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【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第16回 お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚にまとめる①2ページ目は見てもらえない

【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第16回 お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚にまとめる①2ページ目は見てもらえない

社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。

スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。

第16回からは、新たなテーマとして『お店でやってほしい仕事をA3用紙1枚にまとめる』を取り上げ、全5回でお届けします。このテーマを通じて、具体的で実践的なアイデアを追求していきます。

前回の振り返り

前回まで4回にわたり「お店でやってほしい仕事を整理する方法」について話をしてきました。

お店で人を採用する理由は「やってほしい仕事があるから」です。今回からは、その整理した仕事をどのようにしてお店で働く人へ共有するのか、という話をしていきます。

A3用紙一枚にまとめる理由

私は社会保険労務士として25年以上にわたり多くの就業規則を見たりつくったりしてきました。その度に「これ誰が読むんだ?」と思います。法律を守るために必要であることは理解していますが、運用をした証拠になるとは言い切れない。国に言われたから作っただけ、という感想を持っていました。

私は「マトリクス労務」という手法を使って、A3用紙一枚で飲食店の労務を整理します。なぜ用紙はA3なのか、それは老眼対策です。なぜ一枚なのか、それは、誰も2ページ目をめくってくれないから。飲食店の方に限らず、分厚いマニュアルを渡されても見る気は起きません。

また、1枚で整理をするという制約をつけると、必要なことだけを端的に整理できるという利点もあります。完全にマニュアル化されたファストフード業態であれば別ですが、飲食店における仕事は、お店の理念やコンセプトに基づく判断軸に基づいて、臨機応変に判断し行われているからこそのサービス業と言えます。

「うちのお店にはマニュアルは必要ない」という方も多くいらっしゃいますが、全体を整理したうえでの判断軸は必要です。その判断軸をブレさせないためにお店が標準的にしてほしい仕事を整理していくこといくのがマトリクス労務です。

標準形をつくるとイレギュラーがわかる

マトリクス労務のフレームワーク(枠組み)は、縦軸に「各役職が果たすべき責任」を、横軸に「理念と指揮命令を一体化する方針」を明確にします。それにより、外枠が出来上がります。そして、その役職と方針に見合った、求める仕事(初回に話をした発揮能力)を7割くらいの具体性で書き出します。この整理によって、お店がしてほしい仕事の標準形を“見える化”します。

標準形を“見える化”することにはメリットがあります。それは「イレギュラーがわかる」ことです。イレギュラーがわかるということは、そのイレギュラーを“良いイレギュラー”なのか“悪いイレギュラーなのか”に分けることが可能になるとも言えます。それぞれのイレギュラーに対する労務的な対応方法は次の通りです。

良いイレギュラー:その人がお店で活かせる特殊能力であるということなので、特別手当の創設やインセンティブ支給などをおこなう。
悪いイレギュラー:きちんと指導をして標準形にあわせてもらう。あわせなければ契約解除等も検討

良いイレギュラーの例として「マネジメントスキルは低くて店長を目指すことはできないが商品開発能力が高くお店に貢献している」といったように、出世のための評価はされないけど、本人の能力でお店に貢献をしている場合が挙げられます。今の時代すべての人が出世をしたいわけではありません。一方で、作業スキルを追求しお店に貢献できる人もいます。標準形があれば、そのような人の能力を見い出し、活かしていくことができるのです。

A3一枚で整理して明確にすべき5項目

マトリクス労務では、大きく5つの項目を明確にしていきます。

①ブルー:各役職が果たすべき責任
②グリーン:理念と指揮命令を一体化するためのマネジメントスキルと作業スキルの方針
③イエロー:お店で一緒に働きたい人の常識(マインド)
④レッド:責任を果たすためにやるべき仕事内容
⑤ピンク:役職に紐づく労働条件

この5項目の書き方ですが、まず③には第14回で作成したマインドをあてはめましょう。マインドは役職毎に代わるものではなく、お店で働くみんなに求めているものです。役職ごとに分けるのではなく、共通事項として示します。マインドには先輩や上司という考えはないからです。上位役職になればなるほどマインドが下がることを避けるため、全員の共通事項として記入します。

④は、第1回でお話をした発揮能力の整理です。「できる」ことではなく「している」ことで記述をします。「できる」けどやっていない、となると一番意味がありません。お店は「している」ことの集まりで成り立っているのです。

次回からは、①②④⑤について整理するための具体的な方法を話していきます。

今回のキーワード:A3用紙一枚で具体的な労務をすることはできる

A3一枚で整理して明確にすべき5項目

この記事の執筆

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長_黒部 得善

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長

黒部 得善

1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。

<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)

<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー

<労務AI 公式サイト>
労務AI

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