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飲食店運営にあたって直面するさまざまな事故やリスク。今回は「飲食店での火災」と「労働災害」の2つを取り上げます。飲食店火災と労働災害を防ぐために必要なものとは何なのか?具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
目次
飲食店火災の防止
飲食店火災の主な原因は「不注意」
飲食店は火を扱う頻度が高く、油汚れも多いことから、火災リスクが高い業種です。東京消防庁が公表する「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策 ガイドライン」によると、東京消防庁管内における火災総件数は年々減少する一方、飲食店からの火災件数は増加傾向にあります。
飲食店火災の約半数は厨房設備からの出火で、火災原因は「放置する・忘れる」が30%でトップ。煮込みなどの調理中に火をかけたままその場を離れ、うっかり放置する・忘れるという不注意が要因となっています。
飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策 ガイドライン飲食店火災の事例
【事例1】
フライパンで油を熱している間に、ストック場へ食材を取りに行ったりオーブン料理の焼き具合を確認したりなど。複数の作業に気を取られているうちに、フライパンの油が熱くなりすぎて出火。
【事例2】
使用済みの揚げ油を廃棄するため、鍋に凝固剤を入れてコンロで加熱。その間に別のスタッフに呼ばれて対応している間に、油が熱くなりすぎて出火。
【事例3】
洗って絞ったふきんを厨房内で干して乾かしていたところ、火のついたコンロに落下して引火。
【事例4】
長年掃除を怠っていたガス給湯器のフィルターに油やほこりが溜まり、目詰まりを起こして出火。
【事例5】
消毒用アルコールの詰め替え作業を厨房内で行っていたところ、誤って火のついたコンロに近づき引火。
飲食店火災を防ぐには?
紹介した火災事例はどれも適切な管理を怠らなければ防げたことだといえます。まずは従業員の防火意識向上を図るとともに、厨房設備の定期的な点検・清掃を行うことが不可欠です。
●防火意識の向上を図る
前述の通り、飲食店火災の多くは人為的不注意がきっかけで発生しています。まずは「調理中に火をつけたままその場を離れない」「火の近くに可燃物を置かない」などの基本事項について指導し、アルバイトスタッフを含む全従業員の防火意識を高めていくことが重要です。
また、万が一飲食店で火事が起きた場合には、通報や初期消火に加えて、お客様への案内や避難誘導も必要となります。落ち着いて対応ができるようにマニュアルを作成したり、消防訓練などでシミュレーションをしたりと日頃から準備をしておきましょう。
●厨房設備の定期的な点検・清掃
コンロ周りや換気扇のフィルター、排気ダクトなどに油やほこりが溜まっていると、そこに火がつき、延焼が拡大する可能性が高まります。換気扇や排気ダクトはついつい清掃を後回しにしがちですが、衛生面でも良くないため、定期的に点検・清掃を行いましょう。
流し台や冷蔵庫・冷凍庫などその他の厨房設備についても、油で汚れていないか、コンセントがほこりまみれになっていないかなどを定期的にチェックしてください。
消火設備の設置や届出も必須
飲食店火災を防ぐために、開業時には、消防法にのっとった消火設備の設置や届出なども欠かせません。消防法については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
労働災害の防止
労働災害の状況
労働災害とは、社員やアルバイトなどの労働者が労務に従事したことによって怪我をしたり、病気になったり、亡くなったりすることをいいます。
厚生労働省が公表する「令和3年労働災害発生状況の分析等」によると、令和3年の飲食店の労働災害(休業4日以上の死傷者)は5,095人。新型コロナウイルス感染症への罹患による労働災害を除くと4,745人でした。
事故の型別で一番多いのが「転倒」で1,390人。続いて「切れ・こすれ」が901人。「高温・低温の物との接触」が757人。「動作の反動・無理な動作」が435人となっています。
「転倒」と「切れ・こすれ」で全体の約半分を占めており、「転倒」は高齢者、「切れ・こすれ」は30歳未満の若者に多い傾向があります。
令和3年労働災害発生状況の分析等
【ケース1】転倒
転倒による労働災害は、床が水や油で濡れていたことによる「滑り」と、荷物や配線などの障害物への「つまずき」が大半を占めています。
【災害事例】
・たくさんの料理が乗ったトレイを両手で運んでいる最中、通路のワゴンに足を引っかけて転倒した。
