき必須の取り組みとなりました。

■パワハラ防止措置の義務化によって事業者に求められるもの

パワハラ防止法は、どのような行為がパワハラにあたるのかを初めて定義したほか、パラハラ防止のための社内ルールや相談体制の整備、被害者へのケアや再発防止などを義務づけています。

パワハラにあたる行為はどの業種でも発生しうるものであり、飲食業界においても例外ではありません。すべての事業者がパワハラ防止措置を義務化されたいま、事業主は積極的にパワハラ防止に取り組み、パワーハラスメントを未然に防ぐことが求められています。

パワーハラスメントにあたる行為とは?

■パワーハラスメントの定義

そもそも、パワーハラスメントとはどのような行為を指すのでしょうか? 厚生労働省が発表したガイドラインでは、以下3つの要素をすべて満たす行為を職場におけるパワーハラスメントと定義しています。

1.優越的な関係を背景とした言動
2.業務上必要かつ相当な範囲を超える
3.労働者の就業環境を害す

わかりやすい例を挙げると、店長と店員といった優越的な関係がある中で、店長が店員に対し必要以上の命令や叱責をし、店員が身体や精神に支障をきたした場合、パラーハラスメントに該当する可能性があります。

円滑な業務の遂行や、安全のための範囲内であれば問題はないとされていますが、明確な線引きはありません。職場において優越的な立場にある人は、自身の言動や行動が本当に必要なものか、高慢な態度で接していないか常に注意を払う必要があります。

なお、優越的な関係とは必ずしも店長と店員といった上下関係だけを指すわけではありません。場合によっては店員同士であっても、店員から店長に対してでも優越的な関係は成立します。事業主は、当事者への聞き取りはもちろん、組織全体の関係性を把握した上で慎重な対応が求められます。

■代表的なパワーハラスメント行為の6タイプ

厚生労働省は、パワーハラスメントにあたる代表的な行為として、以下の6タイプの行為を提示しています。

1.身体的な攻撃
殴る蹴るといった行為にあたるのが、身体的な攻撃です。身体的な攻撃の範囲には、個人への直接的な暴力のほか、相手がケガをする恐れのある物投げなども含まれます。

2.精神的な攻撃
精神的な攻撃の具体例としては、人格や趣味嗜好を否定するような言葉や、プライバシーに過度に立ち入る言動などが挙げられます。相手を過度に萎縮させるような叱責や、威圧的な態度も精神的な攻撃にあたる行為です。

3.人間関係からの切り離し
従業員間でのいじめや仲間はずれは、「人間関係からの切り離し」としてガイドラインで禁止されています。特定の従業員を無視する、全員にレクチャーする業務内容を教えないなども、パワーハラスメントにあたる可能性が高い行為です。

4.過大な要求
過大な要求とは、従業員に対して業務とは関係のない雑務や、個人の力量では対応不可能な職務を課す行為を指します。どのような要求を過大とみなすかは、従業員と第三者の判断が大きなウエイトを占めることに留意しましょう。
「従業員に技術を向上させてほしい」という思いでレベルの高い業務を任せた場合も、パワーハラスメントとして問題になるリスクが存在します。

5.過小な要求
過大な要求を避けるあまり、低すぎるレベルの業務のみを与えた場合、過小な要求としてパワーハラスメントに該当する恐れがあります。
事業主は、特定の従業員にだけやりがいのない業務を与える、意図的にシフトを入れないといった行為を避け、それぞれの能力に相当する業務を与えるようにしましょう。

6.個の侵害
個人の性格やアイデンティティ、性的指向や既往歴など、個人のプライバシーを本人の了承を得ずに周囲に知らせる行為が個の侵害に該当します。個人に関する情報は従業員間の会話の中で流出する恐れもあるため、事業主の意識だけでは個の侵害を防ぐことは難しいでしょう。
パワーハラスメントをなくすには、全従業員がパワーハラスメントの定義を理解し、プライバシーに踏み込まないよう注意を払う必要があります。

