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カレー屋は一日何食売れる?儲かるの?

カレー屋は一日何食売れる?儲かるの?

出張料理人として全国でカレーを振る舞う傍ら、カレー教室の講師やカレー本の執筆、本格カレーを自宅で作れるスパイスセットの通販サービス「AIR SPICE」の代表など、多岐に渡る「カレー活動」で知られる水野仁輔さん。そんな水野さんが中心となり、「俺たち、カレー屋になるわ」という合言葉で集まったメンバーの中から、鹿島冬生さんが東京・戸越にカレー店を開業することに。「カレー屋は儲かるのか?」という永遠のテーマと、開業までの道のりを追っていきます。連載2回目の本記事では、水野さんが有名カレー屋店主から聞いた「儲かる秘訣」とスタイルを貫くジレンマ、そして「間借り営業」という新しい開業プレスタイルについてお届けします。

利益を出すには、売り上げを上げるか・原価を下げるかの二択しかない

利益を出すには、売り上げを上げるか・原価を下げるかの二択しかない

――前回のお話で、「カレー屋が一番儲かる」という意見もあるとお聞きしました。その成功の秘訣は何だったのでしょうか?
水野:「エリックサウス」(八重洲)の稲田さんが言っていたのは、「美味しいカレーが作れるということは、カレー屋として成功するエッセンスの10%に過ぎない」ってことなんです。残り90%は別のことだと言うんですよ。それは接客サービスだったり、店作りだったり、原価の計算やロスを減らす努力、スタッフのローテーションやシフトの設計など、すごくたくさんのことです。カレーが美味しいかどうかは10%でしかなく、逆に言えば残りの90%がきっちりできていれば、例えカレーが美味しくなくても店は成功するって言う。でも、この手の話は飲食業界全体でよく聞くんです。

――極論だと思うのですが、それが「カレー屋が一番儲かる」という夢のある話に繋がるんですね。
水野:それは、うまく利益を出すためのノウハウを手にしてるっていう自信の裏返しでもあると思うんですよ。だって、90%は料理と関係しないって言っているから、その90%に自信があるんだと思うんです。実際、いろんなカレー屋さんを見ていると、彼は「もっとこうやったら利益出るのになぁ、と思うことがたくさんある」って言っていたから。
鹿島:多分、頭では分かっている人はいっぱいいると思うんですよね。それをやるかどうかはその人の気持ち次第というか。

――理論やテクニックは理解しているけれど、実際に取り組むかは別の話なんですね。
水野:多分、ポリシーやスタンスによるんじゃないですか。この話はカレー屋に限らず、ミュージシャンもそう。自分の技術や生み出すもので身を立てている人の多くが抱えている悩みで、みんなが求めていることをやるのか、自分が求めることをやるのかっていう、永遠に答えの出ない問題だと思うんですよ。

――音楽で言えば、自分のやりたい音楽をやるのか、売れる音楽をやるのかってことですね。
水野:そうそう。それが二択ではないんですよ。僕が思うに、カレー屋でちゃんと利益を出すなら大きくふたつあると思っていて。売り上げを上げるか、原価を下げるかのどちらかしかないんですよ。稲田さんの話っていうのは、ロスをなくすための手法がいっぱいあって、それをどれだけ上手にできるかっていうひとつの方法ですよね。これは多分テクニック論ですよ。もうひとつはマーケティングに近くて、お客様が望むものを提供できれば売り上げは上がるんですよ。この二択だと僕は思います。でも、もし原価を下げようと思ったら自分の使いたい食材は使えない訳ですよ。いやいや国産の有機野菜を使わないと僕のカレーにならないって思ったら原価は下がらないので、そこで利益を出すのは難しいじゃないですか。その材料で作ったカレーを美味しいですって言ってくれるお客様がたくさんいればラッキーだけど、もし「有機野菜なんてどうでもいいから、カツカレーはないの?」なんて言われたらどうするのか。「じゃあカツも揚げます」って言えば売り上げは上がるだろうけど、この二択とも両方に折り合いがあるんですよ。マーケティングとしてお客様の求めるものをやるのか、できるだけ切り詰めていくのか、それぞれの考え方もあるだろうし。でも、売り上げが上がるか・原価を下げるか以外に利益って出しようがないから、鹿島さんもどの辺りを狙っていくのかが問題ですよね。
鹿島:それはねぇ……、バランスですよね。バランスという言い方は好きじゃないんですけど、僕が会社に勤めていたときも、最初は尖がった人がたくさんいた訳じゃないですか。それがだんだん削られていって、みんな同じ感じになっちゃうんですよ。それが嫌だったから難しいですよね。とはいえ、会社ならば毎日行けばお金が入ってきたけど、今度はそういう訳にはいかないから、妥協点をどこに見つけるのかって話なんじゃないですかね。
水野:どこでバランスを取るのかは人それぞれ違うんですよ。ただ僕は、もしかしたらみんなが思っているかもしれないと思うのは、突き抜ける可能性もあるんじゃないかって希望を信じているところ。マーケティングしたものがいいものじゃない、妥協して切り詰めたものがいいものじゃない、これがいいんだって信じたものをやっていけば、多くの人に支持されることがあるかもしれない。その可能性が信じられなかったらやっていて辛いと思うんですよ。

