人手不足の美容師業界。大切なのは「仕事に夢を持たせる」こと

ヘアサロン一本で勝負するはずがエステサロン開業！ トータルビューティーに興味を持ったわけとは？

ーーヘアサロン以外に、エステなども経営されていますが、元々、関心のあった分野だったのでしょうか？
今では考えられないのですが、昔はテーブルの上に鏡を置き、自分を見ながら勉強しているような子どもだったんです。ナルシストですね（笑）。そんな性格もあって、昔から美容に興味があったし、女の子の友達も多かった。それにヘアメイクの仕事もしているので職業柄、タレントさんや女性スタッフに美容の相談を受けることが多かったんです。メイクを起点に、化粧品、スキンケア、エステとトータルビューティーに目を向けるようになり、独立開業した5年後、表参道でエステサロンをスタートしました。

ーー多角経営は独立当初から描いていたことですか？
いや、最初はヘアサロン1本で行くつもりだったんですよね。この業界に入った時から技術は東京で学んで、いずれは地元の埼玉に戻ってのんびり美容師をやろうと思っていたんです。
独立心の強いスタッフに比べると、僕はガツガツしている方ではなかったし、タレントさんのヘアメイクやサロンの仕事も忙しかったこともあって、結局独立したのは35歳の時でした。

社会の厳しさを痛感、銀行員から言われたある“ひと言”

ーー地元に戻ろうとしていたはずが、なぜ東京に？
入社した当初から地元で、と考えてはいたのですが、具体的な出店場所などはノープラン（笑）。だから開業資金も貯めていなかったんですよね。ただ、独立を意識するような年齢に差し掛かっていたし、お客様に独立の意思を伝えると、「青山でやってもらわないと困る」という声をたくさんいただいて。それに後押しされた部分が大きかったです。

ーーその調子だと、独立準備は大変だったのでは……？！
資金作りで奔走している時に、銀行員からこんなことを言われたんです。「一流企業の部長クラスでも、会社を辞めればただの人ですよ」と。つまり自己資金もなければ、開業するにあたり、具体的なプランを描いていなかった僕なんて、信用がないも同然。物件を見つけて申し込んでも次々と弾かれるんですよ。信用がないから。生まれて初めて社会の厳しさを感じました。独立準備をする過程で、開業のために何が必要なのかをひとつずつ学んでいきました。それと開業を目指すなら、毎月1万円でもいいから計画的にコツコツと貯めるべき。それが信用に繋がるということを、独立準備を通じて初めて知りました。

美容学校は夢を持たせて卒業させるけど、社会に出た途端、現実を突きつけられる。

ーー紆余曲折あり、ようやく「LAULEA」をオープンさせたわけですが、3年後には拡張移転されていますね。
有り難いことに前のお店のお客様が通ってくれるようなったんです。スタッフの働きもあって店が忙しくなり、すぐに手狭になったので開業後、間もなく新しい物件を探し始めていたんですよ。本当のことを言うと、最初はマンションの一室を店舗にしちゃえばいいかなと思ったんです。だけど、それだと一緒に付いてきてくれた後輩に夢を与えられないと思ったんです。

ーー夢を与えられない、とはどうことですか？
マンションだとサロンで働いているという実感が得られないからです。今、美容師業界は慢性的な人手不足です。美容師になったとしても理想と現実のギャップで辞める若者も多い。だからこそ、上に立つ人間は若いスタッフに夢を持たせてあげることが大切なんです。
例えばカットも中途半端に教わってしまうと技術力は上がらないし、上手くならないと美容師の仕事がつまらなくなってしまう。教え方ひとつでその子の才能をいくらでも開花させることができるんだから、しっかり教えるべきだし、僕自身そうしています。ひと昔前なら、美容師のなり手も多かったし、見て覚えなさいという教えが業界全体に根付いていたんですけどね。今はそういう時代ではなくなりました。

ーー若手育成はオーナーの大切な仕事のひとつですね。
美容学校は夢を持たせて卒業させるけど、実社会に出た途端、現実を突きつけられます。そこで美容師になることを諦めてほしくないんです。近い将来、「LAULEA」も店舗展開したいと考えているのですが、これもスタッフに夢を持ってもらいたいからなんです。