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【小阪裕司コラム】第92回:お客さんを巻き込んで遊ぶ③

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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。

スタンプラリー企画から生まれた大きな利益

 これまで2回に渡って、機器のメンテナンスや小型車両の講習会などのイベントをスタンプラリーにして、お客さんと共に遊ぶ試みがヒットした例をご紹介した。では、こういった取り組みが、商売に何をもたらすのだろうか?
 次の例はその答えを表している。ある年、スタンプあと1つで5会場達成だったお客さんにスタッフが「あとひとつで帽子がもらえるし、次の展示会場は車で1時間くらいで来られるからどうですか?」と言ったところ、彼は翌週その会場に現れた。そして、受付に来るやいなや「あとひとつと言うから、頑張って来たぞ!」と猛アピール。そんな彼と展示会場を歩いていたところ、突然「この重機いくらだ?」とバックホーについてお尋ねに。数百万もする買い物だが、そのままとんとん拍子に話は進み、その場でお買い上げ。「おいー、帽子もらいに来たのに、バックホー買っちまったじゃねーか」と、帰り際本人は上機嫌だったという。
 元々今回のスタンプラリー企画は、同社イベントや講習会に繰り返し来てくれるお客さんへのお礼であり、よりその数を増やし接触回数も増やそうとの狙いだったが、それが果たされると同時に、お客さんとの関係性がどんどん深まっていると同社スタッフは語る。先のバックホーのようなケースは、それゆえ、急に思い立った時にもすぐ行動してもらえるようになったのだと彼らは分析する。
 また、このイベントが回を重ねるなか、スタンプラリー達成者はちょっとした有名人になってきたという。そして彼らが会場で同社スタッフらと和気あいあいと話したり、「○○さん!いつもありがとうございます!」と声をかけられる姿を見て、他のお客さんらが、自分たちもああなりたい、こんな風に声をかけてもらいたいと動機づけられているとのこと。
 繰り返すが、これはアイドルのイベントではない。機器のメンテナンスや小型車両の講習会などであり、主な対象はいわゆる“おじさん”だ。しかし、人はこうなるものなのである。

「遊び」が商売に利益をもたらすことも

 以上、3回に渡って、ずいぶん前に日経MJに掲載した事例を再掲した。こうして見ると、改めて「お客さんを巻き込んで遊ぶ」ことが、どんなビジネス分野でも、たとえ主な顧客層が遊んでくれそうに思えない方々でも、実はそんなことはないことが分かる。それが結果的に、商売に利益をもたらすことも。しかし一方で今日、このような「遊び」のある店は減っている。
 「遊び」のある店になろう。なにせ人間は「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」。お客さんはきっとそれを待っている。

〇執筆者
小阪裕司(こさかゆうじ)
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。

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