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複数の経営者に、「企業や店舗の経営とは何か?」と聞いたとき、おそらく返ってくる答えはさまざまでしょう。
それは、経営者ごとに「経営」に対する考え方や意識が異なるからであり、経営を安定して継続させている経営者ほど、経営者としての役割を認識し、経営に対する定義づけをしっかり行っているケースが多いです。
経営者が自身の役割と「経営」という言葉の意味を正しく理解することは大事で、深く考えないまま企業や店舗の経営を行ってしまうと、倒産や経営破綻という結果に繋がるかもしれません。
この記事では、経営者の役割と「経営」の意味について改めて確認した上で、経営破綻に陥ってしまう原因や経営を成功に導くポイントなどを解説します。
目次
経営を一言で表すならば?
経営の意味について、人によって捉え方が異なる場合がありますが、一言で表すならば、経営者自身が掲げた経営理念を実現すること、といえます。
経営を始めたならば、会社や店舗が倒産に追い込まれないよう、浮き沈みがある状況においても成長させて継続していく努力をしていかなくてはなりません。
しかしそのような努力は、経営者の想いすなわち経営理念を実現しようとする強い気持ちから生まれてくることが多いです。
経営者は「経営」について定義づけすべき
「経営」の概念は明確に定義づけされているものではなく、経営についての考え方は経営者によってさまざまです。
どのような意味合いで捉えても構いませんが、自分の中で言葉の意味をきちんと解釈して、自分なりの考え方や見解を持っておくことが重要です。
経営に対する考え方や見解は、実際に会社や店舗を運営する際の軸になります。「人に言われたから」「教えられたから」といって、表面上だけ理解したつもりの経営をしていては、会社や店舗の行動指針は定まりません。
経営者が「経営」を自分なりに定義していなければ、会社の方向性にぶれが生じて、結果として経営の失敗に繋がってしまう可能性も考えられます。
経営者の役割は?
経営者は、会社や店舗を運営する以上、自身の役割をしっかりと理解しておく必要があります。経営者として何をやるべきか理解しないままやみ雲に経営を行ってしまうと、何かトラブルが生じた場合に対処できなくなるおそれがあります。ここでは、経営者の一般的な役割と、著名経営学者が唱える経営者の役割について紹介します。
経営者の一般的な役割
一般的にいわれている経営者の役割は、価値のある商品やサービスを提供しながら適切な利益を上げて、会社を安定的に運営していくことです。
特に、多くの商売は市場や顧客ニーズの変化、世の中の情勢などに左右されやすいので、経営者としては、将来起こり得るさまざまな環境変化にうまく適応しながら経営していくことが求められます。著名経営学者が唱える経営者の役割
ピーター・ドラッカーは、「マネジメント」という言葉を世に広めたことでも知られる著名経営学者の一人です。ピーター・ドラッカーは、経営者の役割として「事業の決定」「資金配分の決定」「人材配置の決定」の3つを挙げています。
●事業の決定
自身の事業が社会に対してどのように役立てるのか、事業の目的などを明確にして、何をやるべきかやるべきではないかを決定することです。
●資金配分の決定
限られた資金を最大限に有効に活用するために、商品・サービス、人材、マーケティングなど、具体的に何に対して幾ら投資するのかを決定することです。
●人材配置の決定
個々の能力や強みを最大限に活かし、組織の中で優れたアウトプットを出せるように、誰をどこに配置するのかを決定することです。
また、ピーター・ドラッカーと並んで著名な経営学者の一人として知られるヘンリー・ミンツバーグは、経営者の役割として「対人関係」「情報伝達」「意思決定」>の3つを挙げています。
●対人関係
対人・対外的な役割であり、社会的・法的など名目上のリーダーとしての役割、チームや組織に対してリーダーシップを発揮するリーダーとしての役割、社内外の人との効果的なネットワークを構築する繋ぎ役(リエゾン)としての役割、の3つがあります。
●情報伝達
情報管理の役割であり、社内外の情報を収集して、組織の生産性と健全性の両面からモニタリングする役割、有用な情報を社内に提供・伝達する役割、会社の代表者として外部に情報発信するスポークスマンとしての役割、の3つがあります。
●意思決定
組織の管理者としての役割であり、組織に変化を生み出す起業家としての役割、組織が予期せぬ障害に直面した際にこれに対応する障害処理者としての役割、組織の効果的な運用のためにヒト・モノ・カネといった経営資源を割り当てる資源配分者としての役割、組織内の重要な交渉を指揮・管理する交渉者としての役割、の4つがあります。
会社経営を成功させるために必要な要素
