飲食店経営において、マーケティングは成功の鍵を握る重要な要素の一つです。どれだけおいしい料理を提供していても、適切なマーケティング戦略がなければ、多くの人に知ってもらうことはできません。
本記事では、飲食店におけるマーケティングの必要性を解説するとともに、効果的な手法をデジタルとアナログにわけて解説します。新規顧客の獲得やリピーターの増加につなげるためのヒントを知り、マーケティングに取り組む際の参考にしてください。
目次
飲食店におけるマーケティングの必要性
はじめて起業する場合、「今までマーケティングに関わったことがない」という方もいるのではないでしょうか? ここではマーケティング初心者向けに以下の2点について解説します。
●飲食店でもマーケティングが必要な理由
この章では、マーケティングの定義と役割を把握していきましょう。
そもそもマーケティングとは
マーケティングとは、商品やサービスを顧客に適切に届けるための一連の活動を指します。つまり「売れる仕組みを作るための活動」です。
単なる広告や宣伝だけでなく、市場調査、ブランディング、価格設定、販促活動など、多岐にわたる活動が含まれます。企業や店舗が持続的に成長するためには、顧客のニーズを的確に把握し、それに応じた商品やサービスを提供することが重要です。
例えば、大手外食チェーンではターゲット層に合わせたメニュー開発やプロモーションを行い、SNSを活用したマーケティングでブランドの認知度を高めています。このように、マーケティングは売上向上だけでなく、顧客との関係を強化し、リピーターを増やすための重要な手段となります。
飲食店でもマーケティングが必要な理由
飲食店においてマーケティングが必要な理由は、主に3つあります。
1. 競争が激しい市場での生存戦略
飲食業界は競争が激しく、新規参入者も多いため、他店との差別化が求められます。狙うべきターゲット層を設定したのち、ターゲット層に刺さるメニューを考案、ターゲット層が最も使っているであろうSNSでの発信が競争が激化する飲食ジャンルでの勝ち筋です。
2. 集客力の強化
新規開業の飲食店は認知ゼロからのスタートなので、マーケティング施策を活用して地域の人々に店舗の存在を知ってもらうことが重要です。MEO(Googleマップ検索対策)やオンライン広告を活用することで、効果的に集客を行えます。
3. リピーターの獲得
単発の集客だけでなく、顧客がリピートしたくなる仕組みを作ることが売上安定には欠かせません。ポイントカードやSNS、メールマガジンなどを活用し、継続的な接点を持つことで、顧客との関係を強化できます。
飲食店のマーケティングで必要になるCRMとは?
CRM(Customer Relationship Management)とは、顧客との関係を管理し、維持・強化するための仕組みを指します。顧客データを収集・分析し、それを活用することで、マーケティング施策の精度が向上します。
飲食店においてCRMが重視される理由は、リピーターの獲得と売上の安定化に直結するからです。新規顧客の獲得には多額の広告費がかかる一方、既存顧客のリピート率を高めることは効率的な売上アップにつながります。
【CRMに関する取り組みの例】
店舗が行うこと | CRM |
顧客リストを作成する | 顧客情報の管理 |
顧客にアンケートを取る | 顧客の趣味嗜好を把握する |
次回来店時に使用できるサービス券の配布 | 再来店を促しリピーターの獲得につなげる |
飲食店がすべきマーケティングとは?
