飲食店開業にあたって欠かせないのが、「飲食店営業許可」の取得です。飲食店営業許可は管轄の保健所の審査を通過して得られるもので、基本的に店で調理を行った食品を販売する場合には、必ず取得しなければなりません。
また、飲食店営業許可の取得は食品衛生法で定められており、違反をした場合2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられてしまいます。
ここでは、そんな飲食店営業許可を取るための条件や手続きの流れ、注意点について解説していきます。
飲食店営業許可を取得するための条件は大きく2つ
飲食店営業許可を取得するためには、大きく分けて「人的基準」と「設備基準」の2つの条件を満たす必要があります。以下でそれぞれについて詳しくみてみましょう。
・人的基準:申請者が欠格事由に該当しない・専任の食品衛生責任者を置く
人的基準は、「欠格事由に該当していないこと」「専任の食品衛生責任者を置くこと」の2つです。
前者の「欠格事由」というのは、許可を申請する人(法人の場合は役員の全員)が過去に食品衛生法違反で処分を受けたり、飲食店営業許可の取り消しを受けてから2年が経過していないことを指します。これらの処分を過去に受けていたとしても、2年が経過していれば問題ありません。
次に「専任の食品衛生責任者を置くこと」ですが、食品衛生責任者とは、その名のとおり店舗において食品衛生法違反を起こさないように衛生管理を行う人のことです。食品衛生責任者の資格は食品衛生協会が開催する講習を1日受けることで取得できます。また、既に調理師免許や栄養士の資格などを持っている人であれば、講習を受けずに食品衛生責任者になれます。
ただし、食品衛生責任者は店舗ごとに一人ずつ専任で置く必要があるため、独立する場合や複数の店舗を営業する場合などには注意が必要です。
設備基準は細かく項目も多い!東京都における代表的な条件を紹介
設備基準では、主に下記のような項目が挙げられます。
保健所によってその数や内容は多少異なりますので、細かい内容については管轄の保健所にあらかじめ確認を取っておきましょう。ここでは東京都における代表的な条件を例に、各項目の概要をご紹介します。
【調理場と客席が分かれていること】
調理場と客席は分かれている必要があります。ウエスタンドアやカウンターなど、空間は完全に分かれた状態になっていなくても構いませんが、客席エリアに調理場所を作ったり、客席エリアに食材を置いたりすることは認められません。
客席に置いてある冷蔵庫に食材が入っていることも本来は認められませんが、瓶飲み物など、ケースに入った状態であれば認められることもありますので、該当する場合は事前に保健所に確認しておくとよいでしょう。
【調理場の床材は耐水性であること】
調理場の床材は耐水性のものを使用し、かつ緩やかに勾配がついている、排水溝があるなど、水はけのよい構造であることが求められます。
【調理場の壁や天井が掃除しやすいこと】
壁や天井が平滑で掃除しやすい材質であることが求められます。床の掃除に水を使用する場合は、壁材を床から1m以上耐水性のものにする必要があります。
【規定の手洗い設備があること】
調理場とトイレ内には、それぞれ一つずつ従業員用と客用の手洗い設備を設置する必要があります。手洗い設備の大きさは幅36㎝×奥行28㎝以上で、備え付けの消毒設備があることも条件です。
神奈川県内の保健所などでは、トイレの他にももう一つ、客席側に手洗い設備を設置することを求めるケースもあります。
【蓋つきのゴミ箱であること】
調理場内のゴミ箱は最低1つ、蓋つきのものである必要があります。また、材質は食材の汁などが漏れないものとなっています。
【シンクが2槽以上あること】
シンク(流し)は幅45㎝×奥行36㎝×高さ18㎝以上のものが2槽あり、さらに水専用とお湯専用の独立した蛇口があり、それぞれのシンクに水とお湯が注げる構造が望ましいとされています。大きさについては厳密ではない場合もあるため、こちらも事前に保健所に確認しておくと安心です。
【温度計が設置された冷蔵庫があること】
店舗で使用する冷蔵庫は、庫内の温度が分かるようになっている必要があります。業務用の冷蔵庫の場合は外から温度を確認できますが、家庭用の冷蔵庫を使用する場合は、外部から庫内の温度が分かるように隔測温度計を設置するとよいでしょう。
【扉のついた食器収納があること】
食器を収納する棚には扉が必要となります。これは食器に埃が付くことを防ぐためで、扉の材質に指定はありません。
【給湯器があること】
実際の調理には鍋でお湯を沸かして使う場合でも、お湯を出すための給湯器が必要となります。おおよそ60℃くらいのお湯が出ることが望ましいでしょう。ぬるいお湯しか出ないような場合は保健所に確認しておくことをおすすめします。

営業許可申請までの5つのステップ
実際に営業許可申請を行うにはどのような手順を踏めばよいのでしょうか。ここからは、その大まかな流れをご説明します。
なお、営業許可申請を行う場合は保健所へ手数料を納める必要があります。手数料は保健所によって異なりますが、16,000円~19,000円程度のところが多いでしょう。
1. 申請前に保健所で事前相談
営業許可申請を行う前には、保健所に事前相談をする必要があります。タイミングとしては内装工事の前がよいでしょう。
事前相談には設計図面など店舗内部の様子がわかるものを持参します。図面上で設備基準に適合しているかどうかのチェックをしてもらうことで、スムーズに申請ができるのです。
2. 必要書類を用意して営業許可申請
内装工事が完了する約10日前までに必要書類を提出します。手数料はこの際に納めることになります。自治体によって異なりますが、必要となるものは主に以下の6つです。
*営業許可申請書
*施設の大要・配置図
*登記事項証明書(法人の場合)
*食品衛生責任者設置届
*食品衛生責任者であることを証明するもの(食品衛生責任者手帳など)
*水質検査成績書(井戸水や貯水槽の水を使用する場合)
3. 施設検査についての打ち合わせ
担当者と施設検査の日程などについて打ち合わせを行います。
4. 店舗の設備などを見る施設の確認検査
あらかじめ決めておいた日程に施設の確認検査を行います。店舗の設備などが管轄の保健所が定める基準を満たしているかどうかの確認をします。確認検査では、店舗のオーナーもしくはその代理人の立ち合いが必要です。
5. 営業許可書の交付
営業許可が下りると、保健所より「営業許可書交付予定日のお知らせ」が郵送されます。営業許可書交付予定日になったらこのお知らせと認印を持参し、保健所で営業許可書の交付を受けましょう。
営業許可申請を行う前にはこの2つに注意
営業許可申請を行う前には、上述のとおり申請を行う人が欠格事由に該当していないことはもちろんのこと、次の2点にも注意しましょう。
水質検査が必要かどうかの確認をしておく
もし対象の店舗が井戸水や貯水槽の水を使用する場合には、水質検査を行い、営業許可申請時に「水質検査成績書」を提出する必要があります。テナントを借りる際には、使用する水がどこから使われているのかを確認しておきましょう。
上水道を使用する場合は水質調査の必要はありません。
許可が下りる前に営業を始めると食品衛生法違反に!
営業が可能になるのは、実際に営業許可が下りてからとなります。「先に開店して店が落ち着いてから許可を取ろう」といったように、許可が下りる前に営業を始めてしまうと、たとえ数日であっても食品衛生法違反となりますので注意が必要です。
飲食店営業許可の取得は余裕をもって慎重に行う
飲食店の営業許可を取るにあたって、自己判断は禁物です。特に設備については、少しでも不安があれば保健所の担当者に確認を取りましょう。また、営業許可の取得が間に合わずオープン日を延期するといった事態を避けるためにも、余裕をもって準備を行うことが大切です。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
