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社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。
スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。
第11回は、「人手不足なのか人が辞めすぎなのか」というテーマのPart6として、「これまで学んだ対策を実践する方法」についてお届けします。目次
前回の振り返り
過去5回にわたって人手不足について話をしてきました。ただ人手不足に嘆くよりも人が辞めすぎているのではないかと問題提起して考えたほうが最適な解決策が見つかります。
人手不足でやるべき対策は「人が辞めすぎている問題」への対策であり、社員の労働環境を改善させるために必要な取組みです。
では、具体的に何を行えばよいのか?今回は“人出不足というよりも人が辞めすぎ”のまとめとして、具体的な方法を記していきます。初日~1週退職をなくすために雑なことをしない
初日~1週以内の退職の原因は“雑”です。次のチェックシートを一人一人の採用のたびにつけてください。多くのアルバイトを受け入れる店長さんからす見ると面倒かもしれませんが、人が辞めなくなれば、チェックの回数はどんどん少なくなります。
✔労働条件通知書(雇用契約書)の内容をちゃんと説明している
✔やっちゃダメなことを最初から伝えている
✔名札、制服、ロッカー、靴などが準備されている
✔既存スタッフに新人スタッフの情報共有がされている
✔既存スタッフの方から名前を呼んで挨拶できている
✔最初にオリエンテーション(卓番、メニュー、ルール等)を実施している
✔最初に店内ツアーをして、説明し、既存スタッフに紹介している
あたりまえすぎることを記しているチェックリストですが、初めて出勤した新人さんは緊張をしています。そして、人間関係もできていません。なので、お店のみんなで役割分担をしてでも徹底してみてください。
4週以内の退職をなくすために、放置にならないコミュニケーション=面談をする
丁寧な受け入れをしても人が辞めてしまう原因は“放置”しているからです。初期教育として教えているときは当然コミュニケーションの量は増えます。しかし、一通り教え終わると「わからないことあったら聞いてね」と放置してしまうことがほとんどです。新人スタッフがまだまだ“緊張”しているということを忘れないでください。
放置にならないようにするためには、「質より量の面談が必要である」「立ち話3分面談でよい」と第7回で書きました。それでは具体的にどのような面談をするのでしょうか。ポイントは、相手に話をしてもらう質問を投げかけること、つまり、オープンクエスチョンにする、ということです。
《事前準備》
①新人のほめるべき事項を3つ準備しておく。
②現在の新人の教育進捗レベルと、現在の役割を把握しておく。
《面談当日の質問事項》
= アイスブレイク =
「入社して4週間たちました。仕事に慣れてきているかと思いますが、だからこそ、質問しづらいことや言いづらいことも出てきているかと思いますので、思ったままのお話をしたいです。」
= 立ち話3分面談で質問をすること =
質問1:「●●さんは、理念を覚えましたか?」
【質問の目的】理念教育がなされているかを確認し、理念の重要性を伝える。
質問2:「●●さんが、最近任されている仕事を教えてください。」
【質問の目的】任せっぱなしになっていないかを確認する。
質問3:「●●さんは、任された仕事で、わからないことがあれば、誰に質問・相談していますか?」
【質問の目的】聞きやすいか、躊躇していないか、聞き方がわからないということはないかを確認する。
質問4:「●●さんが、最近、仕事で嬉しかったと思ったことを教えてください。」
【質問の目的】”ない”ときは、仕事の意味や意識が教えられていないから。ちゃんと、仕事の意味を持って教えてもらえているかを確認してください。
質問5:「最後に、面接時に聞いた話と違うと思っていることはありますか?すぐに直します。」
【質問の目的】面接時に聞いていたことと違うな、と思うことを直すことを約束したうえで締める。
= 締めの言葉 =
今、ほめるべき事項をほめながら、このまま頑張って、と締める。
3分でできることは意外に多くあります。「面談する時間がない」という言い訳ではなく、3分で人が辞めなくなる、という思いで挑んでください。
8週の壁を乗り越えるために相手のモチベーションを観察する
入社して8週になり、やっと落ち着いてきます。冷静に今の仕事を見てすでにマンネリ化していたら退職を考える時期です。だからこそ、新人スタッフをきちんと観察し新人スタッフのやる気のもとを見つけるための観察をしなくてはなりません。観察するポイントは以下の質問にあてはまるものを5点、あてはまらないものを1点というように採点をしてください。点数の高い項目が新人スタッフのやる気のもとです。
①スタッフは楽しんで仕事をしてるように見える【適職】
②スタッフは自らの仕事を納得したうえで仕事をしている【適職】
③スタッフは仕事仲間とうまくやっていこうとしている【人間関係】
④店舗内の人間関係は良好だと思う【人間関係】
⑤スタッフは知っている知識や経験をもって主導的に仕事をしている【職務管理】
⑥スタッフは新しい知識ややり方をどん欲に吸収しようとしている【職務管理】
⑦スタッフは仕事でアイデアや工夫をしたりすることが好き【自己表現】
⑧スタッフはミーティングの場などで積極的に発言している【自己表現】
⑨スタッフは目標を提示するといつもよりがんばる【業務遂行】
⑩スタッフはシフト時間内に必死に仕事をしている【業務遂行】
⑪スタッフはほめたり、期待を告げたりするとやる気が高まる【期待・評価】
⑫スタッフは仕事で何が期待されているか理解している【期待・評価】
⑬スタッフが仕事上の困難がある場合、サポートすれば乗り切っている【環境適応】
⑭スタッフは難しい仕事や突発的な仕事をしている【環境適応】
⑮スタッフは仕事の手順をしっかり明示されることを求めている【環境整備】
⑯スタッフは仕事の役割分担に満足していると思う【環境整備】
⑰スタッフの勤務シフトに無理がない【プライベート】
⑱スタッフは仕事を友人や家族に自慢できていると思う【プライベート】
お店からコミュニケーションを生み出す
チェックする具体的な方法例をあげてきました。これらの方法はすべて、お店が主体的にコミュニケーションを生み出していくことで成り立つものです。新人スタッフの3か月以内離職をゼロにするためには、お店からコミュニケーションを生み出し続けることが一番大切です。
今回のキーワード:コミュニケーションを生み出すのはお店からこの記事の執筆
㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長
黒部 得善
1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。
<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)
<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー
<労務AI 公式サイト>
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