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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
思い出のブーケ
前回、あるメーカーでのエピソードをお伝えした。高齢の母親が人生最後に出合い、亡くなるまでの日々に幸せをもたらしてくれた商品とメーカーへの、娘さんからの感謝の手紙。それは作り手・売り手にも「魂のごちそう」をもたらす、双方にとって素晴らしい体験だ。このエピソードをお伝えしながら私は、以前ある墓石店から聞いたエピソードを思い出した。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の墓石店だ。
そのエピソードとは、あるお客さんの墓開きで、お客さんに生花のブーケを渡した話だった。ちなみに「墓開き」とは、新しいお墓を建立した際、僧侶などと共に墓前で行う儀式のことだ。
「墓開きに、なぜブーケ?」と思われるだろうが、そこにはこういう事情があった。そのお墓に入る方はご家族の家長で、ご夫人はまだお元気だ。当然墓開きにも同席されたのだが、そこで墓石店主から夫人へ渡されたブーケは、このご夫婦の結婚式で、新郎から新婦へ渡されたブーケとほぼ同じものだった。ブーケが渡された時、他の家族は最初ピンとこなかったそうだが、ご夫人はすぐに気づいた。思いもかけない思い出のブーケが目の前に現れ、夫が旅立った寂しさと共に、様々な思いが込み上げてきた彼女はその場で号泣。連れて、事情が呑み込めた家族らも皆、号泣。墓開きは感動と感謝で満ち溢れたものになったという。
しかし、この墓石店はなぜ、ご夫婦の結婚式のブーケを知っていたのだろう? 不思議に思った私が店主に尋ねると、彼はこう答えた。同社では、墓石建立に関するやり取りをするなかで、家族にとってできる限り特別なお墓となるよう、様々な思い出をお聞きする。今回はその過程で結婚式の話題にも触れられ、さりげなく「お写真を拝見できますか?」と聞き、見せていただいた結婚式の写真にそのブーケが写っていたのだ。そこで、この写真を撮影する許可をいただき、そのブーケとほぼ同じものを再現、墓開きの当日となったのである。お客さんの大事なタイミングや転機に関わることも
商売というのは、業種を問わず、実はしばしばお客さんの人生にとって大事なタイミングや転機に関わることがある。前回の「生海苔佃煮」のように、こちらが意図せずお客さんの人生の最後を美しく彩ることもある。常に意識しておきたいものである。
この記事の執筆
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
小阪裕司
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。
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