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1000回以上の試作と220人以上の試食。究極の「汁なし担々麺」で一品勝負に挑む

試作と試食で商品の完成度を徹底的に上げること。利益を出せるビジネスモデルを考え抜くこと。このふたつが、飲食の開業に失敗しないポイント。

  • 東山 広樹/タンタンタイガー

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近年、多くのクリエイティブな店舗が生まれて話題を集めている、東京の「台東区蔵前」エリア。そこに2016年8月に現れた新星が「汁なし担々麺」の専門店「タンタンタイガー」だ。こちらは「株式会社TOKYO OIL SHOCK」が営む「汁なし担々麺」の専門店。同社代表であり店主である東山氏の個性が色濃く反映された店であり、東山氏と彼の夢に賛同した仲間が1000回以上の試食を繰り返した「汁なし担々麺」が、店のほぼ唯一のメニューとして君臨している。東山氏がこの店に、そして「汁なし担々麺」に懸けた思いは、一体どんなものだったのだろうか?

汁なし担々麺、初めは漫画『美味しんぼ』のレシピから

ーー東山さんが「汁なし担々麺」の専門店を開業しようと考えた経緯を教えてください。
きっかけは僕が中学2年生の時、両親が共働きになって、夏休みに毎日500円を渡されたことでした。「それでお弁当を買いなさい」という意味だったんですけれど、食べ盛りだったので、全然足りなくて。「自分で作れば、500円でもお腹いっぱい食べられるのでは?」と思ったのが、料理に目覚めたきっかけです。そこからものすごい勢いで料理にハマりました。毎週のように両親に料理を振る舞っていましたし、高校生の時には、合羽橋で買った、自分専用の中華鍋も持っていました。

中高生の当時に作っていたのは、ほとんどが中華かパスタでした。汁なし担々麺も作っていましたね。当時読んでいた漫画『美味しんぼ』の中で担々麺のルーツについての話があって、「汁なしが担々麺の元祖だった」という事実を知って、衝撃を受けたんですよ。最初はそこに載っていたわずかなヒントを頼りに、自分でレシピを起こして作っていました。初めて食べた時には、「めちゃくちゃうまい!!」って感激しましたね。多分、今食べたら全然美味しくないんでしょうけれど(笑)。

汁なし担々麺、初めは漫画『美味しんぼ』のレシピから

ーーその後、すぐに「汁なし担々麺」の専門店を開業したのではなく農業大学を出られてサラリーマンになったのですよね?
そうなんです。大学は東京農業大学で、食品などの発酵に関する勉強をしていたんですが、社会人としては人材派遣会社の営業職からスタートしました。その仕事も面白かったんですが、「僕はすごく食が好きなのに、全然関係のない仕事をしていていいのだろうか?」って、ずっとモヤモヤしていたんです。

それから、人材派遣の仕事は4年半で辞めて、柴田書店という、飲食関連専門の出版社に入りました。そこなら、いろんな料理人の方にもお話を聞けて、勉強になると思ったからです。その頃、友達と飲みに行って、「出版社に転職して、ブログも始めて、いつかは飲食店を持ちたいんだよね」って話をしたら、その友達は「今やっちゃえばいいじゃん」って言ってくれて。僕はすごく嬉しかったんですけど、そこで、「資金が無いから今は無理」って言い訳をしたんです。

ところがその後、彼と彼の仲間が出資者を集めてくれて、「この資金を使って飲食店を開業しよう」と背中を後押ししてくれたので、「絶対成功させてやる」と覚悟を決めました。

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汁なし担々麺で食材費も人件費も大幅カット!? その真相とは

ーー汁なし担々麺オンリーの店にしようと思ったのはなぜですか?
これにはふたつ理由があって、ひとつは、僕が汁なし担々麺をすごく好きだったということです。もうひとつは、僕は料理人出身ではない「飲食の素人」なので、リスクの少ない方法を取りたかったということです。

リスクを少なくするために、飲食の中でも自分が大学時代にアルバイトをして作り方も知っていた、ラーメン屋でやろうということを決めました。そして、実際のオペレーションをイメージして、「汁なし担々麺ならスープ製造に関わる人件費と食材費を丸々カットできて、ほかの部分により手をかけられる」という結論を得て、汁なし担々麺にすることを決めました。もちろん、出資してくれたメンバーと相談しながら、事業計画書を何度も練り直して、チームで作っていきました。