会社経営を成功させるためには、会社経営を構成する要素を理解することが重要です。ここでは会社経営を構成する要素として、ビジョン、事業計画、資源、管理体制の4つを解説します。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
会社のビジョン
会社のビジョンとは、事業を通じて将来的に成し遂げたい姿やゴールを指します。創業時の想いや企業としての考え方をまとめた「経営理念」を基に、短期ビジョンなら3年、中長期ビジョンなら10年先の未来像を策定します。
社会情勢の変化が著しい昨今、ビジョンを持たない会社は時代の潮流に振り回され、会社経営を持続・成功させることは難しいでしょう。また、ビジョンがあいまいな場合も組織に一体感がなくなり、従業員のモチベーション低下につながります。
ビジョンを設定したら、それを明文化して社内で共有することが重要です。ビジョンの明文化は経営者・従業員全員が同じゴールに向かって行動基準を統一することができるほか、社内の意思決定を判断しやすくなるでしょう。
国内の有名企業では、以下のようなビジョンを掲げています。
<国内企業のビジョン一例>
●株式会社ローソン
「目指すは、マチの“ほっと”ステーション。」
●株式会社ファーストリテイリング
「服のチカラを、社会のチカラに。」
このように、ビジョンを掲げ社内外へ発信することは事業の成功だけでなく社会的価値の向上にもつながります。ビジョンを検討する際は「社会において会社がどのような立ち位置にあり、どのように貢献できるのか」を考慮することも心がけましょう。経営計画
会社のビジョンを策定したら、そのビジョンを達成するための具体的な行動や戦略を考える必要があります。それが、経営計画です。経営計画は全従業員がビジョンに向かって進むための、いわばロードマップのようなもの。社内の方向性を統一するだけでなく、目標を達成するために必要な業務に邁進でき、スピード感のある事業展開を実現します。
また、経営計画があれば社外の取引先や出資者にも会社の将来性を伝えやすく、信用度の向上に役立つでしょう。
経営計画には、大きくわけて「長期経営計画」「中期経営計画」「短期経営計画」の3種類があります。
●長期経営計画…5~10年後の経営計画書
●中期経営計画…3~5年後の経営計画書
●短期経営計画…1年間の経営計画書
経営計画を策定する際は、上記3種類のいずれかだけでは不十分です。まず最初に長期計画を定め、それを達成するためのより具体的な行動を中期・短期計画に落とし込む方法で、3種類すべてを策定しましょう。
経営資源
経営資源とは、事業活動を行う上で必要となる資源(=リソース)のことです。経営計画の遂行には、経営資源が欠かせません。ここでは、「4大経営資源」と呼ばれる「人材」「資金」「備品」「情報」の4つを解説します。
●人材
人材は4つのうち、最も重要な資源であるといえます。なぜなら、いくら作業の機械化やAI化が進もうと、資源の活用方法を考え、機械のスタートボタンを押すことができるのは人材だからです。人手不足が深刻化している業界では、限られた人材をいかに効率よく活用するかが課題となっています。
●資金
会社経営を開始するにあたり、在庫の確保や従業員の雇用、宣伝など、事業活動には資金が必要です。資金がなければ事業活動が進まないだけでなく、新たなサービスの開発や研究など事業を発展させることができません。資金には、現金のほか株式や債券などが含まれます。
●備品
備品とは、事業活動に必要な製品や設備などのことです。例えば、什器や通信機器、パソコン、コピー機、製品、在庫などが挙げられます。中でも、製品や在庫は会社の利益に直結する要素であり、適切な管理が求められます。
●情報
情報とは、顧客情報や市場の動向、著作権や特許、技術、ノウハウなどの無形財産を指します。昨今、デジタル社会の発展によって情報の重要性が高まっており、活用方法によっては莫大な利益を発生させる資源となることから慎重な取り扱いが求められます。
管理体制
経営資源を最大限に活用するためには、適切な管理が必要です。競合他社にはない資源を確保していても、うまく活用できなければ意味がありません。また、経営資源が枯渇すると経営悪化を招き、最悪の場合倒産してしまう可能性も。
一例として、人材資源の管理には従業員教育、情報資源の管理にはセキュリティ対策の強化などが挙げられますが、自社の環境に合わせた方法で管理体制を構築しましょう。経営が破綻してしまう主な原因と対策
経営が破綻してしまう原因はさまざまですが、例えば、中小企業庁が発表している「倒産の状況」の調査結果では、倒産原因の上位5つとして「販売不振」「既往のしわよせ」「放漫経営」「連鎖倒産」「過小資本」が挙げられています。以下では各倒産原因について説明します。
販売不振
販売不振は、経営破綻の原因として圧倒的に多く、商品の販売やサービスの提供による売上が想定を下回り、会社や店舗の利益が出せなくなっている状態です。
