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全国・海外から約1500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
バンドをきっかけにお客さんと良好な関係を築く電器店
もうずいぶん前、このコラムの前身である日経MJの連載コラム『招客招福の法則』で、地方のある電器店の取り組みを紹介したことがある。その電器店主の趣味がドラムなのだが、仲間内で結成したビッグバンドの地元での演奏がきっかけで、新しいお客さんが増えたというものだ。それから約15年が経ち、最近店主に現状をお聞きする機会があった。すると、この話は大きく育っていた。
店主らがバンドを結成したのは2005年のこと。バンド名は「〇〇(店主の苗字)電器楽団」。店主は当バンドの団長。店の屋号も「〇〇(店主の苗字)電器」ゆえ、彼が宣伝のために結成したバンドのように見えるが、そうではなく、たまたまこうなったものだ。その彼もドラムには10年以上のブランクがあり、当初は決して「上手い」とは言えない演奏ぶりだった。
私が彼から初めて楽団の話を聞いたのは2007年。そのときすでに地元で3回の演奏を行っていたが、それを聴いた方が「あのバンドを率いている彼なら大丈夫だ」などと謎な(?)理由で来店するようになり、その後も同様のことが続いていた。
そして時は経ち、2022年。当時バンドがきっかけで来店したお客さんらとは、その後も良い関係が続き、様々な家電品などをご購入いただいている。バンドの方も、地元や近隣の町のイベントに頻繁にお声がかかるようになり、それがまた地元のケーブルテレビなどで流されることもあって、今では近隣の町にまですっかり知られるようになった。そして商売の方、電器店はと言うと、どの町にも昔からある電器店でありながら――今このような業種は一般的に厳しい経営状況だが――堅調な業績を保っている。
自分が愉しいと感じるもので既存客との絆を育む
少し時を遡るが、2018年に彼からいただいた報告に、同店の70周年記念イベントの話があった。お客さんへの感謝として開催したこのイベント。普通電器店やお店の周年記念と言えば、記念セールを行い、期間中にいかに売上ができるかと考えるものだが、彼は違った。店からすべての商品を撤去して、記念コンサート(もちろん主役は電器楽団だ)を行った。その日、実に大勢のお客さんが訪れ、メッセージが寄せられ、店はお祝いの花で埋まった。そしてこの前後の期間、一切の売り色を出さなかったにも関わらず、売上は前年比165%だった。
自分が愉しいと感じるものを糧として、既存客と深くつながり、地域と広くつながり、心豊かな絆を育み続ける。それを盤石な基盤に商売を長く愉しく続ける。今日の商売の、理想の姿のひとつではないだろうか。
〇執筆者
小阪裕司(こさかゆうじ)
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。- NEW最新記事
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