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2022年10月から社会保険の適用範囲が拡大し、パートやアルバイトでも「従業員数101人以上の企業」は、条件によって加入が義務化されます。これによって「自分には無関係」だと思っていた経営者も、そうは言っていられなくなるかもしれません。
特に、パートやアルバイト従業員の比率の高い飲食店には、大きな影響があるでしょう。今回の条件変更が、どんなメリットやデメリットを経営側にもたらすのか? 順を追って解説します。
目次
2022年10月から社会保険の適用範囲が拡大
社会保険の適用範囲拡大は2016年から始まっており、2020年5月に成立した「年金制度改正法」によって、2024年まで段階的に緩和されていくことになっています。それ以前は、社会保険の適用対象は「所定労働時間が週30時間以上」である方、いわゆるフルタイムの被雇用者のみでした。
しかし2016年10月以降は「所定労働時間が週20時間以上」であることに加え、4つの条件を満たした場合はパートやアルバイトでも適用対象となることに。この4つの条件のうちの一つが「従業員数501人以上の企業であること」です。
さらに2017年4月からは、従業員数500人以下の企業でも、労使で合意がなされれば社会保険への加入が可能に。そして2022年10月からは、従業員数要項が「従業員数101人以上の企業」にまで緩和されます(2024年10月からは「従業員数51人以上の企業」に)。つまり、従来は適用外だった中小企業も社会保険への加入が義務となり、これによって社会保険の加入者は45万人も増加すると言われています。そもそも社会保険って?
社会保険とは、企業などに雇用されて働く、いわゆる会社員などの「被用者(被雇用者)」を対象とする「厚生年金保険」や「健康保険」のことです。
「厚生年金保険」に加入していると、全国民共通の基礎年金に加え、給料の額に基づいた比率の「厚生年金」を受け取ることができます。つまり、将来受け取る年金の金額が増えるのです。また、障害がある状態になった場合に受け取れる障害年金、加入者が亡くなった場合に遺族に支給される遺族年金の額も増えます。
また「健康保険」に加入していると、出産手当金や傷病手当金が支給されたり、扶養制度を活用して一家トータルの保険料を軽減することもできます。これら「厚生年金保険」「健康保険」の保険料は雇用者と被用者の折半となるため、被雇用者にとっては大変メリットのある制度と言えるでしょう。社会保険の適用拡大で注意すべき4つのポイント
従来の従業員要件と、新しい従業員要件の違い
これまでの社会保険加入の適用対象は「所定労働時間が週30時間以上」である、もしくは次の条件を満たす被雇用者でした。
(1)所定労働時間が週20時間以上
(2)月額賃金が8.8万円以上
(3)見込まれる雇用期間が1年以上
(4)学生ではないこと
(5)従業員数501人以上の企業
(500人以下であっても労使の合意があれば加入可能)
このうち、2022年10月以降から変更になるのが(3)と(5)です。
(3)の見込まれる雇用期間が「1年以上」から「2カ月超」に。(5)の従業員数は「501人以上の企業」から「101人以上の企業」へと、大きく変化します。
「雇用期間1年以上」要件の撤廃
これまでは1年以上雇用される見込みがなければ社会保険の適用外でしたが、2022年10月以降は2カ月を超える雇用の見込みがあるか否かで判断します。なので、契約期間が2カ月以内であっても、以下のように2カ月を超えて雇用される見込みがある場合は、雇用開始時まで訴求して適用を受けられます。
・就業規則や雇用契約書等で、契約更新の可能性が記載されている場合
・同じ職場、同様の雇用契約で雇用された従業員が、契約期間を超えて雇用された実績がある場合
対象者の数え方とカウント期間
一般的に「従業員数」と聞くと、正社員からパート・アルバイトまでの全従業員数だと思いがちでしょう。しかし、社会保険の適用要件を判断するための「従業員数」とは、「現時点で社会保険の被保険者となっている従業員数」のことです。
具体的にはフルタイムの従業員数+週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数の合計となり、短時間労働者や学生など、社会保険の適用対象外となる従業員はカウントされません。ちなみに店舗ごとにカウントするのではなく、同一の法人番号を持つ法人ごとに合計しての被保険者数となります。
また、月ごとに従業員数の増減がある場合は、直近12カ月のうち6カ月で基準を上回った時点で適用対象となります。適用対象となって以降に従業員数が条件を下回ったとしても、引き続き適用されるのが原則です。
適用拡大後の社会保険料の算出
社会保険の保険料は雇用者と被雇用者の折半となるため、社会保険の適用が拡大されると、企業側が負担する保険料額も増加します。そのため、新たに社会保険に加入する従業員数を試算し、それに伴う社会保険料の負担額を算出しておくのは経営者として欠かせません。
厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」には「社会保険料かんたんシミュレーター」が設置されています。こちらに対象人数や給与額などを入力すると、雇用側が負担する社会保険料の試算ができるので、上手く利用していきましょう。
とるべき対策の流れ
加入対象者の把握
まずは、新たに社会保険に加入する対象者を把握することが必要です。従業員数101人以上の法人の場合、
・所定労働時間が週20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・見込まれる雇用期間が1年以上
・学生ではない
以上4つの条件に当てはまる従業員が対象となるので、各パート・アルバイト従業員の労働条件や労働状況を確認していきましょう。
従業員への説明
加入対象者を把握したら、社会保険の適用が拡大されることを社内に告知します。特に、新たに社会保険の加入対象となるパート・アルバイト従業員には、法改正の内容や対象となった理由、加入することによって生じるメリット・デメリットなどを説明しましょう。
また、新たに被保険者となる従業員に対しての制度説明を行うにあたり、社会保険労務士等の専門家がアドバイス等を無償で行う制度も5月から実施されています。希望する場合は日本年金機構のホームページを参照の上、最寄りの年金事務所に申し込んでください。
対象者本人の意向を確認する
適用要件に当てはまる従業員は、本人の意思にかかわらず社会保険に加入することが原則です。しかし、社会保険に加入すると給料から保険料が天引きされたり、既婚者の場合は配偶者の扶養から外れてしまうデメリットが生じる可能性もあります。それを知った対象者が、加入を拒否するケースもあるかもしれません。
そのため、加入対象者とは面談を行い、被保険者となった場合の変更点をしっかり伝えた上で、その意向を確認しましょう。加入に難色を示された場合は、労働時間を20時間未満にする等、働き方の変更を提案するのも一つの方法です。
令和4年10月以降の資格取得届の準備
今回、新たに適用対象となる従業員数101~500人の企業には、2022年8月までに適用拡大となる旨を通知する書類が日本年金機構から届きます。その上で、被保険者となる日や報酬月額等を記入した被保険者資格取得届を、2022年10月5日までにオンラインで提出する必要があります。
届出書のフォーマットは、日本年金機構のホームページに用意してあるので、事前に作成しておきましょう。
適用後はコストの負担と、雇用管理の徹底が必要に
新たに社会保険に加入する従業員の保険料は、その半分を雇用者が負担することになります。今回の社会保険適用拡大に伴い、保険料の負担額増加が経営にどんな影響をもたらすのか? そのコスト増をどこで補っていくのか?を考え、早めに対策を講じておくのがベターです。
特に、ただでさえコロナ禍で打撃を受けている飲食店において、社会保険料の増加は大きな負担になるでしょう。従業員の意向を確認しつつ、事業の効率化と収益の増加を図ることが重要です。
また、社会保険の適用には労働時間などの厳密な条件があります。そのため、適用後は労働日数・労働時間などの雇用管理を、適用以前よりも厳格に行わなくてはいけません。
適用要件に該当する従業員であるにもかかわらず、社会保険の未加入が判明した場合には、遡及して支払いが発生してしまいます。逆に、適用を受けていないパート・アルバイト従業員が、うっかり適用要件に該当しないよう、シフトを管理している従業員にも周知を徹底しましょう。
社会保険完備は労働者にとって魅力的。働きやすい職場づくりを
雇用者にとって、社会保険の適用拡大は保険料の負担増加に直結し、収益の減少をもたらします。逆に被雇用者には、老後の厚生年金受給や各種手当金を受け取れるということで、非常に魅力的な職場に映るでしょう。当然、求人では「社会保険完備」をアピールすることで、より有能な人材を確保することが可能になります。
また、従来の従業員にとっても、社会保険に加入できることは、大きなモチベーションアップにつながります。結果、従業員一人ひとりのスキルが向上し、職場全体の活性化や効率化、長い目で見れば収益アップも見込めます。
保険料の負担増という短期的なデメリットに惑わされず、長期的な視点に立って、社会保険適用であることのメリットを存分に活用する手立てを考えていきましょう。
ライター:清水素子
早稲田大学商学部卒業後、女性向けコミック/小説誌、音楽誌の編集を経てフリーランスのライター&編集に。エンタメ系からビジネス系まで幅広く執筆中。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。- NEW最新記事
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