――そうやって成功したお店もたくさんありそうですが。
水野:たくさんあるかはわからないけど、あるとは思いますね。その可能性に懸けたい気持ちはみんなが持っていると思いますよ。

譲れないところはどこにあるのか

譲れないところはどこにあるのか

――営業をしていく中で、そのバランスを調整していくのもアリではないかと思うのですが。
水野:僕は自分が店をやっていないからわからないんだけど、なるようになるんだと思いますよ(笑)。僕はカレー屋さんのことは語れないけれど、カレーの本を著者として作る世界でも全く同じことがあるんです。出版社から来る「こういう本を出しませんか?」ってオファーは、毎年似たようなものばかりなんですよ。またコレかと思いながらも、僕は本が好きだから、その条件の中で水野仁輔にしかできない内容を入れ込んでやるって思うんです。別の著者だったら絶対中身はコレにならないよって本を毎回作ってる。それでもフラストレーションはあるんです。もっと面白い本があるはずだと。でも、そういうのは自費出版で出せばいいと思ったんですよ。出版社からは待っていても同じようなオファーしか来ないんだし、僕が面白いと思う本は自腹で作ればいいと思って作るんですよ。それを5,6年もやってるから、出版社から出した本以上に、たくさんのタイトル数を出してるんです。

――先程の利益の話から言うと、自費出版の成績はいかがですか?
水野:ちゃんとシリーズ化できているものもあるにはあるんです。でも、具体的に言っちゃうと『チャローインディア』っていう、毎年行っているインドの旅行記が1番面白いと思っているけれど、それが信じられないくらい売れない(笑)。もう在庫の山を見てどうしようかって思うくらい、売れないんですよ。売れないんだけど、全国に超コアな読者がいて、『チャローインディア』が一番アツいファンの意見があるんですよね。僕、今年はインドに行けなかったんだけど、今年の本はいつ出るんですかって聞かれて、「いや~今年はインドに行けなかったんです」って言ったらものすごく怒られた。

――楽しみにしてたのに!と。
水野:そう(笑)。だけど難しいですよね。その人たちが100人、200人だけでは本は赤字なんです。でも、その人たちはきっと1000円で売ってる『チャローインディア』を2000円でも買ってくれるんですよね。2000円出してくれるなら採算が合うこともある。カレー屋だったら、カレーの値段に反映されるじゃないですか。800円なら出してくれるけど、1500円になったらお客様は来なくなるのか。でも1500円のカレーでも毎日〇〇人来てくれたらお店は回るのか、とか。譲れないところがどこにあるのか、ですよね。

間借り営業で、開業へのイメージを明確化

――話は変わりますが、鹿島さんは物件を契約する前に間借り営業をされていたそうですね。
鹿島:一昨年の連休明けに会社に退社の意向を伝えて、9月まではフルタイムで働いていたんです。そのあと日数を減らしていって、9月から間借り営業を始めました。最初は週1で。
水野:どんどん増えていきましたよね、週に2回、3回と。だから周りは「アレ?もう間借りでやろうとしてるのかな」って思ったくらい(笑)。かなりの頻度だったでしょ、途中から。
鹿島:それは、情報が入ってくるんですよ。
水野:間借り営業どうですかっていう?
鹿島:そう、あそこのお店が貸してくれるんじゃない?とか。

――間借り営業って盛んに行われているんですね。
水野:店を持つだけのリスクを背負えないとか、もしくはその準備期間に間借りで営業してみるってステップが昔に比べてメジャーなんですよ。だから、カレー屋さんでも間借り営業って多いんです。間借りのハードルは下がっているんだけど、間借りからお店を持つまでのハードルが高いんだと思う。でも、間借りで営業する回数が増えてくると知識も貯まっていくんじゃないですか? こういうキッチンは使いにくいなとか、こういうレイアウトだと捌きやすいなとか。それが間借り営業のよさですよね。
鹿島:それはありますね。やってよかったですよ。
水野:あと規模の把握とかね。自分ひとりで回せるのはどのくらいのサイズなのかとか。

――間借り営業の際は、お店のスタッフさんの手は借りず、自分ですべて行うんですか?
鹿島:いろいろですよ。それはお店によってですね。でも、お店の人が手伝ってくれるっていうのは基本ないです。

――お店を持つために間借り営業をしていたのに、間借りのままでいいやって思う人はいないですか?
水野:間借り営業だけでやっていけるんですかね?
鹿島:僕はやっていけないと思いますよ。
水野:将来カレー屋さんになりたいと思っていたけど、仕事をしながら間借りを始めたら、「カレー屋をやらなくても仕事をしながら間借り営業すればいいや」って思う人は結構いると思うんですよ。
鹿島:一ヵ所に落ち着いて、そこで仕込みから何から全部できる環境があれば、間借り営業だけでも成り立つかもしれないですけど厳しいと思います。

