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canaeruの開業支援セミナーでもおなじみ、通山編集長による書き下ろしコラム。
全国数多くの飲食店で取材を行ってきた通山編集長が外食業界に伝えたいのは「業種業態論」。多くの経営者が「業種」と「業態」を勘違いしていると指摘します。
通山編集長が考える「業種業態論」とは?
飲食店経営者必読の内容です。
業態とは「販売方法」と「作業方法」
つまるところ、外食ビジネスの本質、チェーンストア理論の核心は「業種業態論」に尽きる。これが長年にわたって外食業界を取材、研究してきた筆者の結論だ。
こう記すと「外食経営はそう甘いものじゃない」と業界の重鎮たちからお叱りを受けそうである。しかしそれでも、この業種業態論さえ理解できていれば、その他の経営技術は枝葉に過ぎないというのが筆者の偽らざる本音だ。
ところがこの業種業態論、理解どころか大間違いのトンデモ論が業界に横行している。絶対に外してはならない外食業の原理原則であるにもかかわらず、である。
筆者が知る限り、これを正しく理解している外食経営者はほんのひと握りしかいない。その現状に警鐘を鳴らし、これを糺す一助とするのが本稿のテーマのひとつである。
前置きが長くなったが、本題に入ろう。
ごくシンプルに表現すれば、業種業態とは「なにをどう売るか」だ。その概念を「マクドナルド」と「スターバックス」の比較で説明した表が以下である。
勘のいい読者諸氏はもうおわかりだろうが、マクドナルドが提供している商品はハンバーガーであり、スターバックスのそれはコーヒーである。一方、売りかたは双方ともリーズナブルプライス、クイックサービス、セルフサービススタイルということになる。端的にいえば、これが業種業態の正体だ。「なにをどう売るか」、すなわち「ハンバーガーをファストフードサービスで」、あるいは「コーヒーをファストフードサービスで」である。
「なにを売るか=業種」で見ると、マクドナルドはハンバーガー専門店、スターバックスはコーヒー専門店に区分されるが、一方の「どう売るか=業態」でカテゴライズすると、双方ともファストフードサービス(FFS)に分類される。さらに例を重ねれば、日本生まれの「吉野家」も「ドトールコーヒー」も、あるいは「かつや」も「丸亀製麺」も、業種は違えど業態はすべてFFSなのである。
さらに論を進めよう。
チェーンストア理論発祥の地である米国では、この国の言語で業種業態をこう表す。
業種=type of business
業態=type of operation for selling
そう、業態とはまさに消費者が求める「販売方法(=selling)」、それを成立させるために事業者が設計した「作業方法(=type of operation)」のことを指すのである。
前出のマクドナルドでいえば、販売方法は「リーズナブルプライス、クイックサービス」であり、その低価格とスピード提供を成り立たせるための作業方法、すなわちtype of operationが「分業方式とセルフサービス」となる。
つまり、この販売方法と作業方法を両立してはじめて「正真正銘の業態」といえるのであり、業態開発とはいうなれば「販売革命」であると同時に「作業革新」なのだ。
その構図を言語化した概念図が以下である。「ウォンツ」と「ニーズ」
さて、ここまではチェーンストア理論の枠組みに則って業種業態を論じてきたが、ここからは筆者の持論と解釈を書き記していきたい。
筆者は業種業態論をユーザー視点からこうも解釈している。
業種とは消費者の「胃袋」が求める「ウォンツ」に応える料理、業態とは「生活」が必要とする「ニーズ」にフォーカスした機能である、と。すなわち「なにを食べたいか」「どう食べたいか」である。
前出のFFSを例にして「どう食べたいか」を論じると、外食にクイックサービスが求められるようになったのは、経済・社会の発展と変化によって人々の生活が忙しなくなり、そこにタイムセービング(=時間節約)ニーズが生まれたからである。これを「どう食べたいか」で捉えると「スピーディに食べたい」ということになるわけだが、そのニーズに応える販売方法、作業方法として生まれた売りかたがFFSなのである。
では、もう一方の業種はどうか。
胃袋の欲求は、時代が変わってもそう大きく変化するものではない。むろん、交通網の発達、情報産業の進化などにより、海外の料理が国内にどんどん流入するようにはなってくる。とはいえ、国民がデイリーに食べている料理は数百年前から変わらず日本食であり、ハンバーガーを毎日食べている日本人はきわめて稀な存在だろう。
