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【小阪裕司氏特別インタビュー】インフレ時代を物ともしない店舗の共通点

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canaeruのコラムでもおなじみ、店舗マーケティングに関する数々の著書も執筆する、ワクワク系マーケティング開発者・小阪裕司氏に、インフレ時代に強い店舗の特徴をお聞きしました。インフレ時代の店舗経営で生き残るヒントが満載のスペシャルインタビューをお届けします。

物価上昇時代の考え方

――2022年以前から物価の上昇はニュースになっていましたが、その波が2022年から一気に襲ってきたという印象です。ワクワク系マーケティング実践会の会員のみなさんも含めて、止まらない物価上昇にどんな印象を持ちましたか?

 これだけの物価上昇における一般的な考え方としては、「これからどうなってしまうのか」や「元に戻るまで耐え抜こう」だと思います。しかし、ワクワク系マーケティング実践会の取り組みは、元々より価値の高い商品を正当な価格で売る、より客単価を上げていく方向にありますから、この考え方に馴染んでいる会員さんはまったく動じていませんでした。原価が上がったら、商品の価値を維持するためにも当然「価格も上げます」という考え方です。もっと言えば、商品の価値を維持するためにも、“価格は上げて当たり前”という考え方なのです。
 一方で、“価格を維持するために利益を削る”という考え方もあります。しかし、価格を維持しようとすれば商品・サービスの価値自体を下げてしまうことに繋がりかねません。価格の維持は得策ではないことを会員のみなさんは知っています。

「価格は価値に従う」

 物価上昇というインパクトから価格ばかり見てしまいがちですが、“価格は価値に従っているだけ”なのです。
 実践会会員の例で言いますと、福岡の鴨料理店は、これまで8,000円で提供していたコース料理を10,000円に値上げしました。今までは8,000円だから料理のクオリティを維持できていましたが、それが10,000円じゃないと維持が難しくなった。それなら「価格を上げます」と。こういう考え方なんですよね。

値上げを躊躇する理由はない

――多くの方が値上げをしたらお客さんが離れてしまうのではないか、と心配していると思います。

 実に多くの方がそう心配しています。ただ、そのような考えに至ってしまう理由のひとつとしては、「この値段だから売れている」という刷り込みがあるからです。しかしながら、それは商売に対する「誤解」です。
 消費者はランチが1,000円だからお店に足を運んでいるわけではなく、美味しいランチを食べたいと思って足を運んでいるんです。その“美味しいランチ”がお店の価値なのです。


――値上げを躊躇する理由は本当はまったくないと。

 はい。ただし、原価が上がったからといって、しれっと価格を上げないことですよね。何の説明もなく値上げをしたらお客さんは納得できません。値上げしなければいけない理由、そして、商品の価値をお客さんにきちんと伝えることが大切です。
 先の鴨料理店は、今の店主がお店を引き継いだ当初はコース料理が3,000円でした。それが数年を経て8,000円まで値上げして、そして、今回10,000円に。メニュー変更をして値上げをしたときもありますし、鴨の原価が上がって値上げしたこともあります。しかし、どのケースにおいても、その都度お客さんに「なぜ値上げをするのか」を説明して価格を上げていきました。
 実践会会員のジビエ料理のお店では、2,800円で提供していたぼたん鍋を3,500円に値上げしました。その背景には、食材をより価値の高いものに替えたことがありますが、値上げの過程ではそのことをお客さんにしっかりと伝えています。それを聞いたお客さんは高くても納得して食事を楽しみ、以前にも増してぼたん鍋は売れています。


