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社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。
スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。
第14回は、『お店でやってほしい仕事の整理』シリーズ第3弾として、「お店で必要なマインドを整理する」についてお届けします。目次
前回の振り返り
前回、お店で求められる能力の中でマインドが一番大切である、という話をしました。今回はそのマインドを会社やお店で具体的にする方法についてお話をしていきます。
飲食店はいろいろな人が一緒に力を合わせて働く職場
前回、飲食店の働き方の特徴の一つとして「お店にいることも仕事」という話をしました。飲食店はお店にいるだけでなく、その場の営業状態で常に仲間同士で何らかのコミュニケーションが生まれている職場です。自分の仕事だけやっていればよい、というデスクワークとは大きく異なる働き方です。
皆さんは常識がありますか?
ところで、みなさんは常識人間ですか?自分で自分のことを非常識と思っていませんか?おそらく、世の中の大半の人は自分のことを非常識とは思っていません。
例えば面接で人当たりの良い好青年から「僕、非常識ですが良いですか?」と言われたら採用をためらうでしょう。仮に「まさかこんな感じの良い人がそんなはずない」と思い採用し、本当にあり得ない非常識な行動をされたとします。
そこで「何やってんだお前!」と注意して「僕、面接のとき非常識って言いましたよね」と返されたら何も言えなくなってしまいますよね…。
一般的にはみんな常識をもって仕事をしているのです。あくまで自分としては、ですが。
しかし、
・男性と女性の常識は違う
・社会人と学生の常識は違う
・公務員と一般企業の人の常識は違う
・飲食経験者と飲食未経験者の常識は違う
など、人はそれぞれ立場によって常識が異なります。だから、自分の視点で常識を語り、他人のことは非常識に見えてしまう…ということが起こるのです。そしてその非常識な行動をされることがストレスにつながるのです。
お店の常識をつくることがマインドの“見える化”=言語化
日々一緒にお店で働く人たちは様々な背景を持った人たちです。価値観や考え方は同じではありません。アインシュタインは「常識とは18歳までに身に着けた偏見のコレクションだ」と言っています。人それぞれ生きてきた背景が違うので、常識が異なっていてもしょうがないのです。
だから、一人一人の常識がどうなのかではなく、お店の常識という形でマインドを具体的に言語化していくことが大切なのです。自分ではできているつもりになっているのも常識だからです。「大きな声で返事をする」という一つの常識をとっても、自分では「大きな声で返事をしているつもり」ですが、お店の仲間から見たら「蚊の鳴くような声」でしかないこともあります。だから具体的に“見える化”すること、言葉に直すことが大切なのです。
望む人間像を書き出すと失敗する
お店の常識としてすごくキラキラした言葉を書き出してスーパーマンのような人物像を書き出していくと失敗します。それは理想の人物であって、そもそも世の中に存在しないレベルの人物像かもしれません。すぐに形骸化してしまいます。
ではどうすればよいのか。それは簡単です。「お店で一緒に働きたくない人物像」を書き出すことです。過去にいた問題行動を起こすスタッフの人物像や、注意したいけどなかなかタイミングがないスタッフの行動など。ただ一点、注意が必要です。場所は「お店で」ということです。お店でする行動に限定してください。
もしあなたがオーナーで経営幹部がいるのであれば、一緒に出尽くすまで「お店で一緒に働きたくないやつ」をあげるのも効果的な方法です。そして、挙げた「お店で一緒に働きたくない人物像」を前向きな言葉に直せばマインドの言語化は完成です。
例としてあげてみます。左側が「一緒に働きたくない人物像」で右側がそれを前向きな言葉に直したものです。
嘘をつく人→嘘をついていない
人の目を見て挨拶しない人→相手の目を見て挨拶をしている
笑顔がない人→お店基準の笑顔で仕事をしている
不潔な人→常に清潔な身だしなみをしている
ネガティブな発言をする人→前向きな言葉を使っている
人の悪口を言う人→お店の仲間の悪口や陰口を言っていない
嘘をついて、笑顔がなくて、不潔でネガティブ発言ばかりで、悪口ばかり言う人、一緒にお店で働きたくないですよね。でもいちいち注意をするほど暇でもないですよね。これを営業中に注意ばかりしていたらお店の雰囲気も悪くなり、いい営業につながらなくなってしまいます。だから日常的に運用することが大切になるのです。作りっぱなしにせず日常会話のネタとして活用する
以上の方法で具体的に言語化したマインド、飾っておくだけでは全く機能しません。それはなぜか。今まで話してきたように、「自分はできている」と思っているからです。できていないことを自分では気づいていないので、まずは気づいてもらう機会が必要です。
方法としては「月次セルフチェック」をしてもらい、店長さんと3分面談。チェック内容と店長さんが感じている結果について、対話を通じて改善させていきます。店長さんの実感とセルフチェックの結果に差がなければそのスタッフはみんなから「お店で一緒に働きたいと思われている人」ということができます。なお、弊社で提供している労務AIを活用し、全部自動で面談シートを提供することもできます。
最後に、一つだけ注意点。面談をする店長さん自身がマインドを身に着けていなければ機能しないので、自分自身も上司などに面談をしてもらいましょう。
今回のキーワード:マインドを言語化して日常的に使うこの記事の執筆
㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長
黒部 得善
1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。
<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)
<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー
<労務AI 公式サイト>
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