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飲食店といえば、調理のために厨房などの火を使う設備を備えていることがほとんどでしょう。裏返せば、他業種よりも火災のリスクが高く、また、起きたときには損害も大きくなりやすいと言えます。
そのため「消防法」には飲食店に対する細かい規則が定められ、これをクリアしないと開業に漕ぎ着けることもできません。また、消防法は1948年の施行以来、何度も改正が繰り返されているため、現在すでに飲食店を運営している経営者も、最新の運用基準を把握しておくことは必須です。
そこで本記事では、2024年時点で飲食店が守るべき消防法のルールについて、改めて解説していきます。
目次
全国的に増加傾向にある飲食店火災
現在、全国的に火災件数そのものは減少傾向にあるにもかかわらず、飲食店の火災件数は増加中であることをご存じでしょうか? その原因は「火の消し忘れ」「過熱」「ガス等への接炎引火」が主なもので、東京消防庁によると、厨設備などからの出火が約半数を占めています。
2016年に起きた糸魚川市大規模火災も、ラーメン店の厨房で鍋を火にかけたまま、その場を離れてしまったことが出火の原因。木造建築が密集した地域であったため延焼が拡大し、焼損棟数は147棟、負傷者17名という甚大な被害を出してしまいました。
この火災を受け、2019年には消防法も改正。それまで消火器を設置する義務のなかった延べ床面積150平方メートル未満の飲食店も、原則として消火器具の設置が義務づけられることになりました。
では、なぜ飲食店での火災が増加傾向にあるのか? 東京消防庁がまとめたガイドラインでは、
- ✔調理方法の多様化、調理の効率化、調理時間の短縮化の為に厨房設備の高火力化や複合化が進んでいること。
- ✔店舗営業時間が長時間化して昼夜を問わず厨房設備等を使用するため、メンテナンス等に要する時間が短くなっていること。
- ✔非正規雇用従業員つまりアルバイトの依存率が高まっており、正規の調理人が厨房機器を扱う機会が減ってきていること。
などが、その要因として指摘されています。皮肉なことに、調理における技術の進歩や、効率化をめざす店舗の姿勢が、火災のリスクを高めているというのです。
また、2016年の新宿・歌舞伎町ゴールデン街火災でも、改装工事中の飲食店が火元となり、約500平方メートルが焼けました。出火原因としては放火が有力視されていますが、特に飲食店が密集した区画での火災は被害が拡大しやすく、飲食店での防火対策は通常家屋以上に重要と言えます。
関連記事 大切なお客様と従業員を守るために。飲食店火災と労働災害を防ぐには?
あなたのお店は大丈夫? 現在の「消防法」とは
飲食店をはじめようとするならば、「消防法」は絶対に知っておかねばならない法律です。消防法の目的は、火災を予防・警戒・鎮圧して、人々の生命や身体および財産を保護するとともに、火災や地震が起こってしまった場合の被害を軽減すること。1948年に制定されて以降、何度かの改正を経て現在に至っています。
厨房などの火を扱う設備を持つため、火災のリスクが他業種よりも格段に高い飲食店には、当然ながら消防法の基準も厳しく定められています。その基準を満たさずに飲食店を運営していることが発覚すれば、罰金刑を課されたり、場合によっては営業停止にもなりかねません。
では、飲食店を運営するにあたって、具体的に何をすれば良いのでしょう? 消防法で義務づけられているのは、以下の3つです。
- 3つの消防設備
- 4つの届出
- 防火物品の使用
消防法を守らなければ罰則違反?