――仕込みはご自宅でやって、ということですか?
水野:やっぱりロスが多くなりますもんね。でも、現場で仕込みができるとなると、それはもう「店」ですよ(笑)。それを週1から週5にしたら、もう自分の店だよね。実際そういうお店もあることはあるんですよね。夜はバーで、昼間空いてる時間帯を月~金曜で借りて、ランチタイムだけのカレー屋として営業してるスタイルもあるので。

自分が信じている“美味しさ”があるかどうか

自分が信じている“美味しさ”があるかどうか

――自分で作ったカレーを初めて誰かに振る舞って、「美味しい」と言ってもらえた時のことは覚えていますか?
鹿島:いや、あんまり……。

――(笑)。
鹿島:最初は家族と、親しい友達くらいじゃないですか。そういう人たちから美味しいって言ってもらっても正直わからないんですよ。でも、間借り営業で自分のカレーを出してみて、全然面識のない人から「美味しかったです」と言ってもらえるのは違いますよね。
水野:それは全然違いますよね。

――自信にも繋がりますよね。
水野:こっちが感じるプレッシャーも違いますよね。仲間内を呼んで食べてもらうっていうだけでも大きなステップなんですよ。やっぱりイベントを開催して、そこで提供するとなった瞬間に、とてつもないプレッシャーが来るんですよ。その場で感想を言わないで別のところで言う人もいたりするから(笑)。大衆に晒されると突然変わるんですよ、カレーを作ることに対する意識が。僕も長年、出張料理をやっているから、すごく違うのはわかる。

――ネガティブな感想をいただくこともありますよね。
水野:僕なんか全然ありますよ! そのときに、鹿島さんの場合は、それでも好きだと通ってくれるお客様がいるなら、お店は続けていけるんじゃないかという考えで、僕の場合は僕のカレーを好きな人もいれば嫌いな人もいるよねって感覚なんですよね。僕と鹿島さんで違うのは、鹿島さんは自分が信じている“美味しさ”っていうものがある。僕は自分が信じている“美味しさ”がないから困っちゃうんです(笑)。

――本を40冊以上も出していらっしゃるのにですか!
水野:いや、だから40冊も出せるんだと思う(笑)。これはどうですか、あれはどうですかっていう提案は自分が信じている味を持っている人にはできないんですよ。僕が感じる、カレー屋さんをやりたい人のモチベーションって、自分はカレーを美味しく作ることができて、この美味しいカレーをお客様に食べてもらいたいって気持ちが強いんですよね。裏返せば、そういう気持ちのある人がカレー屋さんを開く資格があるというか、向いているというか。僕はそれがないんですよね。僕は自分で作るカレーをそんなに美味しいと思っていない。

――美味しいと思っていないんですか!?
水野:難しいところなんだけど、自分の作るカレーは美味しいから多くの人に食べてもらいたいっていう気持ちが、あまり強くはないんですよね。いろんなカレーを作るけど、好きな人もいれば好きじゃない人もいるだろうなって。僕が出張料理をやっていて楽しいのは、毎回テーマが違って、食べにくる人が違って、素材が違う中でカレーを作ることが楽しいんですよ。カレー屋さんに行ってもそうなんですよ。自分は美味いと思ったとしても、それを美味いと思うかどうかは人それぞれだよねって思っちゃう。グルメライターさんとか、ラーメン王みたいな人は「俺が美味いって言うんだから美味いんだ!」っていうのがあるじゃないですか。僕はそれがない。好みの問題だから違う人もいるかもしれないよねっていう。

――水野さんが、「カレーの評論家という認識はなく、あくまでも出張料理人」だと仰る理由がよくわかります。鹿島さんは水野さんのこのスタンスに対して、自分との違いを感じますか?
鹿島:全然、違いますよね。僕は自分が美味しいと思うものを出していれば、それなりの層が付いてきてくれるだろうなって思っているんですよ。だから、全員が全員美味しいと思ってくれなくても、何人かは取り込めるだろうなと思っていて。それで食えればいいやっていう。

――そんな鹿島さんがついに物件を手に入れ、オープンへと走り出されます。実は、物件を契約するまでには紆余曲折があったそうですが、物件探しにおけるリアルな声を次回の連載でお届けします。

水野仁輔
株式会社エアスパイス代表取締役。「AIR SPICE」を立ち上げ、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。1999年に立ち上げた「東京カリ~番長」名義で全国各地へ出張し、これまで1,000回を超えるライブクッキングを実施。カレースター(糸井重里さんが命名)として、ほぼ日刊イトイ新聞が運営しているカレー関連プロジェクトを実施。カレーやスパイスに関する著書は40冊以上。
http://www.airspice.jp/

鹿島冬生
東京・戸越に2017年12月、カレーとコーヒーの店「ストン」をオープンしたオーナー。インテリア全般に関わるお仕事を20年以上続けた元サラリーマン。カレー屋を志望する人や「儲かるカレー屋」をやるにはどうしたらいいかという問いを、それぞれの立ち位置で考えたり実践したりしてる「DADA Curry Project」のメンバー。
http://www.plaything.jp/
https://www.facebook.com/ston.tokyo/

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