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川崎・武蔵新城駅にある知る人ぞ知る名店。濃厚味噌ラーメンをヒットさせた計算とは?
作りたい何かがあったら、そこに「自分だけの個性」を加えること。そうすれば、可能性はもっと広がっていく。
- 武井 哲也/麺小屋 てち
南武線・武蔵新城駅。周囲には閑静な住宅街が広がり、目立った商業施設などもないベッドタウンである。この駅から徒歩5分ほどの場所にある「麺小屋 てち」は、濃厚味噌ラーメンが専門という、少しマニアックなラーメン店だ。店主の武井氏は、IT関係から脱サラし、つけ麺の有名店でラーメン作りを学んだ。しかし、この店では修行先の技を封印し、全く違う味のラーメンを提供している。クリーミーでまろやかな味噌の味わいの奥に、濃厚なスープの旨味を閉じ込めた魅惑の一杯だ。その一杯にどのような思いが込められているのだろうか。
脱サラの怖さは全然無かった。「ラーメン」という「モノ作り」。
ーー武井さんはなぜ、ラーメン店主を目指そうと思われたのですか?
大学では情報工学科で情報通信技術の勉強をして、卒業後はIT関係の会社で開発の仕事をしていました。でも、仕事をする中で、「大きな組織だと自分が本当に作りたいものは作れないな」ってことに気付きはじめて、その一方で、小さい頃からモノを作ることが大好きで、「自分だけの何かを作り出したい」という思いもありました。そんな思いを抱えながらの仕事に悩んでいたのですが、ある時、部署異動の話があり、勤務場所も変わることになってしまったんです。それを機会に会社を辞めました。辞める時には「ラーメン屋をやろう」という決意は固まっていましたね。
出身が愛媛県なんですが、大学進学のために東京に出てきて初めて「家系ラーメン」というものを食べて、「都会にはこんなラーメンあるんだ!」って衝撃を受けました。それからずっと、いろんな店を食べ歩いていて。だから「自分で何かをやろう」と思った時にまず思い浮かんだものがラーメンでした。ーー脱サラ後はどうやってラーメンの業界に入ったのですか?
当時大行列を作っていたつけ麺のお店に採用してもらって、大きな施設内にある支店で働き始めました。そこでは調理や接客など、いろいろなことを学びましたが、施設内だとその場でスープを炊けないし、製麺もできないので、製造は勉強できなくて…。どうしようかな、と思っていた時に、白楽の「仁鍛」(現「くり山」)の栗山さんと知り合い、栗山さんのもとで修行をさせていただくことになりました。
「くり山」では製麺もスープ作りもいろいろ勉強させていただいたんですが、最初に「2年以内で独立します」という条件で入ったので、2年後には約束どおり独立して、現在に至るという感じです。濃厚味噌ラーメンは飽きる!を覆すため、ラーメンスープの味作り修行
ーー現在のラーメンは「くり山」さんとは違うオリジナルですよね。味作りの研究はいつされたのでしょうか?
「くり山」は火曜日が定休日でしたので、その日を使って「麺小屋 てち」の名前で営業をさせてもらったんです。そこで毎週味を変えながら、お客さんの声も聞きながら、今の形を完成させました。半年間だけでしたが、いい経験をさせていただいて、栗山さんには感謝しています。ーー現在の、濃厚味噌ラーメンの味のコンセプトを教えてください。
味噌をしっかりと味わえる濃厚なスープのラーメンです。でも濃厚なスープって、わりとすぐに飽きちゃうんですよ。だからうちでは、濃厚さを清涼感のある数種類の野菜で緩和したり、ラー油で味を締めたりして変化を持たせて、「最後まで飽きずに食べてもらえる濃厚味噌ラーメン」を目指しました。ーーなぜ、そこまで濃厚味噌味のスープにこだわったのですか?
