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コロナウィルス禍によって日本の外食業界は、かつて経験したことのない経営危機に追い込まれた。コロナの影響と無縁の業種業態は存在せず、客数激減によって事業存続の瀬戸際に立たされている店も少なくない。しかし一方で、この厳しい状況にあっても常に前向きな姿勢を崩さず、コロナ後の「ニューノーマル(新しい日常)」を見据えて新しい展開に取り組む店や企業も存在する。
その中から新しい時代に対応できる外食の姿も見えてきた。そうした事例を取り上げつつ、ポスト・コロナの時代に求められる外食像を探ってみよう。積極的な外食ニーズを摑むことが大事
外出自粛の広がりによってもっとも厳しい状況に追い込まれているのが居酒屋だ。
影響が長引くなか“脱・居酒屋”を図る企業も多いが、とりわけ積極的な動きを見せているのが業界大手の一角、ワタミ㈱である。5月から展開をスタートした焼肉食べ放題「かみむら牧場」は、1号店の京急蒲田第一京浜側道店が85坪126席で月商3000万円ペース。集客の柱は焼肉をはじめ68~100品の料理が食べ放題のコースで、鹿児島で和牛肉の生産を手掛けるカミチクグループのマーチャンダイジング力を生かし、A4ランクの肉を含む「和牛マニアコース」を3980円というお値打ち価格で提供する。商品力に加えて注目すべきは回転ずしでお馴染みの「特急レーン」を商品提供に活用している点。この装置の導入が人件費圧縮の柱となるとともに、スタッフとお客の接触を極力避ける感染防止対策にもつながっており、コロナ後の消費者ニーズを明確に見据えた業態といえる。
焼とりチェーン大手の㈱鳥貴族が打ち出した新業態が「大倉家」。6月1日に同社の本拠地である大阪・旭区にオープンしている。ワタミが脱・居酒屋を図っているのに対して、こちらはむしろ原点回帰。同社の創業店である「俊徳道店」を現代風にリモデルした業態で、客席数18席のコンパクトな店だ。同社によれば「一人でふらりと、毎日立ち寄りたくなるような“街角に必ずある”馴染みの店の雰囲気」。メニューは鳥貴族が全品298円であるのに対して、フードメニューは全品150円、ドリンクは同300円。フードメニューで鳥貴族の半額という低価格を打ち出している点も、原点に立ち帰るという考えの表れといえよう。
ワタミと鳥貴族、進む方向は異なるが、共通している点がある。それはメニューのお値打ち度を徹底追求しているということだ。コロナ禍で消費は巣籠りの傾向を強めているが、一方で積極的に外食しようというニーズを摑まなければ未来はない。そういう前向きな考え方こそ不可欠であることを、これらの新業態は明確に示しているといえよう。コロナ禍で消費は巣籠りの傾向を強めているが、一方で積極的に外食しようというニーズを摑まなければ未来はない。そういう前向きな考え方こそ不可欠であることを、これらの新業態は明確に示しているといえよう。
テイクアウトも“新常態”を見据える
一方で、外出自粛によって急増したテイクアウトニーズに応えることも外食業界の大きな課題だ。大手企業から中小、個人店に至るまでさまざまな取り組みがなされている。
中でも注目されるのが、うどんチェーン最大手の「丸亀製麺」である。うどんに適したテイクアウト専用容器で、これまで難しかったうどんのテイクアウト需要に対応しているが、もうひとつのポイントが「体験」を打ち出していること。主力商品のうどんは、店頭販売ではなく、あえてオーダーレーンに並び、目の前で打ちたて、茹でたてのうどんがつくられるプロセスをお客に楽しんでもらう。もともと丸亀製麺は店で粉からうどんをつくるなどライブ感を重視してきたが、それをテイクアウトでも踏襲することで、差別化を図っている。
前出のワタミもテイクアウト業態に力を入れ、唐揚げ専門店の「から揚げの天才」とフライドチキンの「BBQオリーブチキン」の2業態をスタートさせた。とくに前者は1年間で100店を展開するという力の入れようだが、唐揚げは3種類の味つけを用意し、スパイシーな「赤」は注文ごとに辛味噌ダレをからめて提供。もう一つの商品の柱である玉子焼きも店段階で仕込むなど、「店でつくる」という外食ならではの価値を重視している。
テイクアウト市場では小売業という強大な敵が存在する。商品づくりや提供法にとどまらず、販促といった細かな対策でそれらと差別化を図ることも大切だ。その点で注目したいのが茨城で和食店を展開する㈱丘里の取り組み。同社では釜飯用の器でつくる「かまどプリン」が人気商品で、これをテイクアウト販売しているが、容器を店で返却すると100円をキャッシュバックする特典を設けている。価格は780円だから、割引率にすると約13%。これはお客にとって大きな魅力のようで、返却率は5割にのぼるという。そもそも外食はリピーターによって支えられているビジネスだが、テイクアウトではとりわけそれが重要。いかに「繰り返し使ってもらう」店になるかが、これまで以上に外食に問われているといえよう。さらに重要度を増す「装置の活用」
