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【小阪裕司コラム】第203回:“漂流するお客さん”がたどり着く場所とは

【小阪裕司コラム】第203回:“漂流するお客さん”がたどり着く場所とは

全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。

ある自転車店に舞い込んだ特殊なブレーキの依頼

 今回は、行き場がなく言わば〝漂流している〟お客さんのお話。今日の社会での店の役割・あり方を考えさせられるエピソードだ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある自転車店からのご報告。
 あるとき同店に、小学校低学年の男の子とその母親が来店した。彼女は一枚の図面を手渡しつつ、こう言った。「自転車が欲しいのですが、このブレーキが付いた自転車を買えますか?」。
 それは指が不自由な人でもブレーキを掛けられるブレーキレバーの図面。その男の子は左指が欠損していたのだ。彼女はある会合でこのブレーキの存在を知り、これなら息子も他の子どもたちと自転車で遊びに出かけられると考え、来店したのだった。
 しかし、自転車業界に20年以上携わっている店主も初めて知るブレーキだ。時間をいただきたいと、この親子には一旦引き取ってもらい、まず製造元のホームページなどをチェック。さらに製造元に電話し経緯を伝えると、このブレーキが装着された自転車の製造・販売はしておらず、ブレーキ単体で売っているとのこと。そしてこう言った。「この製品を困っている人々に伝えたい。その仲間になって欲しい。販売元としてそちらのお店をホームページでお知らせしてよいか」。店主は一連のやり取りから、熱心で信頼のおける製造元だと確信した。
 製品が届くと早速自転車に装着。思った通り品質も高く、自転車のデザインにもマッチしている。また、自店が行っている無料出張修理などの顧客向けサービスを利活用してもらえれば今後も安全に乗り続けられるだろうと判断し、母親にお売りできることを連絡した。
 そうして納品日を迎えると、父親も含め家族全員がご来店。息子さんは自転車を見て大喜び。納品する自転車と記念撮影し、額に入れてプレゼントする同店恒例の儀式も、家族全員で大いに盛り上がったのだった。

なぜ遠方からわざわざ訪ねてきたのか?

 その後、母親が改めて来店したときのこと。遠方のお客さんでもあったので、どうして今回自店に来たのかを聞いてみた。するとこういう返答があった。「実は何件もの自転車屋さんに断り続けられてたどり着きました。(中略)ここで購入できて、よかったです」。
 近年、実践会員らの現場報告を見ていると、自転車に限らず、様々な事情や悩みを抱えたお客さんが、頼る当てもなく行き場を失ったまま漂流し、最後に彼らの店にたどり着く例が増えている。今回、断った店にはそれぞれの事情があったのだろう。とはいえ、お客さんは漂流している。そんな彼らが最後にたどり着く場所とは、どういう場所なのだろうか。

この記事の執筆

博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者_小阪裕司

博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者

小阪裕司

1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。

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