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bean to barチョコレートの専門店。日本の未来のために多店舗展開を目指す
店舗が増えて消費量が増えれば、良質なカカオ豆を作ってくれる世界中の農家とつながっていくことができる
- 山下 貴嗣/Minimal 富ヶ谷本店
自社工房でカカオ豆からチョコレートができるまでの全工程を管理・製造することを指す「bean to bar(ビーントゥバー)」。この分野の先駆け的な存在であるbean to bar チョコレート専門店「Minimal(ミニマル)」の山下貴嗣さんにインタビュー。開業に至った経緯や山下さんが抱く大きな夢などをお聞きしました。
bean to barチョコレート専門店、Minimal(ミニマル)はどのようにして誕生したのか
――近年、チョコレートの世界で「bean to bar」(自社工房でカカオ豆からチョコレートができるまでの全工程を管理・製造すること)という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。その先駆けとも紹介されるMinimalですが、そもそもの開業のきっかけはなんだったのでしょうか。
根本にあったのは、日本の資源を活かして、世界的なブランドを作りたいという思いです。
私は日本がとても好きで素敵な国だと思っていて、この国のためになることで、かつ自分のやりたいことであるものづくりに30~60代という働き盛りの時間を捧げたいと漠然と思っていました。この国の資源をしっかりと活かしながら、外貨を獲得し、この国に生産をもたらす方法をずっと考えていたんです。
では、日本の資源とは何か、と考えたとき、やはり「人」だと思いました。これまでのコンサルティングの仕事を通じて、相手のことを慮ったり、いい意味で空気を読めるという「きめ細やかさ」が日本人の才能、素晴らしい個性なのだと思うようになっていたんです。
このような日本人のきめ細やかさを上手に取り入れながら、イノベーションを起こすものづくりをして、世界中から外貨を獲得できるマーケットを作り出すというビジネスができれば、日本人の良さが広がり、日本にしっかりお金が入る。国内で生産できれば、職人さんなどにしっかり雇用が創出されていくはず。そういう枠組みを作りたいと考えるようになりました。――そのビジョンを実現するために、なぜ、チョコレートでbean to barのブランドを立ち上げられたのでしょうか。
いろいろな選択肢がありましたが、チョコレートというものに出合い、それが私のやりたいと考えていた内容にぴったりとはまったというのが大きいと思います。
コンサルティング会社を辞めた後の2ヵ月間、アメリカやヨーロッパなどへ足を運び、最先端のチョコレート、bean to barの現状を見て、これは日本人が極めて得意な分野ではないかと思いました。カカオ豆は雨季と乾季、それぞれの季節に採れたものを比べると味が異なるだけでなく、1つの農園から同じタイミングで収穫してもどれとして同じ味にはならないんです。農作物ですから。そんな素材を使ってチョコレートを作るということは、和食の「旬」や、素材を活かして調理するという点に通ずるものがある。実際、私たちの店では季節などによって個性の違う素材を活かすべく、カカオ豆を焼くレシピも1分、1℃で調整しながら、チョコレートを作っています。そういった繊細な作業も、「きめ細やかさ」をもつ日本人にとっては得意なことなのではないかと思いました。海外でbean to barに出合い、このように感じていた時に製造担当として今一緒に働いている人間とも出会い、いいタイミングで一緒にやろうという話になったんです。bean to barチョコレート専門店はお客様とのコミュニケーションにも積極的!接客の極意とは?
