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【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第21回 飲食店のパワハラについて考える①飲食店のパワハラの特徴

【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第21回 飲食店のパワハラについて考える①飲食店のパワハラの特徴

社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。

スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。

第21回は、『飲食店のパワハラについて考える』シリーズの第1弾。「飲食店のパワハラの特徴」をテーマにお届けします。

飲食店はパワハラ事案が多いという事実

前回まで5回にわたってお店でやってほしい仕事をA3用紙一枚にまとめる、という話をしてきました。
今回は、パワハラを中心にハラスメントについて話をしていきます。
パワハラ――パワーハラスメントという言葉が一般語になって久しいですが、飲食店はとにかく指揮命令の頻度が多くコミュニケーション量が多い職場です。その結果、パワハラと思われる事案が多く発生しているのも事実です。正しく理解して安心安全なお店をつくっていきましょう。

パワハラが怖くて指揮命令できない

飲食店において、パワハラ(パワーハラスメント)が大きな問題になっている理由の一つに「パワハラと言われてスタッフへの指示をすることが怖くなった」ことが挙げられます。今まで何気なく指示していたことに対し、とあるスタッフから「それってパワハラじゃないですか?」と指摘されてしまう。何がパワハラで、何がパワハラでないのか。ネットを検索しても色々な「言い方」で、“それはパワハラです”など断言しているものも多いですが、言い方だけの問題ではありません。言い方を気にしすぎているうちにスタッフを活かすことも難しくなっているのではないでしょうか。

「パワハラは言い方の問題だ」ととらえると間違える

厚生労働省がパワハラ6類型として整理したものがあります。

①身体的攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害

なるほど、これらを読むとこの中では「言い方」には触れていません。ただ、よく読むとおかしいと思いませんか?
①身体的な攻撃 ②精神的な攻撃 ⑥個の侵害 の3類型。これって、ただの犯罪ですよね。ちゃんと刑法にも定義されている犯罪です。ちなみに③④⑤は、社員を辞めさせるための嫌がらせとして裁判例で会社が負けた事例をまとめたものです。

「パワハラは言い方の問題だ」ととらえると間違える

パワハラを気にする前に犯罪を気にする

それでは、犯罪とは何でしょうか。①②⑥に該当する刑法について解説します。

罪名条文解説
傷害罪204条~207条人を傷害する罪。
判例では、傷害の要件として生理機能の傷害を要求しているため、髪の毛を切ることは傷害ではないとされた判例がある。なお、毛根から引き抜いた時には傷害とする判例もある。傷害の手段は「暴行」だけではなく、暴行によらない傷害もあり得る。近年では、「嫌がらせ電話」を執拗にかけ、人をノイローゼ状態に陥れた場合を傷害とする例も目立っている。
暴行罪208条「暴行」という概念は刑法上4つに分類される。
①人・物を問わず「有形力」の行使。
 例)道に駐車してある車をひっくり返す、他人の住居に駆け込む
②人に向けられた力の行使(必ずしも身体に向けられたものではない)
 例)警察に押収されそうになった帳簿を足元にたたきつける(公務執行妨害)
③人の身体に対する有形力の行使
④人の犯行を抑圧するに足る有形力の行使
一般に暴行罪における「暴行」は上記③の意味で用いられるが、次のような場合も「暴行」と認められた判例がある。
・毛髪の切断
・人の足元数歩手前を狙った投石
・身辺で太鼓・鉦などを連打する行為
・四畳半の室内で日本刀を振り回す行為
強要罪223条脅迫あるいは暴行により、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害すること。意思決定ないし行動の事由が侵害されたという結果の発生が犯罪の成立要件となる。自由侵害の結果が生じなかったときは、未遂罪となる。
逮捕・監禁罪220条・221条身体の行動・移動の事由を拘束すること。
限られた場所にとじこめたり、被害者の身体を直接にとらえるという方法が一般的である。拘束からの脱出が不可能な場合のみならず、脱出が著しく困難な場合も含まれる。
例)高い樹木に上っている人のはしごを外すこと、若い女性の入浴中にその衣服を持ち去り、浴室からでることができなくすること。
名誉棄損罪230条「公然と事実を摘示」した人の名誉を傷つけること。
事実の内容は、その人の社会的評価に関係するものであればなんでも良く、公知のものであってもよい。また、事実が真実であるか虚偽であるかを問わない。ただし、相手が死者である場合は「虚偽の事実を摘示」したときだけ名誉棄損罪は成立する。
侮辱罪231条たとえ「事実を摘示」しなかった場合でも、言葉や文書で人の名誉感情を傷つけたとき。「人でなし」「無能」「ぶす」等。死者に対する侮辱罪は存在しない。
信用毀損罪233条虚偽のうわさ・風評を流布することにより、人の経済的信用を低下させる行為。
恐喝罪249条人を怯えさせ財物を交付させること。

なんか難しいことが書いてあるなと思うかもしれません。①②⑥に書いてあること、これらはそもそも犯罪なのです。これをやったから即逮捕されるわけではありませんが、逮捕される可能性を持っている行為です。「パワハラだ!!」と指摘を受けないか気にする前に、知らぬ間に法を犯しているかもしれないことを気にしなくてはならないのです。「パワハラじゃないですか?」と言われ、言いたいことも言えずにストレスをためて、とうとう堪忍袋の緒が切れて殴った、という事態を起こしてしまえばパワハラ以前にそもそも犯罪です。
なお、「パワハラじゃないですか?」と言われ続けることを「ハラスメントハラスメント」――ハラスメントと言い続けるハラスメント、という言葉もあります。もう何が何だかわからない、「○○ハラスメント」氾濫の時代です。
次回以降で「言い方」についてもお話をさせていただきます。

今回のキーワード:無意識に罪を犯さないこと

この記事の執筆

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長_黒部 得善

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長

黒部 得善

1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。

<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)

<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー

<労務AI 公式サイト>
労務AI

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