コロナ禍であらためて見直されているのが「装置」の持つ力だ。これまでも外食業界ではさまざまな機器やツールによって作業の効率化や生産性向上が図られてきたが、ポスト・コロナの新しい生活様式に対応するという観点からも装置の活用が不可欠になってきた。
その最たるものがタッチパネル式の注文端末だろう。以前からサービスの効率化とスピードアップのため導入が進んできたが、人と人の接触を避けるという感染対策の面で注目されている。
牛丼の「吉野家」が導入を加速させているし、㈱松屋フーズのようにこの装置を核にした新業態(中華の「松軒中華食堂」や回転ずしの「すし松」など)を開発している例もある。前出のワタミの「かみむら牧場」もタッチパネル端末が鍵となっている業態だ。
また、QRコードを読み取ることでお客のスマートフォンをオーダー端末として利用する「モバイルオーダー」もさまざまなサービスが登場している。お客にとって便利なことに加え、商品の売れ筋動向を即座にデータ化したり、オーダーから提供までの時間を計測しやすくするなど店側にとってのメリットも大きい。安心・安全を実現しながら、商品のお値打ち度向上や便利さといったさまざまな価値を提供するのがこのツール。コロナウィルス禍は図らずも、こうした新しいツールやサービスの普及を後押しすることになった。
また、対スタッフという観点からもツールの活用は不可欠だろう。あらゆる産業でテレワークが当り前になっているが、スタッフ間のコミュニケーションをどうとるかが大きな課題になっている。外食においてもそれは同様で、店長会議をはじめ意思疎通を図る場を持ちづらい状況だ。その点で、外食企業でこの間導入が進んできた社内SNSなどのツールの重要性はさらに高まるだろう。カフェなどを展開する㈱カフェ・カンパニーは「リモート8割、リアル2割」を掲げて、経営陣からのメッセージや各事業部からの情報発信、業務日報のやりとりやプロジェクト会議、面接など社内のあらゆる対話をリモートコミュニケーションに置き換える取り組みを進めている。こうした事例は今後さらに増えていきそうだ。お客との距離をどう縮めるか
もうひとつ、外食業にとって重要な課題が「デリバリーにどう取り組むか」だろう。ここで問題となるのは宅配コストで、多くの店が利用しているUber Eatsをはじめとするデリバリーサービスは配送手数料が高く、売価に上乗せするか店側の利益を削るかの選択を迫られる。かといって自社配送で対応するのもコスト負担が大きいうえに、急増するデリバリー需要にスピーディに対応しづらい。
これまで自社配送体制をつくってきた㈱すかいらーくもデリバリーサービス大手「出前館」との提携を進めているし、前出「から揚げの天才」で宅配を積極展開するワタミも自社配送体制を整えつつ、当面は複数のデリバリーサービスを併用する考えを示している。また、「丸亀製麺」などを展開する㈱トリドールホールディングスが、実店舗を持たないデリバリー専門のゴーストレストランを運営する(株)ゴーストレストラン研究所に出資し事業の可能性を探るなど、デリバリー参入に向けた外食企業の動きが目立っている。
コロナで厳しい経営状況にあるなか、宅配コストは売価に反映させざるをえないが、そこで重要なのは価格に見合う価値を提供できるかどうかだ。商品の中身だけでなく、サービスをはじめとして細かな取り組みも大切だろう。配送時に崩れにくい盛りつけにする、料理がしっかり収まるような容器を導入するなど。食べる直前にかけるソースを別添えで付ける、再加熱する場合は適切な加熱方法や時間についての説明書きをつけるといったことも考えられよう。これらは配送を外注していても取り組むことができる商品価値向上策だ。
コロナウィルス禍によって外食は、物理的にも精神的にも「お客に近づく」ことが求められている。これは“密”になることではもちろんなく、お客のニーズにきめ細かく対応するという意味だ。そうした観点からみた「お客との距離」をどれだけ縮められるかが、店の競争力に直結することは間違いないだろう。この記事の監修
株式会社柴田書店/株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。- NEW最新記事
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