販売不振に陥る原因としては、消費者ニーズの変化や競合他社の出現によるシェア縮小などによる売上高の減少が主なものとして挙げられます。
販売不振には、提供する商品・サービス自体の問題だけでなく、競合・市場・社会情勢などさまざまな要因が関係するため万能な対処方法はありません。
しかし、販売不振が続くと倒産に直結してしまう可能性が高いため、正確な原因の特定と必要な対策を早急に行くことが重要です。既往のしわよせ
既往のしわよせとは、会社の長期的な業績悪化であり、業績悪化に対して何ら有効な対策をとらなかったことにより最終的に倒産に陥る状態です。
既往のしわよせに陥る原因としては、資金や人材といった経営資源を経営者としてしっかりと把握していないことや、環境変化に合わせた経営改善を怠っていることなどが挙げられます。
経営者の役割でも述べた通り、当初は経営が順調でもさまざまな要因で業績が悪化することがあり、このような状況から脱却するためには、経営者としての役割を果たし、経営をアップデートさせていくことが重要です。放漫経営
本来あるべき資金投資ではなく、資金を無駄遣いしている状態であり、経営者の能力の欠如、会社や店舗の私物化などにより、出入りするお金を適切に管理できず、結果的に経営破綻に陥るケースがあります。
放漫経営は、とくに中小企業において多く見られ、同族会社やワンマン経営者のもとで起こりやすく、このような経営者は、会社が自分の所有物であると勘違いをしていることが少なくありません。
経営が放漫なことと事業の好調・不調は関係ないため、業績がよいときや店舗の売上が順調なときには、問題点が顕在化しないことが多いのも特徴です。
放漫経営が行われてしまう大きな原因は、経営者と従業員にあり、経営者自身が意識を変えることは勿論、周囲の従業員が経営の意思決定を監視することで、経営者の能力をカバーする、経営者の独りよがりの暴走を制御することが大切と言えます。連鎖倒産
連鎖倒産は、取引企業や関連企業が倒産することにより、自社が経営難に陥り最終的に倒産してしまうものであり、典型的な例としては、売掛金債権などがある取引先企業が倒産してその債権が回収不能になるケースや、下請け型企業の場合に発注元の企業が倒産してしまうことにより売上が激減し経営悪化に陥るケースなどが挙げられます。
不可抗力な側面が強いですが、連鎖倒産を避けるためには、取引のボリュームを特定の企業や仕入れ先に集中させることなく、できる限り分散させるなどの対応が重要となるでしょう。過小資本
過小資本は、会社の資本が少ない状態のことであり、例えば、元々の資金力が弱く、一度資金回収にトラブルが生じただけで債務超過状態となり、倒産となるケースがあります。
従前の「最低資本金制度」では、株式会社を設立するときに最低1,000万円の資本金を用意することが求められていましたが、現行の会社法ではこの制度は撤廃され、少ない資本金でも会社を設立する企業が増えてきました。このような会社においては、過小資本に陥らないように注意をする必要があります。
資本金や純資産が少ない過小資本は、債務超過に陥るリスクが高いだけでなく、会社としての信用度も下がってしまうおそれがあるため、金融機関から融資を受けにくいというデメリットもあります。
過小資本のリスクを下げるためにも、事業で上げた利益は、設備への投資や人員の拡充に利用するだけでなく、「内部留保」として蓄えて純資産を増やすことも検討しましょう。経営を成功に導く4つのポイント
経営破綻を避けるためには、経営破綻に陥る原因を把握した上で、経営を成功に導くためのポイントを押さえながら経営を行うことが重要です。
経営を成功に導くポイントについて、詳しい内容を説明します。
理念を明確にして戦略を立てる
経営を成功に導くポイントにはまず、迅速な意思決定が挙げられます。組織では経営者以外の従業員にも意思決定が求められるシーンが少なくありません。その際、指針となるのが理念です。
理念が明確になっていれば、現場の従業員が判断に迷った際でも理念に則った行動を素早く判断することができます。意思決定が遅く、商機を逃してしまう…といった事態は避けたいものです。資金繰りを考える
事業を継続的に行っていくためにはお金が必要不可欠なので、手元の資金が不足することのないように、資金繰りには細心の注意を払う必要があります。
とくに、売上における売掛金の管理が重要です。売掛金が多くなってしまえば、「売上は多いはずなのに手元のキャッシュが少ない」という状況に陥り、支払いに苦労してしまうかもしれません。
事業や経営に関する知識を身に付ける
最初から経営を100%理解している人はいないため、自分に合う方法で経営に関する知識を身に付けることが大事です。
日常生活での経験から得られる知識をインプットするだけでも、経営に繋がる知識になり得ます。また、書籍やセミナーを活用して勉強する、経営者仲間とのやり取りの中で情報を吸収するなど、さまざまな方法で知識を身に付けましょう。
