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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
「この人(この会社)から買いたい」という気持ちを育てる
今日は前回の続き。法人向けに清掃や水の配達などを行っている会社が、巡回ルート当たりの件数を2割減らす「非効率な」やり方に切り替えた。その結果、解約率はたったの1%になった。なぜこのようなことが起こるのか。それがビジネスにとってどう、決定的に重要なのか。
実は、この取り組みにはきっかけがあった。顧客の解約が際立って少ないルート担当社員がおり、他の担当者とどこが違うのかを調べると、顧客とおしゃべりをしていることが分かった。同社ではルート回りで商品販売も行うが、この担当者は販売成績も良い。聞くとやはり、理由はおしゃべり。その合間に「今日宣伝したいものがあるんですけど」と切り出すと、「ああ、何?聞くよ」となり、スムーズに買っていただける。「これ買うと、あなたの成績になるんだよね」と積極的に買ってくれる方も少なくないとのことだった。
では、どの社員も顧客とおしゃべりをすればいいのではないか――この取り組みを推進した同社常務はそう考えたが、1ルートあたりの件数は効率を考え目一杯組んでいる。そこに指示をしても、多くは「余裕がなくてできません」となるのではないか。そこで今回の「非効率な」ルート巡回を考え、実行したのだ。社員を送り出す際かける言葉は、「お客さんとしゃべっておいで」。それが、どういう効果をもたらしたかといえば、先述の通りである。
このような成果が得られる理由はシンプルだ。人にとって、「安く買う」ことも大事だが、「誰から買うか」はそれ以上に大事なことなのだ。ここでは「おしゃべり」を通じて「この人(この会社)から買いたい」という気持ちが育ち、この成果を生んだ。もっとも同社では「おしゃべり」の他にも顧客からこう思ってもらうための手立てを打っている。それらすべてが相乗効果となって、このような成果が生まれるのである。「おしゃべり」がビジネスを善循環させる
そしてビジネスにおいて決定的に重要なことは、顧客の離脱が圧倒的に減ったことだ。特に同社が提供している清掃サービスや水は、解約されない限り提供が続き、売上を生み続ける。新規客の獲得にも焦る必要がなくなり、ハードな営業も行わなくてすむ。「おしゃべり」がビジネスを善循環させていくのである。
しかし、こういう決断はなかなかできない。一見実に「非効率」なことを行い、近視眼的には成果が見えないからだ。ゆえに多くの会社は常に効率化に邁進する。だからこそ、今回のような決断のできる会社が愛されていくのである。
この記事の執筆
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
小阪裕司
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。
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