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【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第9回 人手不足なのか人が辞めすぎなのか④

【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第9回 人手不足なのか人が辞めすぎなのか④

社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。

スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。

第9回は、「人手不足なのか人が辞めすぎなのか」というテーマのPart4として、勘違いから起こりうる新人スタッフの「モチベーションの落とし穴」についてお届けします。

前回の振り返り

“僕のやる気スイッチどこだろう?”と少年がつぶやく学習塾のCMを見たことがある方も多いのではないでしょうか。あのCMは理論的に正しいと思います。やる気スイッチ、つまりモチベーションを高めるきっかけになる“やる気のもと”は9つあります。


Typeやる気のもと指向性傾向
A適職適職指向仕事自体が好きかどうかを重視する傾向が強い
Bプライベートマイペース指向家族や親しい人からの仕事への理解と余暇のバランスなどを重視
C自己表現アイデア指向仕事を通じて自分の考え・発想・個性が表現できることを重視
D環境適応サバイバル指向状況の変化に自己を適応させ、困難や手買いを乗り越えることがやりがい
E環境整備マニュアル・整理整頓指向仕事を進めるうえで手順が明確であることや会社の設備立地といった職場環境を大事にする
F人間関係協調指向人間関係が円滑で、協調性がある組織にいることを求める
G業務遂行バリバリやりぬく指向業務遂行を重視し、目標達成に邁進できる
H期待・評価優等生指向職場で、上司や周りから寄せられる期待、信頼、評価がやる気につながる
I職務管理スペシャリスト指向職務内容への理解度を高め、仕事を進めるうえでの主導権を持ちたがる


人それぞれやる気のもとは違います。さまざまなやる気のもとを持つ人が集まってチームになります。むしろ、全員が同じやる気のもとで突っ走ると「ブレーキのないチーム」となり、間違いや修正点が全く見えなくなるチームになってしまいます。
そして、自分と相手のやる気のもとが同じであると思わないことも重要です。

前回のコラム 第8回 人手不足なのか人が辞めすぎなのか③

自分のやる気のもとを押し付けていませんか

自分と相手のやる気のもとが同じであると勘違いし、”良かれと思って“新人のために行動して問題につながることがあります。

仮にX店長のやる気のもとが「“Dサバイバル指向」”であったとしましょう。無理難題をオーナーから一方的に求められ、それをチャンスととらえ頑張ったX店長。その頑張りでお店が繁盛し、自分自身も成長できた。このような機会をくれたオーナーにとても感謝している、という人物です。一方、新人アルバイトYさんのやる気のもとは「“E環境整備」”です。

入社して2カ月、緊張もほぐれて仕事に慣れてきたYさん。X店長はYさんを戦力にするために張り切っています。

  • X店長:「今度新しい仕事をお願いしたいのだけど。ハロウィンの店舗イベントの企画をしてみないか?」

  • Yさん:「えっ?私にはまだ経験がなくて無理です」

  • X店長:「大丈夫。おれもいつも無理難題ばかり求められたけど、これをチャンスと思ってがんばってきたんだ。だからYさんもできるよ。俺でもできたから。とにかく挑戦あるのみ。自分の成長の為に頑張らないとダメだよ!」

  • Yさん:「でも私、きちんと仕事をすすめることが好きなんです」

  • X店長:「いや、頑張れがんばれ!挑戦あるのみ!こんな俺でも成長できたんだから頑張れ!」

  • Yさん:「……」

このシーンでは、X店長は自分のやる気のもとを良かれと思ってYさんへ押し付けています。新しいことを通じて新たなやる気のもとが見つかることもありますし、それはいいことだと思います。それに、やる気のもとは一人一つではないので、新たな可能性を拡げるという意味でとてもよいコミュニケーションです。リーダーとして素晴らしいことです。ただし、それが押し付けになっていなければ、ですが。

やる気のもとの押し付けは結果として自分を苦しめてしまう

自分がしてもらえてよかったから、他の人にも同じことをしてあげたいという考えは正しいと思います。ただ、それは必ずしも相手にとってよいことであるとは限りません。

店長が良かれと思って、自身が過去に得た成功体験を新人にも経験してもらおうときっかけを与えたとします。しかし、何度も相手の為にと思って丁寧に接し、根気よく指導を続けても全く受け入れてくれるそぶりはありません。そうなると、「これだけあいつの為にやってあげているのになんで……」と期待が怒りに代わってきます。次第に「あいつには何を言ってもしょうがない」「あいつは素直さのないやつだ」と憎悪の対象となってしまうことでしょう。リーダーがメンバーに対してそのような感情を持ってしまうとよいチームにはなりません。やる気のもとは押し付けるものではなく、相手を観察して見つけるものです。見つけて人の成長につなげていくことが大切です。

今回のキーワード:自分のやる気のもとを押し付けない

この記事の執筆

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長_黒部 得善

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長

黒部 得善

1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。

<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)

<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー

<労務AI 公式サイト>
労務AI

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