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社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。
スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。
第7回は、「人手不足なのか人が辞めすぎなのか」というテーマのPart2として、雇ったばかりのアルバイトに不安を持たせないためにやるべき労務についてお届けします。目次
前回、アルバイトは入ってから3か月以内で退職理由が3回変わるという話をしました。1週・4週・8週で変わるという、「1・4・8の法則」です。
3か月以内の離職者をゼロにすれば定着傾向が一気に高まることから、今回はその具体的な方法について話をします。
前回のコラム 第6回 人手不足なのか人が辞めすぎなのか①マズローの欲求5段階説から3か月以内の離職を考える
「マズローの欲求5段階説」という古典的な心理学理論があります。行動を起こすための欲求には5段階あり、下の欲求が満たされると次はその上の高度な欲求を満たしたくなる、というものです。
まさに労務は、下の図の「安心・安全の欲求」を満たし、「所属と愛の欲求」へつなげることが大きな役割となっています。働く人の安心感を満たして、お店の一員として頑張りたいと思える環境にしていくことが労務の役割です。とても地味な領域ですが、この土台がしっかりしていれば、一人一人のスタッフはより高度な業務へ挑戦し、成長していく環境をつくることが可能となります。
続いて、このマズローの欲求5段階説と3か月以内の離職について見てみましょう。
前回のコラムで、1週以内の退職要因=雑、4週以内の退職要因=放置、8週以内の退職要因=マンネリ、という話をしました。それぞれの理由は、このマズローの言うところの「安心・安全の欲求」を満たしていない状態、不安な状態をさしています。
つまり、入社して3か月の間に不安の要因が3回変わる中で、不安をいかにして取り除いていくのかが重要なのです。
実は面接から始まっている、3か月以内離職ゼロへの取り組み
アルバイトは応募し面接を経て採用され、そしてきちんとした受け入れがあって定着という流れになります。その時の心理状態はどのようなものか、ちょっと見てみましょう。
応募・面接・・・興味
入社初日1週4週・・・不安
入社8週12週以降・・・期待
と変わります。お店は移り変わる心理状態に応えなくてはならないのです。募集広告は興味をもって貰わねばならないですし、面接の時にはその興味により応えなくてはなりません。雑な面接ではダメです。
そして初出勤時は知らない集団に入るので不安です。その不安を取り除くことが最大の目的になります。
雑な受け入れにならないために初日/1週で取るべき行動
初出勤時、新人はとても緊張をしています。緊張している、ということはとても感度が研ぎ澄まされている、ということです。だから雑なことをされたらそれも敏感に感じ取ります。だからこそ、徹底することをきちんと決めてやり切りましょう。以下、初日のチェックすべき例です。
✅名札、制服、ロッカー、靴などがきちんと準備されている
✅既存スタッフに新人スタッフの情報が共有されている
✅既存スタッフの方から名前を呼んで挨拶ができている
✅店内ツアーを通じて、既存スタッフを紹介している
とにかく歓迎ムードで受け入れること。それにつきます。
放置しないために4週以内で取るべき行動
1週を乗り切り、その後少しずつコミュニケーションが生まれてきます。1週を乗り切ったからといって安心してはいけません。まだ新人は不安です。緊張しています。そして気軽に先輩や上司に声をかけられる関係ではありません。次のような場合は要注意です。
✅わからないことあったら聞いてね、と言ったことがある
✅フォローする人を複数名かつ具体的に決めていない
✅次は何をやればよいか質問をされる
該当する事項があれば、既にコミュニケーション不全が生まれています。その時にどのようなコミュニケーションをとるべきか。それは、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」の違いを理解したコミュニケーションです。
×クローズドクエスチョン:YES/NOで答える質問=声掛け
〇オープンクエスチョン:相手が言葉で答える質問=面談
声掛けと面談をきちんと使い分ける、ということです。飲食店は指揮命令の頻度がとても多い職場なので、なんとなくコミュニケーションは取れています。だからこそ面談が威力を持つのです。面談というときちんと準備しなくてはならないし、「そもそも面談をする時間なんか作れない」とよく言われます。しかし、前述のとおりコミュニケーションの量はとても多い。だからこそ、「質より量の面談」が有効になるのです。立ち話3分の面談で十分です。質問の仕方だけで簡単に面談になるのです。
例えば「仕事楽しい?」という投げかけはクローズドクエスチョンです。答えはYESかNOで帰ってきます。それを「今楽しい仕事は何?」と投げかければ新人が具体的に答えるオープンクエスチョンになります。オープンクエスチョンで投げて答えが返ってこなければ、悩んでいるということなので掘り下げて話を聞けばよいのです。
次回は8週以降のコミュニケーション、やる気スイッチについて話をします。
今回のキーワード:質問の仕方で面談は簡単になる
この記事の執筆
㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長
黒部 得善
1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。
<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)
<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー
<労務AI 公式サイト>
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