――山下さんが抱いていたビジョンに合致するbean to barという取り組みに出会い、開業に至ったんですね。現在カカオ豆の仕入れや、お店のラインナップはどうしているのでしょうか。
基本的に呼ばれたらどこへでも行きますが、1年のうち、4~5ヵ月は産地に行っています。創業当初は足を運んでも生産者に相手にされなかったこともありましたが、継続的に産地に行っているので、最近は生産者側から声をかけていただいたり、様々なところから紹介を受けたりという形で、新しい産地にも出向いています。
店のラインアップとしては、まずNUTTY、FRUITY、SAVORYという3つの味のカテゴリを設けて、それぞれのカテゴリにあったものを探しにいき、買い付けするかどうかは、自分たちで独自に作った味の基準に沿って判断します。コーヒーでは産地の国別に商品が並んでいることが多いですが、私たちは味から選べるようにしました。それは、FRUITYにはワインにすごく合うとか、まずお客さまがイメージを持ちやすいようにしたかったからです。この新しいチョコレートがブランドとして歴史を積み重ねて文化になっていく未来を本気で目指しているので、お客さまとのコミュニケーションがしやすいという点にもこだわって、この形にしました。――味で分けられていると、初めて来たお客さまもわかりやすいですし、選ぶのも楽しくなりそうですね。
私たちの店では、全種類が試食でき、カウンター越しに販売しているで、どの場所にいてもスタッフとコミュニケーションをとることができます。ソムリエがワインのおいしさを産地、生産者、味わいから説明してくれるように、パッケージでカカオ豆の生産地の情報、そのチョコレートの作り方、味わいを伝えられるようデザインにもこだわりました。ただ、スタッフには自分で食べて自分が一番いいと思ったものを提案するようにと伝えています。基本的に味わいは人によって変わって当たり前で、口にするシチュエーションも様々のはず。それなら、例えば1,500円のチョコレートなら、スタッフ自身がお金を出して買うだけの価値があるかというところに焦点をあて、考えながら接客をするようにと言っています。win-winよりも「三方良し」。bean to barチョコレート専門店が抱く未来
――確かなビジョンと、お客さまとしっかり向き合うための接客・ツールが、お店の魅力の屋台骨となっているんですね。これからの展望を教えてください。
まずはしっかりと多店舗展開をしていきます。これには2つの理由があって、ひとつはこの新しいチョコレートの文化を作り広めていくために、店舗が必要だからです。たくさんのお客さまに届けることも大事ですが、私たちの思いを届ける人たちを育てていくためにも、1年に1、2店舗は出していきたいと思っています。もうひとつの理由としては、そうすることがチョコレート、カカオの世界を新しくすることにつながっていくと思うからです。店舗が少ないということはカカオ豆の消費量も少ないので、生産者には相手にされません。それに消費量の少ない私たちが、良質なカカオ豆を作ってもらうためにどんな提案をしたとしても受け入れてはくれない。店舗が増えて消費量が増えれば、1つの農家からたくさんのカカオ豆を購入できるし、良質なカカオ豆を作ってくれる世界中の農家とつながっていくことができるはずですから。――生産者と消費者、そしてチョコレートを提供する人々みながwin-winの関係になるということですね。
私としては、エコシステムを作っていると思っています。農家はいいものを作り、私たちはそれを高く買う。私たちはいいカカオ豆が手に入るので、クオリティの高いものを作ることができ、お客さまが買ってくれることで収入を得られる。お客さまは価値あるものを購入して、生活の中で楽しむ。そのいいサイクルが三方良しの輪として広がっていくことがとても大事だと思っています。まだ何もできていないので偉そうなことは言えませんが、この輪が少しずつ広がっていくことで、世界は少しだけ良くなっていくはず。だから、とても意味のあることだと思っています。山下 貴嗣
大学卒業後、コンサルティング会社で新規事業立ち上げなど数々のコンサルティング業務に従事。2014年初めにbean to barに出合い、独立。同年、渋谷区富ヶ谷に「Minimal」を開業し、現在、銀座、白金高輪、東武百貨店池袋店に全4店舗を展開。
Minimal 富ヶ谷本店https://mini-mal.tokyo/
東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9カカオ豆を仕入れ、自社工房でカカオ豆からチョコレートができるまでの全工程を管理・製造する「bean to bar」でチョコレートを販売する専門店として2014年12月にオープン。材料となるカカオ豆は世界中のカカオ農園から直接買い付け、カカオ豆の個性を活かし、カカオ豆本来の味わいや香りを表現することに徹底的にこだわったチョコレート作りを行う。“日本発の世界に誇れるモノづくり”をコンセプトに、チョコレートの世界を新しくするべく、挑戦を続けている。
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