全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
施主に〝情緒的な体験〟を!
前回、前々回と、法人向けに清掃などを行っている会社での、「非効率」なルート巡回が驚くべき成果を上げた話をした。そこで以前、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるリフォーム店主から聞いた話を思い出した。それは、同社が施工した2件の事例についてだ。
同社では、施主と〝情緒的な体験〟を共有すべく、様々なことを考え試しており、その一環としての取り組みだ。ちなみに情緒的な体験とは、「嬉しかった」「楽しかった」「癒された」「じ~んときた」といったような気もちになる体験のことだ。
1つ目の事例は、外構工事。工事自体は、家入り口の階段下に門扉を設け、壊れていたポストを設置し直すという、ありふれたもの。これをどのような情緒的な体験にしたかと言えば、左官屋に協力してもらい、施主とそのご家族が、職人と一緒に門塀の塗り壁の体験をするというものだ。工事当日、施主の二人のお子さんは、コテを見るのも使うのも初めてだったが大いに盛り上がり、後日施主から送られた幾つもの写真からは、家族の思い入れが伝わってくるようだった。
二つ目の事例は、家の寝室の間仕切り工事だ。間仕切り壁を塗り壁にする予定だったことから、店主は先の外構工事の経験を踏まえ、ここでも、家族で塗り壁体験を行ってみた。
取り組み自体は、塗り壁の難しい部分は職人が行い、簡単なところだけを家族で仲良く塗ってもらうもの。工事当日は、平日にもかかわらず、ご主人は会社を休み、家族で壁塗りが実現。するとここで思いがけないことが起こった。娘さんが、よほど楽しかったのか、鼻歌を歌いながら、塗ったばかりの壁に指でお絵かきを始めたのだ。その絵は、絵本の一コマだったり、パパとママが手をつないでいるものだったり。パパの部屋側には、パパが好きなスター・ウォーズの絵と手形。そして極めつけは、そこに「パパだいすき」のメッセージ。この日の壁塗り体験は、この家族にとって、この上ない情緒的な体験となった。
顧客を増やす「非効率」
これらの活動も、リフォーム会社、施主双方にとって「非効率」なものだ。こんなことをしない方が作業ははかどるし、施主も休む必要もない。しかし施主の家族にとって、この体験はどういう意味を持つだろうか?こういう体験をさせてくれた同社と彼らの関係はどうなっていくだろうか?紹介や口コミはあるだろうか?このような「非効率」は顧客を増やす。それがまた、様々に商売を善循環させていくのである。