修行先はつけ麺がメインのお店でしたが、今さら僕がつけ麺の店を出しても、もう東京にはつけ麺の美味しい店がいっぱいあるので、勝負にならないなって感じていました。だったら、自分だけのオリジナルで勝負しようと。たまたま、その頃に食べた濃厚スープの味噌ラーメンがすごく美味しくて。地元の愛媛で一般的だった「麦味噌」を使ってやってみようと思ったんです。ラーメン屋開業に、必ずつきまとう従業員の問題。どう対処しているのか?
ーー開業前に大変だったことは何でしたか?
一番大変だったのは、物件がなかなか見つからなかったことです。いろいろ見て探して、やっと「いいのがあった」と思っても、タッチの差でほかの人に契約されてしまったり。本当は40歳までにオープンする目標でしたが、物件探しが苦労したことで40歳と1か月目のオープンになってしまいました(笑)。ーー開業後に大変だったことは何でしたか?
人手が足りなかったことです。最初からこの店はひとりでやろうって決めていましたが、思ったよりお客さんが多くて、最初の頃はめっちゃ大変でした(笑)。仕込みや片付けは頑張れば何とかなりますが、営業中、何か作業をしている時にお客さんに呼ばれたりすると、パニックになってしまって。「スタッフがいたらどんなにやりやすいだろう」って何度も思いましたね。
ただ、人が入ってくると、どうしても自分の思いとは違うところが出てきますから、今もひとりで頑張っています。でも、本当に行き届いたサービスを提供するには、ひとりでは限界があるという思いもあるので、それが今後の課題ですね。ーーお店の安定経営のために心がけていることは?
美味しさというのは当然ですが、接客やお店の雰囲気作りも大事にしています。店内にほっこりとした音楽をかけて、ちょっと意外な感じにしてみたり、どんなに忙しくても、ちゃんとお客さんに向かって、ありがとうございましたって挨拶をしたり。基本的な部分ですが、お客様がまた来たいと思うポイントを、できるだけ多く実行することを心がけています。ラーメンの味だけでは経営は成り立たない
ーーラーメンの味とは別に、どのような信念を持っています?
自分が店を始めようと思った時に一番感じたのは、「個性が必要」ということです。「店のウリ」になる何かを持つことですね。もちろん、修行先で何かを学んで、それを出してもいいですが、修行先とまったく同じものを作ったら、それ以上にはなれないんです。作りたい何かがあったら、そこに何か「自分だけの個性」を加えることです。そうすれば可能性はもっと広がるし、真面目に作っていれば、きっとお客様に喜ばれる店になると思います。武井 哲也
昭和50年香川県生まれ。小学校から高校まで愛媛県で過ごし、大学進学を機会に上京。学生時代から社会人時代にかけてラーメンの食べ歩きを重ねる。大学卒業後はIT企業に就職し、システム開発を担当。約10年の勤務ののち、ラーメン店開業を決意して退職し、都内の有名つけ麺店で修行を始める。その後「くり山」に移り、2年後の独立開業を前提に修行。「くり山」の定休日を使って、現在の店の源流となる店舗を火曜日の夜のみ限定で開くなど話題を集めた。約束通り、2年後となる2015年の7月に現在地に「麺小屋 てち」を開業した。
南武線「武蔵新城」駅南口から徒歩5分の場所にある味噌ラーメンの専門店。ほっこりとした優しい雰囲気の店内で、厨房では店主がひとりで働く。看板メニューの「みそら~めん」は、濃厚な白湯スープに愛媛産の麦味噌を合わせ、生野菜の紫玉ネギ、人参、大根、薄切りの豚肉、少し辛味を効かせた自家製ラー油を合わせた、優しくも個性派の一杯。その他にも「みそまぜそば」「濃厚担担麺」などマニアックなメニューを揃えており、ラーメンマニアを唸らせる実力店として知られるが、お客さんの大半を占めるのは地元在住のリピーター客。老若男女を問わず人気を集める、地元密着型のラーメン店である。
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