恵比寿南の住宅街に佇む若林歯科医院の外観は、それが歯科医院であることを主張するものが見当たらない。それでも、「指名のアポイントは1ヵ月先まで埋まっている」という盛況ぶり。自費診療がメインながら多くの患者を集め、支持を受け続ける医院の秘密に迫りました。
看板のない「隠れ家歯科医院」になぜ患者が集まったのか。
――最初の医院は1989年に代官山で開業されました。開業時から、紹介経由での患者様をメインターゲットとしていたのでしょうか?
その通りです。そのため開業時は集患活動を一切やりませんでした。医院の看板もなし(笑)。ビルの3階だったのですが、本当にエレベーターで上って入り口の目の前まで来ないと、何の場所か分からないような「隠れ家歯科医院」でした。
若林歯科が自費診療にこだわった理由とは?
――その隠れ家歯科に患者様が来るという、何か方程式をお持ちだったのですか?
開業前に勤務していた叔父の医院は、100%自費診療という医院でした。その時に受け持っていた患者様が1,000人くらいで、その半分が遠方から来られる方でした。最寄り駅から歩いて15分もかかる場所なのに、ですよ(笑)。それなら代官山駅から徒歩2~3分で、恵比寿駅も利用できる場所のほうが絶対に来やすいし、患者様も継続して来てくださるだろうと思っていました。
開業以来、「充分な時間を取ってしっかり患者様と向き合う」というフィロソフィー、考えを一貫してきました。一般的な保険診療で数をこなす治療に妥協せず信念を貫いた。それを地道に続けて、自分の考えが患者様に伝わり、そして、その患者様が周りに医院のよさを広めてくれる。患者様とのコミュニケーションの質を落とさずにいこう、と開業当初から考え、それが医院の継続に繋がっていく、と確信していたんです。
――自費診療がメインですが、どんなことに注力して、対応や診療を行っているのでしょうか?
「おもてなし」という言葉に尽きますね。自費診療がメインの医院は、患者様が来院してから帰る瞬間まで、おもてなしで成り立っているんです。受付スタッフが笑顔で出迎えて、アシスタントもドクターも「こんにちは、はじめまして」という挨拶から。カウンセリングには多くの時間を使って、お口の状態や今後必要な治療、そして費用まで丁寧に説明を行います。治療法は、よりクオリティの高いものを提案し、治療後も細やかにサポートする――これらひとつひとつを、すべておもてなしの気持ちを忘れずに行っています。

TVCM出演は集患に一役買っているのか?
――若林先生と言えば、TVCMへも出演されていますよね。かなり医院の認知につながったのでは?
実は、「CMを見て来た」という患者様はあまりなく、既存の患者様からの反響のほうが大きいんです。「私の先生がCMに出てる!」と喜んでくれて(笑)。それが嬉しいですね。患者様がお友達と一緒の時にCMが流れると「これ、私の先生」と言って医院を宣伝してくれるみたいです。
――先生は、本の出版や講演・セミナーなども積極的に行っています。このような情報発信の重要性をどのように考えていますか?
私が歯科医療の経験を重ねてきた中で得た「必要な情報」を効率よく届けて、若い先生が最短距離で成長をする、そういうお手伝いをしたいと思っています。それが、日本の歯科医療の発展に少しでも貢献できることなら、と思い行っています。
――歯科医師でもあり経営者でもあり、業界を牽引していらっしゃる若林先生が考える、歯科医院のあるべき姿とは、どのようなことでしょうか?
歯科医師としてだけではなく、経営という側面からみても、「ひとりひとりの患者様としっかり向き合うこと」が一番重要だと思います。少しでも売上を伸ばしたい、という気持ちはよく分かりますが、流れ作業のような治療を続けるのは、患者様の気持ちに寄り添っているとは言えないと思います。だからカウンセリングで、治療方針はもちろん、医院としての考えまでをしっかり伝える必要があると思うんです。
丁寧なカウンセリングを実直に続ければ、やがて医院の“ファン”になってくれる患者様が現れます。すると、それを周りに紹介してくれる患者様や、「もっとよい治療がしたい」という患者様が必ず出てきます。そういう患者様を地道に増やしていく。長期的な経営の安定には近道はないんですよ。だから、明確な信念を持って、それを実現するためにしっかり患者様と向き合うこと、それが何より大事なんです。