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「一等地の三等地戦略」で店を構えるbean to barチョコレート専門店

「一等地の三等地戦略」で店を構えるbean to barチョコレート専門店_記事画像

「日本発の世界に誇れる物づくり」をコンセプトに、bean to barの全工程の管理・製造・販売を行う「Minimal」。新しいチョコレートだからこそ、その魅力を伝えることを大切にし、お客様への説明も欠かしません。それゆえに、初来店客のほとんどが口コミ。専門性の高い商品は、それに惹き付けれられてお客様が来店する特性があるのです。

1時間に10人のお客でもいいから商品を説明できる場所を選ぶ。「一等地の三等地戦略」とは?

路面店は富ヶ谷・銀座・白銀高輪の3店舗ですが、この出店方法を私は「一等地の三等地戦略」と呼んでいて、この立地だからこそできること、できたことがあったと思います。
私たちが売っているチョコレートは新しいが故に、いきなり最初に全部わかってくださいという売り方は難しいかなと。だから、最初は1時間に100人通る場所で店をやるよりは、10人でもいいから10分しっかりと説明できる場所で始めようと考えたんです。飲食店を経営する先輩たちには「よくこんなところに店を出した」と言われるけど、本当にその通りで、周りは住宅地で、ふらっと店に入ってくる人はまずいない。だからこそ、商品力、コンテンツ力がないと成り立たないんです。ただ、アクセス自体は悪くなくて、最寄駅から5〜6分歩けばたどり着くことはできるから、まずは感度の高いアーリーアダプターと呼ばれる人たちに来てもらい、しっかりとブランド力と商品力を作っていければいいと思いました。
いろいろなメディアに出た今もこの戦略は有効で、アクセスがいいことがプラスに働いていると思います。例えば富ヶ谷本店は、流行りのスポットである奧渋谷エリアやパンやコーヒーの名店がある代々木公園駅近くからも歩いてくることができるので、近くに来たついでに寄ってくれる方も多いです。

1時間に10人のお客でもいいから商品を説明できる場所を選ぶ。「一等地の三等地戦略」とは?

日本の資源を活かした世界的なブランドづくりへの挑戦

今の日本は少子・超高齢社会で労働人口が減り、内需が減少しています。そうするとGDPも下がるので、外貨を獲得する必要がある。しかし、起業するには法人税が高く、優秀な人たちがどんどん国外に流出していってしまう。日本は物的資源に乏しく、人こそ資源なのに、その大事な人たちが海外に出ていってしまうことに20代の頃から危機感を抱いていました。
一方で、自分のやりたいことは何かと考えると、モノを創造していく、広義ではデザインしていくことではないかと思いました。これからのキャリアを考えたとき、左脳的な頭の使い方をする仕事、ロジックで考えていく作業はAIなどの機械に代替されていくのではないか。それなら、全体を見て調整したり、新しいものをゼロから生み出したりしていく人間らしい仕事、人間にしかできない仕事をしていきたいと。そう思ったときに浮かんだ選択肢のひとつが、ブランドの運営でした。ゼロからブランドをつくり、ブランドの思想や考え方を世の中に広めつつ、ビジネスとしても大きくしていく。
これらの考えをもとに、日本の資源を活かした世界的なブランドづくりに挑戦しようと思ったことが独立のきっかけです。ブランドが広がっていく中で、海外からもしっかり外貨を獲得できて、日本に生産をもたらすという仕組みをつくることに働き盛りの30〜60代を捧げることが日本のためになり、かつ生きる意味のあることだという結論に至ったんです。

チョコレートを通じて外貨を獲得しながら日本人のよさを広めることが目標

日本の資源は「人」とよくいわれますが、独立を考える前はそれがどういうことかよくわかっていませんでした。でも、前職のコンサルティングで大手企業の再建などに携わったとき、グローバル人材育成の観点では、日本人の空気を読む、周囲との調和を重んじるという点が、個性がないと否定される現状を見て、違和感を抱きました。いろいろな外国人と仕事をしましたが、話をちゃんと聞いてくれて、気持ちよく仕事ができるのは日本人ならではだと感じていましたし、ちゃんと相手を慮ることができ、いい意味で空気を読めるのは、日本人の才能というか誇るべきものではないかと思うようになっていたんです。この「きめ細やかさ」はサービスの現場ではおもてなし、ホスピタリティといった言葉になるだろうし、機械工業の現場では、細かく現状を改善していくものづくりに現れてくる。他の民族では代替不可能な素晴らしいこの日本人の個性を活かして、ものづくりのブランドがつくれないか、そんな考えを抱くようになりました。
「bean to bar」という考えには2013年の夏過ぎ頃から興味を持っていましたが、独立前後にアメリカの現場を回ったときに、オーガニックや健康にいいといったマーケティング要素が強いなと感じました。でも、素材のカカオ豆をどれだけ活かすかという観点からみると、bean to barは極めて日本人が得意な分野だと思ったんです。日本人が慣れ親しんだ和食は、「旬」や素材の味を引き出す料理ですから。Minimalの開業以前に世界中でbean to barがブームになった時期に私が思ったのは、bean to barの本質は「bean」にあり、この素材を日本人的にとらえ直して、チョコレートはこんなに新しくなったと欧米にある市場へプレゼンテーションできれば、外貨を欧米から獲得しながら、日本人の良さを広められるということ。そして、メイドイン東京にこだわることで、日本の雇用にもプラスに働くのではないかとも考えていました。