いくつもの方法を活用することで、さまざまな角度からの知識が得られるため、事業や経営に関する捉え方に幅や深みが出るかもしれません。
人材を育成する
経営が軌道に乗るためには、現場の人材の能力と頑張りも大きく影響するので、人材育成は経営を成功させるために必須と言える要素です。
人材を育成する具体的な方法は、研修制度の充実、将来を見据えたキャリアパスの設定、理念に共感する人材の採用などが挙げられます。
人材育成は、経営者と従業員との関係性を向上させるためにも効果的で、従業員が「しっかり育成してもらっている」と感じることで、双方のやる気アップに繋がってより良い関係性が築けるでしょう。
経営者に向いている人とは
ここまで見てきたように、経営者には、経営者としての役割を認識し、経営理念に基づいて戦略を立て、資金や人材を適切に活用しながら会社を安定的に運営していることが求められます。
また会社を経営していれば、さまざまな問題や困難にぶつかることがありますが、経営者は、これに対峙し、問題の原因を見極めて適切な対処を行うことで、会社を危機から脱却させることも求められます。
ここでは、どのような人が経営者に向いているのかをみていきましょう。決断力と行動力が備わっている
経営者は、日々の経営において大小さまざまな決断をしなければなりません。経営判断1つで会社の運命が左右されることもあるため、経営者としてどのような決断をするのかが重要となります。
このため、市場環境など会社が置かれている状況を正確に把握し、適切な選択ができる決断力を持った人は経営者に向いているといえます。
さらに会社経営においては、適切な判断を行った後に速やかに行動を起こすことも重要です。いくら正しい決断を行っても、実行に移さなければ絵空事で終わってしまいます。
事業を取り巻く環境は刻々と変化しており、決定した施策を有効に発揮させるためには速やかな行動が求められます。
もちろん、安易な決断と行動ではうまくいきませんが、ここぞというタイミングで決断し行動できる人は経営者に向いているといえるでしょう。
このような決断力と行動力を備えた経営者は、リーダーとしても信頼されやすく、組織をけん引する影響力も発揮することができるでしょう。仕事に没頭できる
会社経営を軌道に乗せて安定的に運営させていくためにはさまざまな苦労が伴います。しかし、このような苦労を苦労と思わず、むしろ楽しみながら仕事に没頭できる人は経営に向いているでしょう。
事業の成功率を高めるための要素はさまざまですが、なによりも経営者自身が高いモチベーションを持って仕事に臨むことが重要です。
上述の経営破綻の原因でも触れましたが、例えば、経営者が仕事に対してあまり熱心ではなく、本業以外で散財するような放漫経営を行っている場合には、何らかの環境変化により業績が悪化し、最悪の場合には会社倒産につながる可能性があります。
経営者として、目の前の困難としっかり向き合い、やるべきこと或いは必要なことを実行することで、自身が経営する会社を良い方向に導けるように仕事に邁進していける人は、よい経営者になれる資質を備えているといえます。周囲の人を巻き込める
会社経営や事業の運営において、経営者一人でやれることは限られており、会社のチームや組織をいかにうまく動かしていけるかが、事業を成功に導くための大きなカギとなります。
このため、周囲の人を巻き込める力は、経営者として重要な資質の1つといえます。経営者には、経営者としての役割があり、なんでも一人で行う必要はありません。むしろ、チームや組織に適切な役割を与え、目指すべきゴールを共有して、仕事を遂行してもらうことが大きな成果を生み出すことにつながります。
このような観点でいえば、周囲の人を巻き込むためには、経営者自身が経営の方向性について明確なビジョンを持っていること、相手を説得することや相手から共感を得るためのコミュニケーション能力を持っていることが重要ともいえるでしょう。
自分なりの「経営」を定義し、経営者としての役割を理解することが重要
「経営」の明確な定義づけはなく、それぞれの経営者によって言葉の捉え方や考え方は異なりますが、自身が運営する会社の「経営」について自分なりに定義づけを行っておくことが、会社を正しい方向に導くために重要です。
この記事の監修
横山和成(よこやま かずしげ)
20年以上にわたり製造業や外食産業などで知的財産業務に従事し、経営支援に関わった後に独立。現在は、自ら小規模会社の運営を行うとともに、主に知的財産と技術開発の観点で中小・ベンチャー企業向けの経営・事業のサポートを行っている。知的財産支援(特許・商標)、技術開発支援(主に技術サーチ)を専門とする。経営支援に関する記事ライティングにも多数携わり、経営者・経営支援の視点から情報発信を続けている。
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