飲食店経営者はどのような対応をすべきか

パワーハラスメントを予防するために、飲食店の経営者はどのような対策をとればよいのでしょうか? 厚生労働省が発表したパワハラ防止法に関するガイドラインには、中小企業の事業主が行うべき措置として、

1.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
4.併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

の4つが明記されています。
義務付けられた上記4つの措置を踏まえたうえで、事業主がとるべき具体的な対策をご紹介します。

■相談体制の整備

パワーハラスメントに関する相談体制の整備には、第三者機関との連携や、匿名でのアンケート調査の実施などが含まれます。また、適切な相談体制を構築するためには、相談対応に応じる内部スタッフの育成や、相談者の個人情報が保護される組織づくりも必要です。
事業主には、研修を実施するなどの対策を行い、全従業員のパワハラに関するリテラシーを高めることが求められています。

■就業規則の改定・追記

中小企業の事業主は、パワハラ防止法で義務付けられている措置を適切に実施するために、企業の就業規則内に
・パワーハラスメントにあたる具体的な行為
・ハラスメントを行った者に課す懲戒処分の内容
・ハラスメントを相談・告発した者に対して不当な取り扱いをしない旨の誓約

といった事項を明記しなければなりません。
また、従業員にとって理解しやすい形で情報を伝達するために、ガイドブックやマニュアルなど、就業規則以外の文書を作成することも推奨されています。

■ハラスメントの原因となる諸問題の解消

ハラスメントの原因となりうる諸問題には、過度な心理的ストレスや希薄な信頼関係などが挙げられます。職場に内在する問題を早期に発見し、対策をとることは、パワーハラスメントを防ぐ有効な手立てのひとつです。

厚生労働省は、諸問題を解消する具体的な方法として、
 ・定期面談によるストレスマネジメント
 ・コミュニケーションの円滑化を図るための研修や交流会の開催
 ・職場環境の改善

などの対策を提示しています。

■ハラスメントに関する相談・告発への迅速な対応

飲食店の経営者らは、従業員からパワーハラスメントに関する相談や告発があった場合、迅速な事実確認や、被害者への救済措置を行わなければなりません。しかし、加害者に対する懲戒処分や、再発防止のための取り組みなど、とるべき対応の内容は多岐にわたります。
素早い対応をとるためには、社外窓口や専門スタッフで構成された委員会など、必要に応じて第三者機関の手を借りることも有効です。

防止措置を怠った場合はどうなる?

パワハラ防止法の条文では、パワハラ防止の措置を怠った事業主に対する罰則は規定されていません。しかし、パワハラ防止法第41条には、厚生労働省からパワーハラスメントの防止措置に関する報告を求められた際に報告をしない、もしくは虚偽の事実を告げた事業主に対しては、20万円以下の罰金を科すと明記されています。
加えて、厚生労働大臣は、大臣が行った助言や指導、勧告に従わなかった企業の名称を公表することが可能です。

また、万が一企業内でパワーハラスメントが発生した場合、事業主に対して高額な慰謝料が課されるリスクがあることも忘れてはなりません。過去には、飲食店の店長が長時間労働とパワハラによって自殺したことにより、経営陣に5,000万円を超える損害賠償が請求された事件も起こっています。

賠償請求や企業名の公表によるイメージダウンを避けるためにも、店舗の経営者はパワーハラスメントの防止措置を入念に講じる必要があります。

パワハラ防止法を理解して、働きやすい職場をつくろう

企業が講じるパワーハラスメント対策を規定したパワハラ防止法。中小企業の防止措置の義務化により、事業者にはより重い責務が課されるようになりました。措置を怠った場合、パワーハラスメントが発生する可能性が高まるだけでなく、厚生労働省による指導勧告の対象となるかもしれません。

措置の不履行によるリスクを避け、事業主と従業員双方が安心して働ける職場をつくるために、適切な防止対策を実施しましょう。

ライター:磯部美月(ライター・NPOスタッフ)

ライター業の傍ら、認定NPO法人にて親子支援に携わっている。複数の社会福祉法人での勤務を経て、現在のNPO法人へ就職。ライターとしては、法律系の記事やグルメリポートの執筆を行う。

この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント

○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。

○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。

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