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食べ残しを持ち帰る「ドギーバッグ」飲食店がサービスを始めるメリットは?

食べ残しを持ち帰る「ドギーバッグ」飲食店がサービスを始めるメリットは?

世界的に大きな社会問題となっている食品ロス。売上・利益の損失や廃棄費用の負担につながることから、飲食業界においても長年の課題となっています。そんな中、食品ロス問題に貢献する1つの取り組みとして、食べ残した料理の持ち帰りサービスを始める飲食店が少しずつ増えてきました。
この記事では、飲食店にとってのメリットやデメリットは何なのか、導入時の注意点や導入事例も交えて解説します。

日本の食品ロスの現状

食べ残しや売れ残りなどの理由で、本来食べられるのに廃棄されてしまう日本の食品ロス量は、年間570万トン(2019年度推計値)にも及びます。日本人1人当たりの食品ロス量は年間で約45kg。この量は、日本人1人当たりが毎日お茶碗1杯分の食品を捨てていることに値するといわれます。
年間570万トンの食品ロス量は、事業系食品ロス(309万トン)と家庭系食品ロス(261万トン)に分かれ、事業系食品ロスはさらに以下の4業種に分類できます。

食品製造業:128万トン
食品卸売業:14万トン
食品小売業:64万トン
外食産業 :103万トン

外食産業から発生する食品ロス量は、全体の約2割を占めており、その主な要因は飲食店における食べ残しといわれています。食べ残しを減らすための工夫やメニュー設定が必要とされており、食べきれなかった料理の持ち帰りサービスを実施する飲食店も増加傾向にあります。

外食時の食べ残しの持ち帰り事情

世界では当たり前の「ドギーバッグ」

アメリカやヨーロッパの多くでは食べ残しの持ち帰り文化が浸透しており、高級レストランでも、スタッフ側から「持って帰る?」と声をかけられることも。また、食べきれないほどの料理でもてなすことが美徳とされる中国や台湾では、持ち帰りのことを「打包(ダーバオ)」と呼び、当たり前の習慣となっています。
料理を持ち帰る際の必需品が「ドギーバッグ」と呼ばれる、残った料理を持ち帰るための容器です。英語ではdoggy bag(またはdoggie bag)と表記され、元々は家で待つ愛犬に分けてあげるという名目で、料理を持ち帰ったのが始まりとされています。最近では「box」「to-go box」と呼ばれることもあります。

日本でも徐々に浸透中

一方、日本においては、食べ残しの持ち帰りを実施している飲食店はまだまだ少なく、ドギーバッグという言葉もまだまだ浸透していないのが現状です。テイクアウトやデリバリーはOKでも、食べ残しの持ち帰りはNGという飲食店が多く、その理由として挙げられるのが、食中毒などの衛生面を危惧する声です。
そこで、消費者庁、農林水産省、環境省、厚生労働省の4省庁では、食べ残しの持ち帰りに関するガイドラインを制定。食品衛生面に留意した上で、食べ残しの持ち帰りサービス(ドギーバッグ)を導入することを推奨しています。
そうした国からの後押しもあり、大手外食チェーンが食べ残しの持ち帰りサービスを始める動きも。少しずつではありますが、日本でも食べ残しの持ち帰り文化が浸透し始めています。

食べ残しの持ち帰りサービスを導入するメリット

食品ロス問題・地球環境問題への貢献

前述のように、外食産業から発生する食品ロス量は全体の約2割にも及び、食品ロス問題の解決に向けて、各飲食店の取り組みが求められています。また、食品ロス量を減らすことで、食べ残し(生ごみ)の焼却によって排出されるCO2を削減することにもつながります。

仕入れコスト・廃棄コストの削減

食べ残しによる食品廃棄量が減ることで、結果的に食材の仕入れコストが下がるとともに、利益アップにもつながります。また、これまで発生していた廃棄にかかる費用・手間も削減可能です。

他店との差別化

食べ残しの持ち帰りサービスを実施している店はまだまだ少ないことから、他店に先立って導入することで、他店との差別化が図れます。集客・来店のきっかけにつながる上、自店舗の取り組みを上手くアピールすることで、メディアに取り上げてもらえたり、SNS上で反響が得られたりする効果も見込めます。

食べ残しの持ち帰りサービスを導入するデメリット

食中毒などのトラブル発生リスク

しっかりとした衛生管理のもと調理・提供した飲食物であっても、お客様の取扱・保存状態によっては食中毒などのトラブルが発生する可能性があります。特に夏場は食品の腐敗が進みやすく、生ものや加熱が不十分な料理も変質の危険が伴います。