・客席の床清掃でモップをかけていたところ、濡れた床に足を滑らせて肘を打ち、負傷した。
・ストック場で高い位置にある食材を取ろうと足を踏み入れた際、電気配線に足を引っかけ転倒した。
・厨房内の洗い場で食器を運ぶ際、誤って足を滑らせて転倒し、膝を床に強打した。
【転倒を防ぐための対策】
両手がふさがっていたり、大きいもの・重いものを持っていたりすると、足元や前方が見えにくくなり、身体のバランスも取りづらくなることから、転倒のリスクが高まります。また、床の濡れや障害物の存在、通路の照明が暗いなど、作業環境面の要因が加わると転倒リスクは更に増大します。転倒を防ぐために、以下のような対策が挙げられます。
・ホールや厨房の床は常に清潔な状態を保ち、濡れたらすぐに拭き取る習慣をつける。
・大きいもの、重いものは台車を使用して運ぶ。
・台車を使えない場合には、2人で運ぶか、複数回に分けて運ぶ。
・通路に荷物や配線が飛び出ないように注意する。
・通路やストック場の照度を十分確保する。
【ケース2】切れ・こすれ
「切れ・こすれ」による労働災害は、包丁などの刃物や食品加工用の機械、割れた食器などが主な要因となっています。
【災害事例】
・魚を三枚におろす作業中、手元が狂い、持っていた包丁で中指を切った。
・包丁で野菜を切っている最中に、よそ見をして親指を切った。
・ハムスライサーを洗浄していたところ、誤って指が入り3針縫う怪我を負った。
・ワイングラスを洗っている最中に誤って破損してしまい、割れたガラスで手を切った。
・缶詰を開ける際、尖ったフタの切り口に指が触れて出血した。
【切れ・こすれを防ぐための対策】
刃物や食品加工用機械による「切れ・こすれ」は特に重篤度が高く、手指の欠損などの重い障害が残る可能性も少なくありません。切れ・こすれを防ぐため、以下のような対策を徹底しましょう。
・刃物を使用する際は目線を外さない。
・滑りやすい食材、転がりやすい食材を扱う時には、特に注意を払う。
・食器を洗う際には、ゴム手袋など手先を保護するものを着用する。
・割れた食器、欠けた食器がないかを定期的にチェックする。
・缶のフタや縁などの鋭利な部分に注意する。
・食品加工用機械の清掃・点検時には、機械が完全に止まっていることを確認してから作業する。
【ケース3】やけど
厨房で発生しやすく、熱湯や高温の油、スープやコーヒーなどの高温の料理・飲料によってやけどを負うケースが多く見られます。
【災害事例】
・フライヤーで揚げ物をしている際、飛び散った油が顔にかかり、やけどをした。
・コーヒーの抽出直後、コーヒーメーカーの保温プレートに誤って触れてしまい、やけどを負った。
・熱湯が入った鍋を洗い場に運ぼうとした際、スタッフ同士でぶつかり、熱湯が身体にかかってやけどをした。
・高温の油が入ったフライパンの柄が身体に当たり、そのはずみでフライパンが落下したことで足にやけどを負った。
・高温のスープを器に注ぐ際、よそ見をしてこぼしてしまい手をやけどした。
【やけどを防ぐための対策】
熱湯を頭からかぶってしまうなど、場合によっては「切れ・こすれ」以上に重症を負う危険も。やけどを防ぐために求められる対策として、以下が挙げられます。
・熱湯や高温の油、料理を扱う際には、決して目を離さない。
・フライヤーを使う際には、長靴、長いエプロン、耐熱の手袋など、身体を保護するものを着用して作業する。
・熱湯が入った鍋など熱いものを持って移動する時には、周囲への声掛けを忘れず行う。
・油の交換作業やフライヤーのメンテナンス時も、高温の油に触れるリスクがあることを意識して作業する。
4Sを徹底し、安心安全な飲食店運営を目指そう!
今回取り上げた「飲食店火災」も「労働災害」も、その防止には従業員の意識向上と環境の管理が欠かせません。災害防止の基本となる「4S(整理、整頓、清掃、清潔)」を徹底し、行動ルールやマニュアルを定めたり、それを定期的に見直したりすることが必要です。
大切なお客様と従業員を守るために、いま一度自店の現状を確認し、飲食店火災と労働災害の防止に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか。
ライター:上田はるか(フリーライター)
大学卒業後、輸入食品商社に勤務し、新規店舗の立ち上げや自社直営ティーサロンのメニュー開発を経験。その後、大手ギフト会社の企画開発部、広報宣伝部を経てフリーランスに。現在はWEB媒体をメインに、食ジャンルの原稿執筆を行う。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
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