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記録的な猛暑が続いた2022年の夏。電力需給のひっ迫によって全国に7年ぶりの節電要請が出され、電力不足が深刻な問題となりました。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化でガスの供給にも影響が及んでおり、今後政府がガス節約要請を出す可能性も高まってきています。
そこで今回は、昨今の電力・ガス不足の原因について解説するとともに、飲食店にできる節電・節ガス対策について詳しく紹介します。目次
深刻化する電力不足
2022年6月、記録的な猛暑の影響を受けて、東京電力管内に初めて「電力需給ひっ迫注意報」が発令されました。この注意報は5月に政府が新たに設けた制度で、電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回ると見込まれる場合に、前日の午後4時をめどに発令されます。
7月からは全国の家庭や企業に7年ぶりとなる節電要請が出され、電力不足が深刻な問題に。過去にないほどの節電の夏となりました。さらに、今冬も引き続き大幅な電力不足が懸念されることから、政府は全国の家庭や企業に節電を要請する方針だと述べています。
そもそも電力不足とは、電力供給の予備率が3%を切る状況のことを示します。予備率が3%を下回ると需要と供給のバランスを整える「同時同量」の原則が崩れ、電気の周波数が崩れて正常な電力供給が困難に。電力不足を防ぎ、安定供給を行うためには最低でも3%、できれば8〜10%の予備率が必要になるといいます。電力不足の原因は?
電力供給力の低下
まず一つ目に、火力発電所の相次ぐ休止・廃止によって発電量が減少し、電力供給力が低下していることが挙げられます。
日本では約7割の電力が化石燃料による火力発電で作られていますが、世界的な脱炭素化の流れから、環境負荷の大きい火力発電は縮小傾向にあります。
太陽光などの再生可能エネルギーの導入拡大に伴って、火力発電所の稼働率は年々低下。採算の悪化とともに、二酸化炭素の排出量が多い火力発電所への投資には厳しい目が向けられ、40年以上稼動を続ける「老朽火力発電所」を中心に施設の休廃止が進んでいます。
電力供給力を高めるため、原子力発電を増やせば良いのでは?という声もありますが、それも厳しいのが現状です。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故後、国は厳しい規制基準を導入しました。原子力規制委員会の審査に合格している原子力発電所は17基ありますが、実際に再稼働しているのは10基にとどまっています。
政府は2023年の夏以降に残り7基の再稼働を目指す方針を示していますが、国民の厳しい目やテロ対策、施設整備の遅れなど、課題は山積しています。
燃料調達の不安定化
エネルギー資源の乏しい日本では、石油や石炭、天然ガスなどの資源のほとんどを他国からの輸入に頼っています。しかし、昨今のロシアによるウクライナ侵攻の影響で、燃料調達を巡る国際情勢は厳しさを増している状況です。さらに、急速な円安進行により燃料調達費にも大きな影響を及ぼしています。
電力需要の増加
コロナ禍で増えたリモートワークやおうち時間など、社会構造の変化によって電力需要が増加したことも原因として挙げられます。さらに、今夏は10年に一度ともいわれる猛暑で電力需要が高まった面もあります。
電気に加え、ガス節約要請の可能性も
2022年7月、政府は都市ガスの節約を家庭や企業に呼びかける「節ガス要請制度」の導入に向けた準備を始めたことを発表しました。ガスの節約「節ガス」の要請について議論が行われるのは日本ではこれが初めてで、9月には節ガスに関する制度案が公表されました。
今後、ガス事業法改正案の提出が目指されており、ガス需給が危機的な状況になった際には、使用量が多い大企業や大規模な商業施設などを対象に、ガスの使用制限令を出す検討もなされています。
政府が節ガス要請を検討する理由は、ロシアからのLNG(液化天然ガス)輸入の不透明化です。
日本は都市ガスの原料であり、発電にも使われるLNGのほとんどを輸入に頼っており、世界のLNG輸入量の約2割を占める世界最大のLNG輸入国。日本がLNGを輸入している国はオーストラリア、マレーシア、カタールなどで、ロシアからも年間輸入量の約9%を輸入しています。
しかし2022年6月、ロシアのプーチン大統領は、日本やイギリスの企業が出資するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の事業主体を変更する大統領令に署名。サハリン2の運営をロシア側が新たに新設した会社に移管し、現在の出資会社の資産をこの新設会社に無償譲渡するよう命じる内容でした。
この動きは、対ロシア制裁を強める日本やイギリスへの対抗措置であり、ロシア以外の出資会社を撤退に追い込むことが狙いだと見られています。イギリス企業が撤退した一方で、日本は国内のエネルギー資源が乏しく、ロシアから輸入するLNGのほぼ全てをサハリン2に依存していることもあり、撤退しない選択をしました。
とはいうものの、ウクライナ侵攻の長期化で日露関係の冷え込みは続いており、今後ロシアからのLNG輸入が途絶える可能性はゼロではありません。LNGが安定的に輸入できないことは、そのまま日本のガス不足につながります。ガスの需要が高まる冬に向けて、節ガスの重要性は一層強まっている状況です。
飲食店にできる節電・節ガス対策は?
