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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
時間と余裕を生み出したことで起きた変化
前回、「自動釣銭機」を自分たちの側に向け、お客さんとの会話の時間と余裕を作り出した文具店の事例をお伝えした。それがビジネスの成果を生んだことも。そこで今回は、まったく別の業界、別の方法で、同様の成果を手にした例をお伝えしよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるエステサロンからのご報告だ。
同店ではこれまで、お客さんが退店してから次のお客さんをお迎えするまでに、ギリギリの時間しか確保してこなかった。その間にベッドメイク、片づけなどをしていると、すぐに次のお客さんを迎える時間となる。店主自身は十分に休憩も取れない状況だったという。
それが無理もないのは、エステサロンは仕事柄、一度に何人も施術することができない。その上で、営業時間中に一人でも多くのお客さんに対応することが売上を左右するとされているからだ。彼女が以前勤めていたときも、会社からは、そういう指示が出ていた。インターバル20分で、多い日は1日8人をこなしていたそうだ。独立後も1件でも多く予約を取りたい気持ちが強く、インターバルの時間を増やすと売上が落ちると思っていたという。
そんななか、彼女が今回試みたのは、インターバルの時間をこれまでより30分も長く取り、時間と余裕を生むこと。そしてその余裕の中で、お客さんとゆっくり過ごすことだった。
実際に行ってみると、それまでとは大きな変化が幾つもあった。例えば、これまでは薦めたいメニューや化粧品があっても時間がないからと諦めてしまっていた。それがじっくりカウンセリングできるようになったことで、次回以降の施術を計画でき、回数券の販売や化粧品のお薦めにつながった。また以前ならこちらも気が急き、お客さんも気を遣って帰り支度が早くなっていたところ、互いにゆっくりになり、たわいないおしゃべりが距離間を縮めることとなった。
もちろん今回の取り組みにより、1日に受付できるお客さんの数は減った。しかし実際のところ、売上は減るどころか上がったのである。ビジネスには必要な非効率もある
お客さんとゆっくり対話する。その時間と余裕を、あえて効率を捨ててでも生み出す。それは、効率だけの視点から見れば単に非効率なことだ。しかしビジネスをもっと違う視点から見れば、ビジネスに収益も含む豊かなものを生み出すことなのである。
この記事の執筆
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
小阪裕司
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。
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