――お客さんの心理としては、本当に食べたいものであれば、価格は関係ないということですね。

 先ほどのジビエ料理店で若い男性2人が熊料理を楽しみ、結構なお値段になったことがあります。お金持ちなのかと思って聞いたら、ホテルも取ってなくて、漫画喫茶で寝泊まりしていたとのこと。それに、この店でジビエ料理を楽しむためだけに、遠方から遥々来店してくれていたそうです。
 身近なところに置き換えてみると、旅行だったり、大型のレジャー施設に行く際に、お金を貯めて遊びに行くケースがあると思います。それと同じですよね。
 ただ、そう選ばれるためには、お金を貯めてでも足を運ぶ“価値のあるお店”にならなければいけません。そして、お店の価値を語り、お客さんに理解してもらわなければいけない。
 お話しした鴨料理店も、ジビエ料理店も、お客さんにとってより価値があるものを提供して、より楽しんでもらいたいという方向でお店作りをしています。だからその価値に対して、価格を付けられるんです。
 つまり、“よいものを正当な対価で提供する”ということです。「正当な対価」とは自分のお店が十分に持続できる価格のことです。無理して値段を抑える必要はないのです。

スムーズな値上げの仕方

――それでは、スムーズな値上げを実現するにはどんな方法が考えられますか?

 一番大切なことは、“商品の価値をお客様に伝える”ということです。言い方を変えると今付けている値段の理由を説明することですね。「なぜこの値段なのか」、「なぜ他店と比べて倍の値段がするのか」など。
 そして、会員さんたちの1年間の値上げ実践を見てきて、スムーズな値上げができているお店の特徴は、お客さんとの絆(顧客との繋がり)があるお店です。値上げしても絆があるからお客さんに理由を説明すると受け入れてもらえます。とはいえ、お客さんとの絆は今すぐできるものではありません。ですから、まずは“値段の理由を伝える”ことから始めるとよいでしょう。
 また、そういう思考になると、メニューの書き方も変わってくるはずです。例えば、先ほどのジビエ料理店の熊鍋では、食材の説明を細かく書き、加えて、熊を仕留めた伝説の猟師さんの話まで詳細にメニューに記載しています。そんなエピソードを見ると食べたくなりませんか?


――価格からメニューを決めていくケースをどう思われますか?

 例えばランチでは、価格は1,000円までと決めて、そのためにはどんな材料で…というように考えていくお店が多いと思います。でも、このロジックは逆なんですよ。考えるべきはお客さんに「美味しい」、「楽しい」、「面白い」を提供できるか。
 東京都板橋区のあるランチ食堂では、1,500円程度の値段を付けていますが、その分、旬の良い食材を使用して、お客さんに喜んでもらっています。
 そのお店も開業するときは、ランチは1,000円以下で、と教わり、実際にそうしていました。でもその制限を取り払った今は、ふんだんに旬のものを使って、それに見合った価格を付けています。ときに1,800円になったりしているそうですが、ものすごくお客さんから喜ばれています。
 それはランチ以外でも同じです。
 先の鴨料理店は、かつて鳥インフルエンザでそれまでの材料が入手困難になった際、仕入れ先を変えたことで味が落ち、お客さんが離れたことがあったそうです。今もまた材料が手に入りにくい状況のようですが、それでも、この経験があるので、絶対に価値を下げることはしません。そこで価値を重視し食材を使うと、原料価格は上がっていく。でも、価値を下げてしまうとお客さんが去ってしまうことを知っているから、価値を維持し続けているんですよね。

今は値上げのチャンス

――ここまでのお話をお聞きすると、物価上昇が続いている今の時代は、値上げのチャンスではないかと感じてしまうのですが…。

 間違いなく、値上げのチャンスです。正しい言い方をすれば、世の中の流れに便乗して値上げをするチャンスということではなく、自分たちが提供している商品・サービスの価値を改めてよく見て、「正当な対価はいくらだろう?」と、考え直すチャンスであるということですね。
 一気に値段を上げることを躊躇する方もいるかもしれませんが、実践会のある蕎麦料理店は4段階ぐらいに分けて価格を上げていきました。口コミサイトのレビューに『行くたびに値段が上がるからもう行かない』と書かれたこともあったそうですが、それでも売り上げは上がっていきました。そのような書き込みをするお客さんは少数であり、多くのお客さんは価値に見合った価格だと納得してくれているということです。

