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店が持ちたいからではなく、憧れの仕事ができる自由な環境を求めて独立したという高橋さん。地道な努力と、自力で作った人脈を活かし、すべての夢は叶えたけれど、現実のサロン運営には困難があったと言います。高橋さんが実践した夢と現実のバランスの取り方とは、どんなものだったのでしょうか?
タオル洗いや床掃きなど下仕事・・・それでも夢のために喰らいついた
ーー株式会社ZACC設立から今年で29年。若くして起業・独立された訳ですが、そもそも美容師を目指した理由は何だったのでしょうか?
大学では法学部でした。ですが成人式を過ぎた頃から「ヘアメイク」という職業に憧れを持ちました。美容師は町のパーマ屋を連想するけど、「ヘアメイク」にはコレクションや雑誌の表紙の仕事もある。華やかさに憧れ、大学を中退していきなり畑違いの世界へ飛び込んだのです。
通信教育で学びながら、地元・吉祥寺の美容室で5年半の現場修行をしました。タオル洗いや床掃きなど下仕事が続いて、この業界に幻滅もしましたが、やはり夢を諦められずに喰らいつきました。
修行も3年を過ぎた頃から、個人的に作った人脈を頼り、雑誌の撮影や業界紙のコラムなどの仕事に出るように。当時の美容業界においては異端児だったようですね。ーー憧れひとつを胸に、ほぼ独学で邁進され、夢の仕事を始めたのですね。そこから、どんな過程で、なぜ独立することになったのですか?
休日をすべて仕事で潰していましたが、それでも時間が足りなくなり、外の仕事を増やすためには独立しかありませんでした。自分のやりたい「ヘアメイク」ができる環境にするための独立だったのです。一方で、5年半の間に先輩がどんどん辞めていき、教えてくれる人がいない辛さ、現場教育の大切さが身に染みていました。これからは自分が後輩をしっかり教えていかなければ、と思ったことも、勤務を辞めて自分でやっていくきっかけになったと思います。店を出すということは、同時に多額の借金を抱えること
ーー出店時のご苦労や、出店後の様子はどうでしたか?
26歳で株式会社ZACCを設立し、27歳で出店。1号店は荻窪です。渋谷付近で物件を探しましたがコスト的に無理があり、路頭に迷っていた時、ある方に勧められて荻窪の占い師を訪ねました。こんなことは人生で一度キリです。その帰り道、荻窪駅前の物件が目に留まり、僕より運気がいい「父親の名前」で契約するようにというアドバイスに、モノは試しで従ったら、順調に借りられました。でも、蓋を開けてみると、お客様はまったく来ない。3千万円弱の借金をこれからどうしよう?27歳の肩には重過ぎます。
店を出すということは、同時に多額の借金を抱えることなんですよ。まずは借金が返せる店にしなければと考え、自分が20歳の頃から憧れていた「ヘアメイク」の仕事を一時中断せざるを得ませんでした。ーー自由になるための独立なのに、一時中断という辛い決断を越え、どのように進まれたのでしょうか?
ヨーロッパへ勉強にも行った、コンクールにも入賞した、5年半の中で業界紙にページをもらったりもしました。自分のカットの腕前に自信を持って独立したんですが客が入らない。人からは「カットに自信があるのは当たり前、それなのに成功していないのが現実」と言われてしまったんですよね。そこから、カット以外に特徴を持たねばと、図書館に通い詰めてパーマを猛勉強しました。
すると、『VOCE(ヴォーチェ)』創刊号の付録の美容大辞典で監修して欲しいと依頼があり、地道に学んできたことをひとつの形にできた上に、外の仕事への足掛かりになりました。『with(ウィズ)』の巻頭特集など雑誌の仕事が増え、荻窪のサロンも認知度を上げ、遠方から来てくれるお客様もついた。そして32歳でいよいよ、世界に通用するサロンになるため、日本の美容の聖地・表参道に2号店を出したのです。
駅近でしたが入り組んだ小道にあるので、店まで辿り着けないお客様が多く、お迎えに行っていましたね。パーマからトリートメントへと学ぶ技術も進化し、業界紙でコラムを連載していたこともあり、その頃は「ドクター高橋」と呼ばれるようになっていました。ーー努力の成果で知名度を上げ、波に乗り出してから、どんなご苦労がありましたか?
そもそも僕は「ヘアメイク・アーティスト」になりたかったので、「ドクター高橋」は正直屈辱だったんですよ。このままでは違うと、「アーティスト」を目指す原点に戻り、ギャランティなしでもいいからと積極的に道を拓きました。おかげで30歳代半ばは、雑誌、コレクション、芸能界の仕事に明け暮れ、あのKUWATA BANDがレコーディング中のスタジオへ行って、メンバーのカットをしたこともあるんですよ。声を掛けてくれる人々に応えたい一心で、文字通り不眠不休の日々でしたね。
40歳代に入ると、フランスの美容室からのオファーで、フランチャイズ展開のアジア地区アートディレクターとして5年契約もしました。これはサロンワークに意識を向けるきっかけになったのですが、外に出れば出るほど足元をすくわれるんです。順調だからとスタッフに任せていると、長期出張から戻ってみたら従業員がごっそり辞めていたり、よそにヘッドハンティングされたり……。そうした辛い事件を繰り返し、サロンにいなきゃダメだと痛感し、地に足が着いてきたと思います。やっぱりサロンでお客様と触れ合う時間が大好きだし、加えて、スタッフ教育に重点を置きたいと考えるようになったんです。ーー美容師として独立・サロン出店を考えている人にアドバイスをお願いします。
独立件数は増えていますが、美容師のなり手は減っているのが現状です。共に働ける人、育てたい人材を得るためのリクルートが大切だと思います。当社も、数年前から会社説明会や面接に意識的に取り組んでいますし、僕自身の学べず辛かった経験から、入社後の教育にも力を入れています。しっかり技術が身に付くサロンとして、スタッフたちも実感してくれていると思います。何より、人とのご縁を大事にして欲しいですね。ピンチの時に助けてくれた人を喜ばせられる仕事の仕方が、成功につながると思います。
一方で、強いオリジナリティがなければ東京・表参道のような激戦区では生き残れません。ある意味ではほかの人に何と言われようとも、自分を押し出していく意志が要ります。オリジナリティが形になるまでは時間がかかり、不安との戦いです。自分の中の不安との戦いは今の僕にもありますし、サロンを成功させるために一番大事にしていることです。高橋 和義
東京都出身。1988年株式会社ZACC設立。現在、青山・表参道に2店舗を展開、今年2月新店舗オープン。幅広い顧客にはタレントや著名人も多数来店。浜崎あゆみのCD・PVをはじめ、CM・写真集等のヘアメイクを担当し、セミナーやショーも日本を含めパリ・中国・台湾などで行うなど海外にも活躍の場を広げている。また美容業界誌にコラム等を連載。オリジナル商品の開発やZACCのメイク本も発売中。
美容室 ZACChttp://www.zacc.co.jp/
東京都港区北青山3-11-7 Ao(アオ)4FTVやCM、雑誌などメディアで活躍する多くの女優やモデル、タレント、アーティストを手掛ける有名店。青山・表参道エリアにそれぞれ個性を生かした店舗を展開し幅広いお客様に対応。
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