エアコンの掃除や設定温度の見直し
飲食店の場合、エアコンのフィルターが油やほこりなどで汚れやすく、冷暖房効率を下げています。衛生面の観点からも、2週間〜1か月に一度はエアコンのフィルター掃除を行いましょう。加えて、業者によるエアコンクリーニングも1年に一度は行うのが好ましいです。
また、エアコンの設定温度を見直すのも節電対策の一つです。エアコンの設定温度を1℃上げると約10%の電気が節約できるといわれています。設定温度を上げて、シーリングファンや扇風機などと併用するのもおすすめです。
照明設備の見直し
白熱電球や蛍光灯を使用している飲食店では、寿命が長く節電効果のあるLED照明への買い替え検討をおすすめします。
白熱電球の寿命は1,000〜2,000時間、蛍光灯の寿命は6,000〜12,000時間といわれていますが、LEDの寿命は40,000〜50,000時間です。1日10時間使用したとすると、白熱電球は3〜6か月、蛍光灯は2〜3年程度、LEDは11〜13年程度。LEDは白熱電球や蛍光灯よりも高価ですが、圧倒的に長寿命であるため、交換頻度が少なく結果的に節電につながります。
また、LED照明は紫外線がほとんど出ないことから虫を寄せつけにくく、照明器具の掃除・メンテナンス負担も軽減可能。耐衝撃性も白熱電球や蛍光灯と比べて高く、使い勝手がよいというメリットもあります。
電化製品の買い換え
電化製品は新機種であるほど省エネ効果が高い傾向にあります。そのため、何十年も使用しているエアコンや冷蔵庫などは、思い切って買い換えた方が節電につながるケースも。
例えばエアコンの場合、経年劣化もあり、使い続けることで消費電力量が毎年数%ずつ増加し、10年間では5割ほどアップするといわれています。壊れていなくても、古い機種は消費電力が大きく、使い続けるほど電気代の無駄になっている可能性があることを知っておきましょう。
調理器具の見直し
熱伝導のよい鍋に変えるなど、調理器具を見直すことで節ガスにつなげる手もあります。銅製の鍋やフライパンは熱伝導率が高く、効率よく均等に熱を加えられるため、ガスの節約に繋がります。また、銅製の調理器具は保温性も高く、熱が冷めにくいというメリットもあります。
節電、節ガスを考慮した店舗設計
今から飲食店を開業する場合には、冷暖房の風が行き渡りやすい店舗レイアウトにしたり、完全個室や高い天井を避けたりする工夫も重要です。
また、店舗のデザイン性を重視するあまり、気密・断熱性がおろそかになってしまう場合もあります。特に外気の影響を受けやすい路面店などでは、断熱材などを用いて店舗の気密・断熱性を高め、冷暖房費を節約することも重要です。節電・節ガスは自店舗の経費削減にも◎ まずはできることから始めてみよう!
毎日多くの電力やガスを使用する飲食店にとって、節電・節ガスは決して容易なことではありませんが、電力・ガス不足の解消だけでなく、経費削減にもつながります。まずは自店舗で使用している電力・ガス量を把握し、無理のない範囲で行える節電・節ガス対策を検討することが大切です。
今後更なる電力・ガス不足が懸念される今こそ、節電・節ガス対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。
ライター:上田はるか(フリーライター)
大学卒業後、輸入食品商社に勤務し、新規店舗の立ち上げや自社直営ティーサロンのメニュー開発を経験。その後、大手ギフト会社の企画開発部、広報宣伝部を経てフリーランスに。現在はWEB媒体をメインに、食ジャンルの原稿執筆を行う。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。- NEW最新記事
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