飲食店が効果的なマーケティングを行うためには、取り組む順番が大切です。まずは以下の3つのステップを踏むことで、店舗の強みが生かせるようになり、売上アップにつながります。
② ユーザーについて知る
③ 施策を考える
一つずつ詳しく解説していきます。
①店の現状を確認する
マーケティング戦略を考える前に、まずは自店の現状を正しく把握することが重要です。店舗の立地や客層、売上データ、競合店との比較など、多角的に分析することで、自店の強みや課題が明確になります。
POSレジや売上管理システムを活用すれば、来店客数や売上の推移が記録・分析できます。また、顧客アンケートを実施することで、サービスやメニューに対する評価を収集し、改善点を見出せます。
さらに、競合調査も欠かせません。近隣の店舗がどのような施策を行っているか、価格帯やメニュー構成はどうなっているかをリサーチすることで、自店の差別化ポイントが明らかになるでしょう。
②ユーザーについて知る
自店の現状を把握したら、次にターゲットとなるユーザーについて深く理解しましょう。どのような客層が来店しているのか、また、その客層の好みや行動パターンを把握することで、マーケティング施策の精度が向上します。
ユーザー分析を活かしたマーケティング手法は以下のようなものがあります。
年齢層・性別の分析 | 顧客の属性を把握し、 ターゲットに最適なメニューやサービスを考える。 |
来店目的の把握 | ランチ利用、ディナー利用、テイクアウトなど、 ニーズに合わせた施策を実施する。 |
SNSの活用 | InstagramやFacebookの投稿内容を分析し、 顧客の関心が高いトピックを特定する。 |
また、LINE公式アカウントやメールマガジンを活用してアンケートを実施し、顧客の意見を直接収集するのも有効です。ユーザーの声を積極的に取り入れることで、より魅力的なサービスの提供が可能になります。
③施策を考える
飲食店のマーケティング施策を考える際には、店舗の現状分析とターゲットユーザーの理解を基に、目的に沿った戦略を立案することが重要です。具体的には、以下の流れを意識するとスムーズに進められるでしょう。
・ランチタイムの売上がディナーより大幅に低い
・近隣にオフィスは多いが、来店客が少ない
・平日の集客が弱い
・近隣の会社員は時間が限られているため、提供スピードが重視される
・価格も重要な要素であり、リーズナブルなランチを求める傾向がある
・SNSの利用率が高く、オンライン情報の影響を受けやすい
課題 | 解決策 | 実施方法 |
ランチの利用者が少ない | 近隣オフィス向けのPRを強化する | チラシ配布、SNSを活用する |
提供スピードが遅い | 事前注文システムを導入する | LINEやアプリ等を活用して注文を受け付ける |
メニューが魅力的ではない | お得なランチセットを設定する | ・期間限定の割引キャンペーンを行う ・セットメニューを追加する |
飲食店のマーケティングに効果的な手法【デジタル編】
デジタルマーケティングは、現代の飲食店経営において欠かせない手法です。特にインターネットの普及により、オンライン上での情報発信が集客に大きな影響を与えています。主なデジタルマーケティングの手法は以下の6つです。
●MEOに力を入れる
●SNSで発信する
●動画配信を行う
●グルメサイトに掲載する
●オンラインで予約できるようにする
それぞれ詳しく解説していきます。
ホームページを作成する
飲食店の公式ホームページは店舗の情報を正確に伝え、信頼性を高めるための有効なツールです。ホームページには、主に以下のような情報を掲載します。
●メニューや料金
●写真付きの店舗紹介
●予約・問い合わせフォーム
さらに、スマートフォン対応のデザインにすることでユーザーの利便性が向上し、集客につながります。また、SEO(検索エンジン最適化)を行い、「地域名+業態(例:渋谷 カフェ)」で検索した際に上位表示されるように工夫することも重要です。
MEOに力を入れる
MEO(Map Engine Optimization)とは、Google MAPの検索結果で上位に表示されるように最適化する施策です。多くのユーザーがGoogle MAPを利用して飲食店を探すため、MEO対策を行うことで高い集客効果が期待できます。