本音で「美味しくない」と言ってもらう。それが一番必要だった

ーー汁なし担々麺の味の捻出について、工夫された点、苦労された点を教えてください。
汁なし担々麺の味作りに関しては、毎日試作をする、出資メンバーで定期的に試食をする、試作のデータをキッチリと取る、という3つの決まりを作って、何度も試行錯誤を繰り返しました。エクセルを使って表を作って、毎日、麺、具、タレのデータを記録して、少しずつ組み合わせを変えて、検証して、やっと「商品β」ができたのは、試作数が1000回を超えたあたりでした。

不思議なことに、料理って、自分が作ったものは美味しく感じるんですよ。自分で「この汁なし担々麺なら絶対いける」と思ったものでも、ほかの人に試食してもらうと「美味しくない」って(笑)。これには苦しめられました。商品開発の中盤には、何が美味しくて、何が美味しくないのかが全くわからなくなって、「これが商品開発の難しさか…」と思いました。

本音で「美味しくない」と言ってもらう。それが一番必要だった

ーー暗中模索の商品開発。その打開策は何だったのでしょう?
完全に外部の人に向けた試食会を開いたことです。3か月で40回の試食会を開きました。友達にお願いをして、(友達の)友達を何人か集めてもらって、集まっている家にお邪魔して、その場で作って、試食して、という感じで、合計220人以上の人に汁なし担々麺を食べてもらいました。

そこで出したのは「商品β」なんですが、「遠慮せずに本当に正直に言ってください」とお願いして意見を聞くと、最初の頃は「ぜんぜん美味しくない」という声が結構あったんです。ショックも大きかったんですが、その声を参考にしながら毎回改善していくと、だんだん「美味しい」の割合が増えていって、ようやく完成品ができました。

キーワードは「商品開発」と「ビジネスモデル」 これは汁なし担々麺のお店以外にも当てはまること

ーー今後のお店のビジョンを教えてください。
この蔵前のお店を、より安定経営したいです。僕は、趣味の料理と飲食店の違いは、「毎日同じものを出す」という点だと思うんですね。夏でも冬でも、雨の日でも。これって実は、すごく難しいことなんです。夏と冬ではタレの熟成時間も違うし、製麺所から運ばれる麺も毎日コンディションが違います。その微妙な変動をしっかり把握して、「ここの汁なし担々麺はいつ来ても美味しいね」って言われる商品を提供したいです。

キーワードは「商品開発」と「ビジネスモデル」 これは汁なし担々麺のお店以外にも当てはまること

――今後飲食店を開業したいという人に、アドバイスをお願いします。
僕は、飲食店の開業において、大事なことはふたつあると思っています。ひとつは商品開発、もうひとつは、ちゃんと経営をしていけるビジネスモデルを作ることです。

特に商品開発については、必ず毎日やったほうがよいです。できる限り沢山、毎日作ることです。僕のところにも開業の相談に来られる方がいるんですけれど、そういう方って、あんまり試作をされていないケースが多いんですね。商品が完成していないのに、物件を探していますって。それは違いますよね。さらに商品開発もしないで試食会をして、気を遣われて「美味しい、これならいける」って言われて、その気になってしまうのはよくない。
そうならないためには、試作をとことんやって、外部の人に沢山食べてもらって、厳しい意見をちゃんともらって、味を完成させることです。商品を完成させて、お金の流れを計算し尽くして、それから、見合った物件を探す。これが大事なことだと思います。

東山 広樹

東山 広樹

埼玉県出身。中学時代から料理を作り始め、現在もノンジャンルで食知識の吸収と追究に勤しむ「食の求道者」。東京農業大学農学醸造科学科で発酵・微生物等の分野を学ぶ。新卒時に就いたのは人材派遣大手の「株式会社パソナ」営業部。その後飲食関連書籍の出版社「株式会社柴田書店」に転職。柴田書店に在籍中、友人らが東山氏の夢の実現のために開業資金の出資者を集めてくれたことを機に飲食店開業を決意。2016年、出資者とともに「株式会社TOKYO OIL SHOCK」を設立し、「タンタンタイガー」を開業。

タンタンタイガー

タンタンタイガー
東京都台東区鳥越2-2-1

蔵前駅から末広町駅へと至る「蔵前橋通り」沿いにある汁なし担々麺専門店。メニューは「汁なし担々麺」とその派生メニューのみ。辛さと痺れ(中国山椒の量)を選べるほか、トッピングに「パクチー」「パクチーW」「パクチーメガ盛」「トマト」「水菜&豆苗」などがあり、組み合わせ次第で幾通りも楽しめる。麺を減らしてチアシードを加え野菜を2倍の量にした「レディース汁なし担々麺」も女性に支持されている。黒一色の引き締まった店内は「商品を最も美しく見せる」ため。味だけでなく、商品構成、オーダーのし易さ、雰囲気、接客など、細部にわたって計算が尽くされ、老若男女を問わず訪れやすい店となっている。

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