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【小阪裕司コラム】第49回:「いままでの値段は何だったのだろう」

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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。

3割の値上げ。結果はどうなった?

 今年は、拙著『「価格上昇」時代のマーケティング』を上梓させていただいたように、「値上げ」がホットトピックだった。今日は、そんな今年を象徴するような値上げのお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある和菓子店からのご報告。
 今回値上げしたのは長年製造販売している「あんぴんもち」なる商品。これまでの売価は「162円」。それを今回「216円」に値上げした。約50円、3割ほどの値上げとなる。
 実はこの商品、毎日つきたての餅で作っており、日持ちもしないので、売り切りだ。こだわりの作りが活きて、同業者からも「ふわっとしてこしがある餅、さすがだね!」「うちもやわらかいのは作るけど、こしが出ない」「あんぴんもちならここが一番かもね」などと評価される逸品である。改めて考えれば製造に手間もかかっており、実践会での他社の値上げ事例も見ていると、この餅ももう少し高くてもいいんじゃないか、という気になって来た。
 そこで値上げである。とはいえ、この売価の商品をいきなり50円も上げるのはかなり躊躇した、と店主。この価格上昇時代にあって多くの商人が悩んでいるであろう点、値上げしたら客離れが起こる、売れなくなると感じたからだ。
 しかし、勇気を持って踏み込んだ。単に値書きだけ変えるのはワクワク系らしくないので、この機にこの商品の価値を改めて伝えるべく、毎日つきたてのお餅で作る点などをPOP(店頭販促物)で訴求、先ほどの同業者の声もそのまま訴求した。そして、売り切り商品ゆえに売れればその日の分はなくなるのだが、売り場を他の商品に差し替えず、「大好評につき完売」と書いた札を置くことにした。
 結果は、あの躊躇はなんだったのかと思えるくらい変わらぬ売れ行き。スタッフからは「実は162円のとき、もっと高くてもよいのにな~と思ってました」の声も上がった。「いままでの値段は何だったのだろう」と店主は言う。そのままにしていたらこの利益はなく、実にもったいないことだった、と。

値上げとは単に値段を上げることではない

 拙著にも書いたが、「値上げ」とは単に「値段を上げること」ではなく、価値を見直し、正当な対価を考え、改めて値決めすることだ。そこで足かせとなるのはお客さんではなく、むしろ自分の中の呪縛。そういう意味で今年は良い機会だったとも言える。同店では今年、他にも様々な商品が値上げされ、いずれも売れ行きは順調とのことだが、あなたの会社では、この機会はどう活かされただろうか?

〇執筆者
小阪裕司(こさかゆうじ)
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。

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