【MEO対策のポイント】
●正しい店舗情報(住所、営業時間、電話番号)を記載する
●写真やメニュー情報を定期的に更新する
●口コミには必ず返信をする
特に口コミへの返信は、検索順位に大きく影響するといわれています。批判的な口コミであっても返信するようにしましょう。
SNSで発信する
SNSを活用することで、低コストで効果的なマーケティングが可能になります。飲食店が利用する代表的なSNSには以下のようなものがあります。
SNS | 特徴 |
写真や動画を活用し、視覚的に魅力を伝えやすい | |
X(旧Twitter) | リアルタイムの情報発信やキャンペーン告知に適している |
イベントや長文の投稿、地域コミュニティ向けの情報発信に最適 |
【SNS運用のポイント】
●ターゲット層に合ったコンテンツを作成する
●ユーザーとの積極的な交流を図る(コメント返信、アンケート実施など)
特に画像や動画メインのInstagramは飲食店との相性に優れています。ハッシュタグをうまく活用し、ターゲット層にリーチするようにしましょう。
動画配信を行う
動画配信は、静止画や文章よりも視覚的に強いインパクトを与えられるため、効果的なマーケティング手法として注目されています。YouTubeやTikTok、Instagramのリール機能を活用し、以下のような動画を配信すると集客につながります。
●店舗の雰囲気やスタッフの様子を伝える
●おすすめメニューの実食レポート
●シェフが料理に対する疑問や質問に答える
動画は短時間で店舗の魅力を伝えられるうえに、視聴者の関心を引きやすいメリットがあります。特に、ショート動画が人気のTikTokでは、ユニークな企画や演出を加えることで拡散効果を高められます。
グルメサイトに掲載する
グルメサイトへの掲載は、オンライン上での認知度を高め、集客を増やすために有効な手段です。主要なグルメサイトとしては、以下のようなものがあります。
グルメサイト | 特徴 |
食べログ | ランキングや口コミ機能が充実している |
ぐるなび | 接待・宴会利用のユーザーが多い |
ホットペッパーグルメ | クーポンやポイント利用のユーザーが多い |
これらのサイトに掲載する際は、高品質な写真や正確な店舗情報を掲載し、ユーザーにとって魅力的なページを作成することが重要です。また、クーポンの配布や期間限定のキャンペーンを実施すると、より多くの顧客を獲得できます。
オンラインで予約できるようにする
現代の消費者は、スマートフォンを活用して簡単に予約ができる店舗を好む傾向にあります。そのため、オンライン予約システムを導入することで、集客力の向上が期待できます。
【オンライン予約を導入する方法】
●予約システムを提供するサービス(例:TableCheck、EPARK)を活用
●グルメサイトの予約機能を利用
オンライン予約システムによって、24時間いつでも予約が受付可能な仕組みを作ることで、顧客の利便性が向上し、来店率アップにつながります。
飲食店のマーケティングに効果的な手法【アナログ編】
デジタルマーケティングが普及する中でも、アナログマーケティングは依然として有効です。特に、地域密着型の飲食店では、直接顧客にアプローチできるアナログ手法が効果を発揮します。主なアナログマーケティングの手法は以下の5つです。
●チラシのポスティングを行う
●ディスプレイ看板やのぼりを設置
●既存客へのダイレクトメール
●飲食店を紹介する雑誌に取り上げてもらう
どのような手法なのか、順に解説していきます。
チラシを配る
チラシ配布は、特定のターゲット層に直接アプローチできる効果的な手法です。特に、オープン記念や期間限定のキャンペーンを告知する際に高い効果が期待できます。
【効果的なチラシ作成のポイント】
●クーポンや特典を付ける(例:初回来店10%OFF)
●連絡先や営業時間を明確に記載する
配布場所は、駅前や商店街、ランチタイムのオフィス街など、多くの人がいる場所が適しています。ターゲット層に届きやすい場所を選ぶことも重要です。
チラシのポスティングを行う
ポスティングは、商圏地域に直接アプローチできる手法です。特に、新規オープンの飲食店が認知度を高めるために有効です。
【効果的なポスティングの方法】