ブランドイメージ低下のリスク

持ち帰った料理は、店舗で食べるよりも当然味が落ちてしまいます。持ち帰りを行った本人以外がその料理を口にすることで、マイナスイメージを与えてしまう可能性も。
また、高級店の場合には、料理をドギーバッグに詰めて持ち帰ること自体がブランド価値を下げてしまう恐れがありますので注意してください。

食べ残しの持ち帰りサービス導入時の注意点

まずは、料理の食べきりを推奨

まずは大前提として、お客様に食べ切れる量を注文してもらう工夫、食べ残しが出ないようにする施策を講じましょう。その上で、希望者には自己責任でドギーバッグに詰めてお持ち帰りいただくという流れにすることをおすすめします。工夫・施策の具体例としては、以下が挙げられます。

・小盛りや小分けメニューを導入する
・ご飯のサイズ(大・中・小)を選べるようにする
・メニュー表に料理写真を載せ、量の目安(何人前)を記載する
・客層を見て、料理を出すタイミングを調整する
・大人数での宴会・パーティーの場合、料理を全て食べ切ったらサービス券を配付するなど、食べきることにインセンティブを持たせる

食べ残しの持ち帰りはあくまで自己責任で

あくまでお客様の自己責任で持ち帰りいただくこと、食中毒リスクがあること、衛生上の注意事項をお伝えし、持ち帰り後の品質管理を徹底してもらうことが必要です。ドギーバッグを店舗側が準備する場合でも、料理を容器に詰める作業はお客様に行ってもらうルールとするのが好ましいでしょう。

食中毒を防ぐためのルールを徹底

消費者庁、農林水産省、環境省、厚生労働省が発表している「飲食店等における『食べ残し』対策に取り組むに当たっての留意事項」を参照し、以下のような食中毒を防ぐためのルールを徹底してください。

・刺身などの生ものや半生など、加熱が不十分な料理は持ち帰り不可とする
・外気温が高い時期は持ち帰りを休止するか、保冷剤を提供する
・料理を詰める際は、手を清潔に洗ってから、清潔な容器・箸を使用する
・水分はできるだけ切り、残った料理が早く冷えるよう浅い容器に小分けする
・長時間の持ち運びは避ける
・持ち帰った料理は、当日中にできるだけ速やかに食べてもらう
・匂いや味に異変を感じた場合は食べない
・必ず再加熱してから食べてもらう

参考「飲食店等における『食べ残し』対策に取り組むに当たっての留意事項」

持ち帰りサービス実施の告知も重要

日本ではまだまだ導入事例が少ないことから、食べ残しの持ち帰りサービスを実施している旨をしっかりと告知することも大切です。ポスターやPOPを店内に掲示したり、SNSやホームページで発信したりと、お客様にサービスを認知してもらいましょう。

食べ残しの持ち帰りサービスの導入事例

環境省では、外食時の食べ残しを持ち帰る「mottECO(モッテコ)」という食品ロス削減アクションを推進しています。ここでは、mottECOアクションと連動した食べ残しの持ち帰りサービスの導入事例をご紹介します。

ロイヤルホスト、デニーズ

ファミリーレストランの「Royal Host(ロイヤルホスト)」と「Denny’s(デニーズ)」では、2021年5月18日から食べ残しの持ち帰りサービスを実施しています。対象店舗は2021年10月現在、全国のロイヤルホストと東京都内全100店舗のデニーズです。適正な森林管理による木材を使用した『FSC認証紙』で作られたドギーバッグが無料で提供され、お客様自身で料理を詰めて、持ち帰ってもらう方針となっています。

日本ホテル株式会社

首都圏を中心にホテルを展開する日本ホテル株式会社は、2022年4月1日から食べ残しの持ち帰りサービスを実施しています。対象となるのは、東京ステーションホテル、メズム東京、メトロポリタンホテルズ(7ホテル)の計9ホテル。ホテル直営レストランで食べきれなかったコース料理や、宴会場でのブッフェ料理をドギーバッグに詰めて持ち帰ることが可能です。

持ち帰りの促進で、食品ロス問題に貢献!

日本の食品ロス量は年々減少しているものの、まだまだ大きな課題であることに変わりはありません。外食産業から発生する食品ロス量は全体の約2割を占め、主な要因である料理の食べ残しを減らす取り組みは急務となっています。
メリット・デメリットを理解した上で、食品ロス問題に貢献する1つのアクションとして、食べ残しの持ち帰りサービスの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

ライター:上田はるか(フリーライター)

大学卒業後、輸入食品商社に勤務し、新規店舗の立ち上げや自社直営ティーサロンのメニュー開発を経験。その後、大手ギフト会社の企画開発部、広報宣伝部を経てフリーランスに。現在はWEB媒体をメインに、食ジャンルの原稿執筆を行う。

この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント

○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。

○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。

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