神奈川県横浜市にある「六角橋商店街」が有名な、横浜市六角橋エリア。その賑やかなメインストリートから少し外れた場所に、昼時となれば長い行列を作る名店「くり山」がある。ここは当初「仁鍛(じんたん)」という名前でスタートし、その後現在の名前に改名した店で、店主はつけ麺発祥の店として知られる「東池袋大勝軒」の出身。修行期間も弟子の中では最長で、同店店主の山岸一雄氏(2015年に80歳で逝去)の「最後の愛弟子」と呼び称されている。今回はそんな栗山氏に、創業時の苦労についてお話を聞きました。
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ラーメンの名店、大勝軒の味を自分でも作りたい!実家を継ぐのをやめ弟子入り
ーー栗山さんがラーメン店主を目指したきっかけは何でしたか?
実家が食堂をやっていたので、それを継ごうと思い、千葉のホテルで和食の修行をし、実家の店の手伝いを始めました。その頃からラーメンが好きだったこともあって、休みの日にはラーメンの食べ歩きをしていたんですが、その時に山岸さんの「大勝軒(旧店舗の「東池袋大勝軒」)」に出会って、「これは美味しい!」と。
1週間後、2週間後になると、無性に食べたくなってきてしまう味なんですよね。美味しいラーメン屋さんはほかにもたくさんありますが、「大勝軒」ほど「またどうしても行きたい」って強く思えるラーメンはなかったです。そのうち、「この味を自分でも作りたい」という思いが強くなり、山岸さんにお願いをして、修行をさせていただくことになりました。実家を継ぐのは、もうその時点で辞めてしまいましたね。
ーー「東池袋大勝軒」が立ち退きで閉店になった後、当時大崎にあった「六厘舎(ろくりんしゃ)」に入り、修行をされたそうですね。
「大勝軒」が閉店する時には、僕も独立開業しようかなどいろいろ考えたんですが、「このまま大勝軒の味だけで勝負するのは、リスクがあるかもしれない」と思って、「六厘舎」の味も覚えようと思ったんです。「大勝軒」が直球なら、「六厘舎」は変化球。
六厘舎店主の三田さんとも交流があったので。
「六厘舎」ではスープと営業のノウハウを覚えて、支店の「次念序(じねんじょ)」では店長をやらせていただきました。その後に「仁鍛」を開業しました。「仁鍛」は最初、六厘舎の会社で経営していて、店長という立場でしたが、開店当初から三田さんに「3年後には栗山は独立させる」と言われていました。味作りも任されていましたし、約束通りきっちり3年後に独立させていただきました。店名が「仁鍛」から「くり山」に変わったのも、そういう理由です。

独立に暗雲?公庫に融資を断れる。それを救ってくれたのは?
ーー開業までに一番苦労した点は何ですか?
「仁鍛」の開業について言えば、スープ作りです。麺はある程度、今までのベースが使えましたが、スープはそう簡単にはいきませんでした。最初の頃は「大勝軒」と「六厘舎」のスープを同時に作って、それを合わせたようなものを作っていましたが、それがなかなか安定しなくて。常連さんに「今日の味はどうでしたか?」なんて聞いたりもしました。だからうちは、常連さんと一緒に作り上げた味なんです。開業後も2本のスープのブレンドを微妙に変えたりして、かなり試行錯誤をしました。今ではようやく1本の寸胴で安定したスープを作れるようになりました。
「くり山」として独立する時については、お店を丸ごと個人で買い取る形になったので、資金繰りに奔走しました。融資をお願いしても、公庫には断られてしまって……。多分、僕のプレゼンが下手だったんでしょうね。最終的には仁鍛の行列を見てくれていた近くの神奈川銀行さんが、融資してくださいました。

「いらっしゃいませ」ではなくて「こんにちは」。つけ麺の名店が語る接客術とは?
ーーお店の経営の中で、特に大切にされている点は何ですか?
味はもちろんですが、店内の雰囲気も大事にしています。「お客様にとって居心地のいい空間」を作れるようにと意識しています。だから「いらっしゃいませ」ではなくて、「こんにちは」とか、「こんばんは」という挨拶をしていますし、こちらからメニューを押し付けたりもしません。これは山岸さんから教わった部分が大きいです。山岸さんはすごくお客様を大切にする方でしたから、それを受け継いでいきたいと思っています。

ーー将来はどんな夢をお持ちですか?
このお店は、この路線のままさらにブラッシュアップしていきたいと思っています。それとは別に僕にはずっと前から夢があって、それは「昔の大勝軒そっくりなお店」を作ることです。
うちには東池袋のお店にあった山岸さんが実際に使っていた製麺機があるので、それを使って当時と同じレシピで麺を打って、外観も内観も味も全部そっくりなものを作って、当時の東池袋の常連さんに来てもらいたいと思っています。
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