●配布時間帯を工夫し、ポストに埋もれないようにする
●配布枚数をコントロールし、反響を分析する
特に、ランチ需要が高いエリアやファミリー層が多い地域では、集客効果が期待できます。しかし、頻繁に同じエリアで行うと、迷惑がられる可能性もあるため注意しましょう。
ディスプレイ看板やのぼりを設置
店頭に設置するディスプレイ看板やのぼりは、通行人に店舗の存在をアピールする手段として有効です。
【効果的な設置ポイント】
●看板メニューやおすすめメニューを掲示する
●夜間営業の店舗はライトアップすることで視認性を向上させる
特に、歩行者の多いエリアでは、通行人の興味を引く内容を掲示することで集客効果が期待できます。ただし、道路への看板等の設置は禁止されているため、設置場所に関しては事前の確認が必要です。
既存客へのダイレクトメール
リピーターを増やすためには、定期的なダイレクトメール(DM)の送付が効果的です。
【ダイレクトメールの活用方法】
●季節限定メニューの紹介
●リピーター向けの特別イベントの案内
ダイレクトメールは印刷したもので問題ありませんが、一言だけでも手書きのメッセージを入れると、顧客の反応がよくなります。
飲食店を紹介する雑誌に取り上げてもらう
飲食店向けの雑誌や地域情報誌に掲載されることで、認知度向上と新規顧客獲得につながります。取材を待つのではなく、こちらから雑誌の編集部へ連絡しましょう。
【雑誌掲載のポイント】
●取材を受けるための魅力的なプレスリリースを作成する
●料理の特徴や店舗のこだわりを明確に伝える
しかし、掲載を依頼する雑誌はどこでもよいわけではありません。集客効果を高めるためには、ターゲット層が読む媒体を選ぶようにしましょう。
飲食店マーケティングの成功した事例を紹介!
揚げたて天ぷら店
2020年に開業した当初は順調な滑り出しを見せたものの、すぐにコロナ禍へ突入。緊急事態宣言の影響もあり、一気に客足が落ち込んだそうです。
激減した売上を挽回すべく、天丼と天ぷら盛り合わせのテイクアウトを始めることを決意。始めるにあたり、チラシを作り、自分たちでポスティングを行いました。これが功を奏し、テイクアウト事業が急激に伸び、安定した売上の確保に成功しました。
こちらの事例からは、ターゲットへ必要な情報が届けられれば、大きな手間や費用をかけなくても成功することが学べます。
焼き鳥居酒屋
焼酎にこだわりながら、あえてボトルキープ制を取り入れないことで成功しているのがこちらの居酒屋です。ボトルキープの必要がないため、限られたスペースでも50種類もの焼酎を取り揃えることが可能になりました。
焼酎の種類を増やすことで、顧客の「制覇してみたい!」という気持ちを引き出す戦略です。店では「コンプリートカード」を用意し、積極的に焼酎制覇を促しています。制覇した方にはプレゼントを贈呈するなど、抜かりはありません。
顧客へ来店の動機を明確に示し、再来店の頻度とペースをあげることに成功した好例です。
台湾のバンズとドリンクのテイクアウト専門店
国内ではめずらしい、台湾饅頭を提供するテイクアウト専門店のSNS活用事例です。こちらの店舗は、オープン前からInstagramやFacebookのアカウントを作成し、内装工事の様子などを写真で紹介していました。
これを見た周辺地域の方々のあいだで、「どんな店ができるんだ?」と噂が広まっていたそうです。その影響もあり、馴染みのない業態でありながら開店直後から地元客に支えられ、売上も好調をキープしています。オープン後もそれぞれのSNSでは店舗の告知のほか、地元のネタを投稿し、ターゲット顧客を地元客に限定。欲をかかずに、店の規模とコンセプトに合ったターゲット顧客を設定して成功した実例です。
まとめ
飲食店経営において、マーケティングは集客力の向上や売上の安定に不可欠な要素です。デジタルとアナログの手法を適切に組み合わせることで、より効果的な戦略を実行できます。
マーケティング施策を実施する際は、店舗の現状を把握し、ターゲット顧客を明確にしたうえで、最適な手法を選択することが重要です。さらに、施策の効果を定期的に測定し、改善を重ねれば、より高い集客効果が得られます。マーケティングの重要性を理解し、効果的な戦略を実践することで、長期的な店舗の成長につなげましょう。
