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社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。
スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。
第6回は、「人手不足なのか人が辞めすぎなのか」というテーマのPart1として、労務データに基づいた飲食業の人手不足の実態についてお届けします。前回は「勤怠データを活用する」という話をしました。今回は、昨今の飲食業を取り巻く人手不足問題について、データをもとに対応策について考えてみたいと思います。
飲食業は本当に人手不足なのか
コロナ後の飲食業界は未曽有の人手不足と言われています。コロナをきっかけに飲食業の人々が大量に業界を離れたのは記憶に新しいでしょう。
しかし、思い出してください。コロナ前も飲食業界では人手不足が問題視されていたと思います。私はその原因はオーバーストア、つまりお店の数が多すぎたことが原因だと考えています。
ここで、飲食業界と並んで人手不足と言われている運送業・宿泊業・介護業の人手不足問題と比較して考えてみましょう。もともと人手不足の中、運送業はネットショッピングの影響などで物流量が増え、宿泊業では客室数が1.5倍以上増え、介護業界では介護対象者が増えています。どの業界も、さまざまな要因が重なって人手不足が加速しているのです。それでは飲食業界はどうか。コロナ前と比べてお店の数は減りましたが、まだ先に挙げた業界と同水準には達していません。
前回お話したように、飲食業界のアルバイトがシフトに入る頻度の平均は週2.9回から2.0回へ減りました。このようにシフトに入ってくれる人が減ったという事実はありますが、もう一つ「人が辞めすぎ」という事実もあります。
辞めすぎという話をするとよく「今どきの若い子は飲食業に耐えられない」「きつい仕事を敬遠している」と言われますが、そうでしょうか。アルバイトの応募者のうちほぼ100%が飲食未経験者であれば証明できますが、レベルの差はともかく、春先など新生活シーズンを除けば、飲食店でアルバイト経験がある方が多く応募してきていると思います。
つまり根性論だけで辞めたのではなくて、そのお店が嫌だから辞めただけなのです。
コロナ前とコロナ後もアルバイトの辞め方は変わっていない
労務AIのデータ解析を通じてお店のアルバイトはいつ辞めるのかを15年ほど調査してきていますが、傾向値は全く変わっていません。採用して3カ月の間に傾向の変化が3回あります。
お店や業態によりずれはありますが、私はこれを“1・4・8の法則“と定義しています。3カ月間で離職の原因が3回変わっているのです。
<1・4・8の法則>
1週以内【初日も含む】の退職 ・・・受け入れ方が雑だから辞める
4週以内の退職 ・・・一通り教えたら放置されて辞める
8週以内の退職 ・・・マンネリ化して希望を持てずに辞める
1週以内の退職
この原因は一言でいうと「雑」です。
初出勤日に名札も制服も用意されていない。ましてや当日なにをやるかも決まっていない。他のスタッフも今日から新人が来ることを知らない。緊張している中で人として雑な扱いをされたら、そんなお店の人たちと仲良くなれると思えないし、そもそも不愉快です。だからすぐに辞めてしまいます。
ちなみに面接で採用して出社日に来ない子が増えた、とよく耳にしますが、これも似た傾向があります。面接の内容が雑で、「いつからこられる?」しか聞いていない面接。自分に関心を持っていないお店にわざわざ行こうとは思いません。
4週以内の退職
この原因を一言でいうと「放置」です。
入社からきちんと丁寧に受け入れをし、初期教育もカリキュラム通りにきちんと丁寧に教えます。そしてきちんと教え終わってから「じゃ、わからないことがあったらすぐに聞いてね」と笑顔で放置するのです。
一通り教えてもらったからといって、他のスタッフと人間関係を構築したわけでもないし、忙しい飲食店において、おいそれとわからないことをすぐに質問できる環境でしょうか。一通り教えられて放置され、そして辞めていくのです。8週以内の退職
8週と書きましたが、正確には8~12週に発生する退職傾向です。この原因を一言でいうと「マンネリ」です。
入って2ヵ月経過するころから緊張感は収まり、そして冷静になります。その時にマンネリが発生しています。これ以上いても楽しいことはなさそう・自分の成長はなさそうと感じると退職していきます。
なぜ成長はなさそう、と感じさせてしまうのか。それはコミュニケーションの質が影響します。相手のことを見たコミュニケーションなのか一方的なコミュニケーションなのか。人それぞれやる気のスイッチは異なります。相手のことをきちんと観察し、相手に合ったコミュニケーションが求められる中、一方的なコミュニケーションでは先が楽しく見えずに退職してしまいます。1・4・8週それぞれの具体的な取るべき労務の仕方は次回以降に詳しく説明します。
今回のキーワード:自分のお店の辞められ時を把握し対策を取るこの記事の執筆
㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長
黒部 得善
1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。
<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)
<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー
<労務AI 公式サイト>
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