消防法に定められた設備を設置しない、消防署に届出を出さない、消防点検を報告しないなど、消防法に定められた義務を怠った場合、法律違反となって罰金や営業停止になる場合があります。
消防法の規定について、いくつか例を挙げてみましょう。
- ✔火災報知器や自動火災報知設備、消火設備などの設置、保守、点検の義務を怠った場合、個人に対しては30万円以下の罰金、法人に対しては100万円以下の罰金。(消防法第43条)
- ✔消防署からの立入検査や指導に従わなかった場合、個人に対しては100万円以下の罰金、法人に対しては300万円以下の罰金。(消防法第44条)
- ✔消防署からの改善命令を無視した場合、個人に対しては200万円以下の罰金、法人に対しては500万円以下の罰金。(消防法第45条)
その他に注意したいのが、火を使わないIHや電子レンジの使用。2019年の消防法改正により、火を使う飲食店は面積にかかわらず、すべての店舗で消火器具の設置が義務づけられました。自治体によってはIHや電子レンジのみの使用でも、消化器具の設置が必要になるので、管轄消防署に必ず確認してください。
飲食店の開業時に必要な3つの消防設備
ここからは、消防法で義務づけられている「3つの消防設備」をひとつひとつ詳しく見ていきます。
消火設備
火災が起きた際、速やかに消火するための設備のこと。
- 消火器具の設置
- 屋内消火栓設備
- 水噴霧・泡・不活性ガス・ハロゲン化物・粉末設備
- 屋外消火栓設備
- 動力消防ポンプ設備
スプリンクラー設備
以上の6項目があり、床面積や店舗のある階数、立地条件などによって、どこまで設置すべきなのかの基準が細かく決められています。
警報設備
火災が発生した、もしくはしそうなとき、近隣や消防署に通報する設備のこと。
- 自動火災報知設備の設置
- ガス漏れ火災警報設置
- 漏電火災警報機の設置
- 消防機関へ通報する火災報知設備
- 非常警報器具・設備
の5項目があり、こちらも消火設備と同様に細かい基準があります。
避難設備
火災や地震などの災害が発生したとき、店内にいる人々をスムーズに避難させるための設備です。面積や階数にかかわらず、すべての飲食店は、以下の2点を設置せねばなりません。
- 避難口誘導灯および通路誘導灯
- 誘導標識
また、2階以上で収容人員50人以上、また3階以上だと場合によっては、収容人員10人以上で避難はしごや救助袋などの避難器具の設置が必要です。消防署へ提出しなければならない4つの届出
次は、飲食店を開業する際に必要な消防署への届出を確認しておきましょう。
消防用設備等設置届出書
上記で説明した「消火設備」「警報設備」「避難設備」の3つを、定められた基準に沿って設置したことを記載・報告する届出です。管轄の消防署に提出すると消防検査を受けることになり、検査をクリアすれば消防用設備等検査結果済証が発行されます。
防火対象物使用開始届出書
店舗の使用開始7日前までに提出しなければならない届出で、具体的には「どんな人物が、どのような工事を行い、どのような飲食店をはじめるのか」を記載し、「消防設備などがきちんと設置されているか」を確認するものです。
消防署のフォーマットに沿って記入し、提出の際には店舗が入居する建物の配置図や立面図、消防用設備などの設計図書などの添付書類も必要になります。何を記入・添付すべきか、消防署によって多少の違いがあるため、事前に管轄消防署に問い合わせておくのがベターです。火を使用する設備等の設置届出書
火を使用する設備を設置する際に提出しなければならない届出で、温風暖房機や多量の可燃性ガス又は蒸気を発生する炉、350キロワット以上の厨房設備、ボイラーなどが対象です。それぞれの管轄消防署によって、こちらもフォーマットが用意されています。
防火管理者選任届出書
防火管理の責任者を決定する届出です。飲食店では、
- 延べ床面積が300平方メートル以上かつ収容人数30人以上の店舗では「甲種防火管理者」
- 延べ床面積が300平方メートル未満かつ収容人数30人以上の店舗では「乙種防火管理者」
の選任を最低1人義務づけられており、「甲種防火管理者」は2日間で約10時間の、「乙種防火管理者」は1日で約5時間の講習を受け、効果測定の試験を受けて合格する必要があります。防火管理者に選任された者には、以後、消防計画を作成して消防署に届け出る義務も発生します。