店舗が生き残るためにすべきこと

――飲食店が生き残っていくために、これからすべきことはなんでしょうか。

 先ほど触れたお客さんとの絆作り、お客さんを“ファン化”することはいますぐ始めるべきでしょう。その土壌が育つのに半年から1年はかかりますから。再三お話に出てくる鴨料理店は、実践会とは20年ぐらいのお付き合いなんですが、その間、お客さんにハガキを送ることはずっと続けています。だからファン顧客が増え、リピートするお客さんが増えていく。そういう取り組みが、客単価を伸ばし続けているベースになっています。
 個人情報をいただかないとお客様とのパイプはできません。今ならLINE登録などが簡単ですが、できれば住所や電話番号、メールアドレスをいただいた方が良いでしょう。我々の実践では、ハガキなどのアナログでの繋がりの方がより強いことも分かっています。


ーーたまにお店からハガキが来るとつい読んでしまいます。

 若いお客さんはハガキに感激するみたいですね。「こんなのもらったことない」と。なので、その価値が上がってきているんだと思います。他店がやらなくなった分、チャンスだと思います。とくにこれからは、お客さんが人間味のあるものにより反応するようになると思います。
 熊本の電器店の話ですが、ある地元のラジオ番組にこの店のお客さんがインタビュー出演したそうです。そしてその方は、ラジオの中での「あなたの町のパワースポットを教えてください」との問いに、なんとその電器店を紹介したそうなんです。「町のパワースポットが電器店?」って普通はなると思いますが、でも、そう思われるようなお店なんですよね(笑)。店主はバンドが趣味で、地元のお祭りで演奏したり、お店の記念日にコンサートを開いたりするぐらいその地域では人気者です。
 小さなお店の価値はそこだと思うんです。単に食べに行く、買いに行く場所ではなく、そこに行けば元気になる。そういう場所になれるお店だけが生き残れると私たちは確信しています。


ーーお店がお客さんにとってのパワースポットとは凄いですね。

 実践会には、そのような会員さんのお店はたくさんあります。大阪のバーでは、お客さんはお酒を飲みに行くというよりも、パワースポットとしてパワーを浴びに通っているとか。埼玉の雑貨店では、店が小さいこともあり、店頭に置ききれない家具や寝具はカタログから注文できるようにしていました。お客さんにはメーカーから直送してもらうことができたのですが、あるお客さんは「一旦、店に届けてほしい」と。「お店に届かないと、このお店のパワーが入らないじゃないですか」と言われたそうです。
 体験型のビジネスである飲食店やサービス業は、元気をもらいに行ったり、癒されに行ったり、ご褒美のために行ったり、お店のことをそう感じているお客さんは多いと思います。うまくいっているお店は、お客さんにとってお店以上の存在になっているんですよね。
 単にサービスだけを提供しているお店は、これからさらに原価も上がっていくし、耐えられなくなるのではと思います。「売れるものは何だ?」「いくらなら売れるんだ?」という思考から、自分たちが売りたいものの価値を語って正当な価格で売るんだという方向に切り替わっていかないと。
 実践会の会員さんには、今日入会してきた方もいます。そういう方々を見ていて思うのが、価値を売る、ファンを作り得る良いコンテンツを持っているのに活かせていないということ。
 本当はもっと価値を売ったりファンを作ったりできるのに、安く売る方向へ行ってしまっている…。ですからまずは、自分が良いものを持っていることを知ってほしいんです。今ないものを作れと言っているわけではなく、すでにあるものを活かしてほしいということです。
 今スタートすれば十分間に合います。今回、いくつかのお店の事例をお話ししましたが、この人たちが特別にすごいのではなく、あなたも持っていますよ、と。どのお店にも今日お話ししたお店のようになれるチャンスがあると気がついてほしいですね。

「価格が動いている時期、今の社会情勢は追い風です。今がチャンスです!」

小阪裕司(こさかゆうじ)
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。

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〇企画・校正・編集
株式会社USEN/canaeru 編集部

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