したがって来店頻度という点に限れば、日本食は業種としての優位性があるといえるが、ようするに業種とは顧客の「本能欲求」を満たす商品のことであり、業態とは「機能需要」に応える利便を指すのである。これを「業種は文化、業態は文明」という別の表現で解釈してもわかりやすいかもしれない。
そしてこの「日本人がデイリーに食べている」という事実は、それがそのまま市場のスケールになって現れる。その規模が大きい料理(=業種)と、主な販売方法・作業方法(=業態)を示した概念図が以下である。
ご覧の通り、たとえば概念図左に示した業種のひとつである「すし」と、右の「均一価格」「自動運搬化(回転レーン)」「コックレス化(シャリロボット)」などの業態、すなわち販売方法と作業方法を結びつけたチェーンフォーマットは回転ずしということになる。
さらに以下に示したのは、日本の外食業界で一大マーケットを形成する焼肉の大まかな業態革新の歴史だ。
「業態寿命が短くなっている」は大嘘
回転ずしが日本の外食シーンに登場したのは1974年だが、その誕生からしばらくはマーケットはさほど拡大しなかった。市場成長のボトルネックになっていたのはすし職人の育成であり、これがチェーン化の足枷になっていた。それが80年のすしロボットの開発により、86年には空前の回転ずしブームが到来する。「かっぱ寿司」をはじめとした回転ずしのビッグチェーンが店数を大きく伸長したのも、まさにこの時期である。
すしと同じく、焼肉もその市場が爆発的に拡大したのは1979年の無煙ロースターの開発、そして1991年の米国産牛肉の輸入自由化が契機だ。とりわけ米国産牛肉の輸入自由化以降は「牛角」をはじめとしたディスカウンターがその勢力を大きく伸ばし、いまに至る巨大市場を形成した。そこからさらに10年を経て、テーブルオーダーバイキング、ファストフード、卓上サーバーをコア装置とした飲み放題などの業態が誕生している。そしてコロナ感染症が世界を襲った2020年に、テーブルオーダーバイキングに回転レーンの仕組みをドッキングした「かみむら牧場」が登場したことも興味深い。この誕生にはさまざまな背景があるが、コロナ禍によって生まれた「非接触ニーズ」が間違いなくその要因のひとつになっている。
こうした歴史が物語る通り、日本の外食シーンを牽引し、その市場を拡大してきたのは、時代の変化を正確にキャッチし、それに適合した販売方法と作業方法の革新を起こしてきた新しい業態である。type of operation for selling、すなわち販売革命と作業革新は、市場成長と業界の発展に欠かせない急所であり、このことはマーケットの事実がはっきりと証明している。そして、この業態に新規性と大衆性を併せ持つ商材(=業種)が結びついた時、はじめてマーケットは爆発的な拡がりを見せるのだ。
いわば業種業態論は「スケールを狙う」方法論でもあるわけだが、このロジックは業界に蔓延る「嘘」を見抜くリトマス紙にもなる。
いま巷では「業態寿命が短くなっている」という説がまことしやかに広まっているが、業種業態論を正しく理解していれば、この解釈が大間違いであることがおわかりになるだろう。
あっという間に過ぎ去った近年のタピオカティーブームを例にとると、短命に終わったのはあくまで業種であり、業態ではない。そもそもテーブルサービスやFFS、食べ放題、均一価格などの売りかたが廃れること自体があり得ないのだ。纏う衣装、すなわち業種を変えて業態は延々と存在し続けている。あくまで事実は、目先を変えるだけの業種頼りのビジネス、流行りのスタイルが短命になっているだけだ。
筆者が危惧するのは、この外食業の原理原則である業種業態論を理解し、それを実践する経営者が「絶滅危惧種」になりつつあることだ。しかも、そのひと握りの「希少種」は、50歳を過ぎた大物経営者ばかりである。これに続く世代が先達を超え、市場の主役の座を奪うためには、ビッグビジネスを生み出してきた業種業態論の正しい理解が不可欠だ。
そして外食業界の歴史を振り返っても、業種業態の組合せが最適な店は、それが個人・生業店であってもヒットの確率がきわめて高い。それもそのはずで、「なにをどう売るか」を考え抜くことは、つまるところお客のウォンツ、ニーズの真理を探る作業に他ならないからだ。
繰り返しになるが、業種業態論は外食ビジネスの核心であり、外食経営学の一丁目一番地だ。企業の大小を問わず、外食業に従事するすべての人にこの原理原則を学び直してほしい。
▼ライター
株式会社柴田書店「月刊食堂」 編集長 通山 茂之
数多くの外食繁盛店の取材を行ない、その豊富な知識を生かしてセミナーやTV出演などで情報発信を行なっています。
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