チョコレートを通じて外貨を獲得しながら日本人のよさを広めることが目標

お客様とコミュニケーションが取れた結果、口コミ客が増大

事業が軌道に乗った一番の理由は日本での2015年のbean to barブームに乗れたことが大きかったと思います。開業前に2ヵ月間、海外を回ったとき、次のバレンタインには必ずこのブームが日本に来ると確信したので、帰国後、急ピッチで開業準備をして、12月の開店に間に合わせました。案の定、翌年のバレンタインではたくさんの取材を受けました。当時、東京で本格的に工房兼店舗を構えてbean to barをやっていたのは私たちだけでしたから。
そのブームをきっかけに、アーリーアダプタの方に足を運んでいただいたことも大きいと思います。店では、スタッフがお客さまに何回目の来店かを聞くようにしていますが、初来店の方はだいたいが口コミです。誰かにもらっておいしかったからとか、知人がおいしいと言っていたとか。最近でこそ、メディアで見たからと来てくださる方も多いですが、日常的に来店するようになってくださる方のほとんどは口コミがきっかけです。おそらくそれは、最初に来店してくれたお客さまが、全種類試食ができて、対面のカウンターでスタッフとしっかりコミュニケーションを取れるこの空間でリアルな体験をして、私たちのメッセージがしっかり伝わったからこそだと思っています。

お客様とコミュニケーションが取れた結果、口コミ客が増大

新しいチョコレート文化を根付かせるために実践していること

日本でもbean to barが定着しつつあり、さまさまなチョコレートが売られています。業界が活性化していくことはいいと思っています。ただ、私が常に見据えているのは、日本発の世界に誇れるものづくりブランドを運営し、そこから生まれたこのチョコレートを文化として根付かせ、広めていくこと。だから、ベースとして「おいしさ」は欠かせないけれど、無理して買ってほしいという売り方はしません。
一方で、文化として広めていくために伝えなければいけない情報があったときに、その伝え方は常に考えています。実は1年目は、「チョコレート」より「カカオ」という言葉を積極的に使っていたんです。私たちはカカオ屋で、カカオ豆の世界を新しくしているんだという想いで。でも、お客さまからすると、そういった言葉はどうでもよくて、ただおいしいチョコレートが食べたいと思っているということに気づき、2年目からは「チョコレート」という言葉を使うコミュニケーションに変えました。私たちは新しいチョコレートを作っていて、新しいチョコレート体験をみなさんに提案している、その価値を提供しているブランドなんだと。お客さまが何を求めていて、それにしっかりと自分たちも合わせていく、そのやりとりはすごく大事だと思っています。楽しみ方の答えはお客さまの中にしかないですし、お客さまが思い思いの楽しみ方を自由にできるようになることが、文化として根付くためには必要で、そういう方たちが増えてくれることが、何より私たちの見据えているビジョンに合致した未来だと思うからです。

出店場所に合わせたコンセプトを立てる

富ヶ谷本店は創業の地なので、「Factory&Store」というコンセプトにしている一方、本店の約1年半後に開店した銀座店は「Bean to Bar Stand」がコンセプトです。これは本店が工房を併設し、広い空間を有効活用する方法をとっているのに対し、銀座という一大観光地の立地を活かして、コーヒースタンドにふらっと入るのと同じように、気軽にbean to barを体験してもらうことが目的となっています。豆やカカオニブ(カカオ豆を砕いてフレーク状にしたもの)をしっかり見える形でディスプレイし、チョコレートの製造機械を設置し、カカオ豆からチョコレートができるまでの全工程を試食できるようになっています。
また、最近開店した池袋の東武百貨店内の店舗は、「Metro Kitchen & Store」というコンセプトを掲げています。「metro」という言葉には都市部の大勢が通る場所でにぎわう店にしたいという思いを込めていて、「kitchen」という言葉には、見せるための店舗という意図があり、池袋の店舗はオープンキッチンにしました。これにはちゃんと理由があって、職人たちの成長の場となるようにと思ってつくったんです。職人はどうしてもものづくりに熱中するが故に工房の中からでないことが多い。でもお客さまの反応を直に見ないと成長することはできないと私は思っています。自分の手元がお客さまから見える場所にあっても、お客さまが誰も足を止めないようならパフォーマンス不足だから、自分の頭で考えるようにと伝えているんです。
料理の世界はとても厳しく、世界を変えられるような人は一握りの天才だけ。でもそういう人たちばかりではなくて、おそらく残りの9割くらいは様々な機会を得て、地道に育っていくはず。私は職人たちをとても尊敬しているからこそ、1人1人にスポットライトが当たり、自分を磨いていけるようなきっかけを与えたい。古臭い年功序列は必要ないと思うし、実力のある人がどんどん前に出ていけばいいとは思うけど、いきなり実力主義だ、好き勝手やってみろ、というのは難しいだろうから、こういう機会を経て、彼ら彼女らが育っていくことができれば、会社としても強くなるし、職人たちのキャリアにとっても意味のある時間になると思っています。

企画・編集・文/canaeru編集部

Minimal 富ヶ谷本店

カカオ豆を仕入れ、自社工房でカカオ豆からチョコレートができるまでの全工程を管理・製造する「bean to bar」でチョコレートを販売する専門店として2014年12月にオープン。材料となるカカオ豆は世界中のカカオ農園から直接買い付け、カカオ豆の個性を生かし、カカオ豆本来の味わいや香りを表現することに徹底的にこだわったチョコレート作りを行う。“日本発の世界に誇れるモノづくり”をコンセプトに、チョコレートの世界を新しくするべく、挑戦を続けている。

山下貴嗣

大学卒業後、コンサルティング会社で新規事業立ち上げなど数々のコンサルティング業務に従事。2014年初めにbean to barに出合い、独立。同年、渋谷区富ヶ谷に「?inimal」を開業し、現在、銀座、白金高輪、東武百貨店池袋店に全4店舗を展開。

この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント

○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。

○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。

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