収容人数30人未満の店舗では、防火管理者の選任・届出は必要ありません。ただし、ここで言う収容人数は客席数ではなく、従業員数も含まれるので注意が必要です。
消防法と建築基準法による「内装制限」にも気を付けよう
飲食店で火災が起きた場合の消火を速やかに行い、火災の拡大を防ぐため、消防法では、カーテン・布製ブラインド・じゅうたんの3つを設置する場合、「防炎物品」を使用することが義務づけられています。防炎物品とは消防法で定められた防炎基準、つまり「燃えにくさ」の基準を満たしたもののことです。加えて、前述の3つの消防設備が消防法における「内装制限」となり、これらを無視して店舗の内装を考えることはできません。
さらに、火災が起きた際の速やかな避難を可能にするため、建築基準法でも壁や天井の仕上げ材に「難燃材料」「準不燃材料」「不燃材料」を使用することが、飲食店には義務づけられています。
3つの材料にはそれぞれ基準があり、最も燃えにくい「不燃材料」の場合は「20分の加熱で燃焼しない」「20分の加熱で損傷や変形をしない」「有害な煙やガスを発生させない」の3つを満たす必要があります。「1.2メートル以上の高さがある天井や壁」など、10の基準のうちどれかに当てはまる場合は、建築基準法における内装制限に従わねばなりません。これに違反すると懲役3年以下または罰金300万円以下、法人の場合は1億円以下の罰金が課せられます。
つまり、店舗の内装をデザインする際には、店舗規模や建物の条件をしっかりと頭に入れた上で、消防法や建築基準法の基準を満たす、防火性の高い内装材やインテリアを準備することが不可欠なのです。定期的な消防点検と報告を忘れずに!
店舗の大小にかかわらず、飲食店は6ヶ月に1回の機器点検、さらに1年に1回の総合点検を行うことも消防法で定められています。機器点検とは、前述した「消火設備」「警報設備」「避難設備」の適正な配置と、外観と簡単な操作で判別できる事項を確認すること。総合点検とは、これらの設備を実際に作動させて、総合的な機能を確認することです。点検終了後には、管轄の消防署に1年に一度報告する義務もあります。
点検は消防設備士または消防設備点検資格者が行う必要がありますが、「述べ1,000平方メートル以上の建物」「地下または3階以上にあり、かつ、屋内階段が1箇所のみの建物」の2つに該当しなければ、有資格者以外でも点検することができます。
逆に、どちらかに該当する場合は有資格者での点検が必須となり、外注する必要も出てくるでしょう。消防点検を請け負う業者は数多くあり、小規模な店舗であれば2~3万円程度で収まることも多いようです。甚大な被害をもたらす店舗火災に気を付けよう
飲食店での火災を防ぐには、厨房機器に最新の安全装置を備えるといったハード面、従業員への知識伝達といったソフト面、両面での対策が必要です。特に、従業員のアルバイト比率が8割を超える飲食業において後者は必須。安全な機器操作の周知徹底や火災リスクに対する啓蒙によって防災意識の向上を図り、日頃から避難訓練などを実施することも、偶発的な事故に備える上で大事なことでしょう。
現在、飲食業は長時間営業の傾向があり、都内の平均営業時間は約11時間にも及びます。営業時間が長くなり、さらに一従業員あたりの勤務時間が長くなれば、より火災リスクが高まるのは言うまでもありません。同じ人間に厨房を長時間任せることは避け、余裕のある人員配置を心掛けるのも、リスク回避には効果的です。
万が一、消防法を守っていない状態で火災を起こし、お客様などに人的被害が生じた場合は、業務上過失致死傷罪に問われる可能性もあります。お客様はもちろん、従業員や周辺の地域、そして店舗そのものを守るためにも、消防法の順守を心がけましょう。
この記事の執筆
株式会社USEN canaeru編集部
飲食店をはじめ、小売店や美容室などの開業を支援する『canaeru』の運営を行う。店舗開業や経営に役立つ情報を日々提供し、開業者と経営者に向けた無料セミナーの企画・運営も担当。
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