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社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。
スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。
第4回は、スタッフとの約束事として作るべきルールの形と、ルール違反が発生してしまう理由についてお届けします。前回のコラムにおいて、理念を労務に活かすという話をしました。
飲食店ではルールだけでは運用しきれない理由があり、そのためには理念を活かして“自分のお店らしい”判断軸を持つことが大切、その判断軸として理念を活かすことが大切である、とお話したと思います。
前回のコラム 第3回 理念を日常の労務に活かす問題行動を抑止するためにルールは必要
最近ではバイトテロの防止策として、お店のルールとしてSNSの使用方法を明確にし、違反した場合の対処方法などに対する合意を誓約書として形に残すお店も多くあります。
この場合、単純な誓約書を作るより制限する理由を明記したチェックリスト型の誓約書のほうがより効果が高まります。
以下はその一例です。1)仕事中にスマホを店長の許可なく使用しない
<ポイント>
仕事中はスマホの利用は禁止です。家族への連絡など緊急事態がある場合は、事前にその旨を店長・チーフに伝えてから利用してください2)仕事中に、LINEやメールなどを利用しない
<ポイント>
仕事中はスマホの使用は禁止です。緊急の場合には事前に店長に許可を得てください。どうしても気になる、という場合には、連絡相手に『●時まで休憩を取れない』と伝えるなどして、気にならないよう工夫をしてください3)仕事風景・お店の風景などを写真に収めない
<ポイント>
お店にはいろいろなお客様が来店されています。写真に写りたくないお客様も多くいます。お店の写真は撮らないようにしてください4)スマホを触ったあとは手を清潔にする
<ポイント>
スマホは顔にあてたり汚い手で触ったりと雑菌が付着しやすく、衛生的ではありません。仕事中は無論のこと、休憩時間中に利用した場合には、キレイに手洗いをしてください5)お店の制服を着た写真をむやみに撮影しない
<ポイント>
私たちのお店を知っている方は多くいます。そして、私たちのお店には、多くのお客様がお越しになります。制服を着用した写真を許可なくインターネット上に公開してしまうと多くの方の目に触れ、その結果与える印象によって店舗経営に影響を及ぼす可能性があります。6)不特定多数の人が目にする可能性があることを理解した上でSNSを利用する
<ポイント>
友達とのやり取りであっても、インターネットで公開してしまえば、100億人以上の人に見られる可能性があります。そして、一度公開された情報は完全に削除することができません。仕事に関する書き込みや、私たちのお店を特定できる写真などをアップすることは、知らぬ間にあなたが犯罪者となってしまう可能性もありますので注意してください7)インターネット上で誹謗中傷など人を傷つけるような発言をしない
<ポイント>
気楽な発言であっても、お店や同僚などの相手が傷ついたらそれは名誉棄損罪や営業妨害などの犯罪となってしまいます。仕事の愚痴などストレス発散を目的とした書き込みも、知らぬうちに自分自身を犯罪者にしてしまうことがあるので、注意してください
ルールとして当たり前のことを記すことは大切ですが、守らせるルールが多くなればなるほど些細なことまでルールとして明記したくなるでしょう。実はそれではかえってルール違反が発生しやすくなってしまうのです。ルール違反が発生する理由
ルールをつくって一安心ではありません。なぜルール違反は発生するのでしょうか。ルール違反が発生する主な理由は5つあります。
① ルールを知らない
② ルールを理解していない
③ ルールに納得をしていない
④ ルールを守らなくてもよい理由がある
⑤ ルール違反に見合った罰がない
解説すると、特に④が最大の落とし穴です。
例えば山田くんが遅刻してしまい、店長が注意したとします。それに対して山田君が「なんで僕だけ怒られるのですか?佐藤さんのネイルはどうして怒られないんですか?」と、自分の非に対して他のルール違反の話にすり替えるケースが多く見られます。これは、ルールを守る人と守らせる人の立場の違いから生まれるものです。
どういうことかと言うと、徹底されていないルールの存在はルールを守らなくてもよい理由を生み出してしまうのです。守らせる立場の人はルールの重要度で優先順位をつけがちな一方で、守る側はすべて守らなくてはなりません。だからルール違反を注意されたスタッフは「なんで自分だけ」と反発し、結果として守らなくてもよい理由がお店の中に広がってしまうのです。
多くの人が働く飲食店において、スタッフを完全にルールだけで縛ることは困難です。それよりも理念をもとにした理由付けをおこない、行動を適正化させていくことが大切です。
今回のキーワード:ルールだけでは限界があるからお店らしい行動を理念からつくる
この記事の執筆
㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長
黒部 得善
1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。
<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)
<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー
<労務AI 公式サイト>
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