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出張料理人として全国でカレーを振る舞う傍ら、カレー教室の講師やカレー本の執筆、本格カレーを自宅で作れるスパイスセットの通販サービス「AIR SPICE」の代表など、多岐に渡る「カレー活動」で知られる水野仁輔さん。そんな水野さんが中心となり、「俺たち、カレー屋になるわ」という合言葉で集まったメンバーの中から、鹿島冬生さんが東京・戸越にカレー店を開業することに。「カレー屋は儲かるのか?」という永遠のテーマと、開業までの道のりを5回の連載で追っていきます。第4回目は、自ら内装工事に参加して完成させた店舗「ストン」とともに、オープン日を目前に控える店主の心境を伺っていきます。
間借り営業がきっかけで知り合った大工さんと、二人三脚の内装工事
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――まずは店舗の完成おめでとうございます! 水野さんも初めてご覧になるとのことですが、印象はいかがですか?
水野:いい店じゃないですか~! さすがのセンスだと思いますね。仕事柄良いものをいっぱい見てきたわけだから、当然、美意識は高いんだろうと思っていたけど、こういうスッキリしたお店はいいですよね、とっても。――我々は工事前のビフォーも拝見しているので驚きますよね。
水野:インテリアに関わる仕事を長年されていたので、普通の人がお店を始めるのとは違うだろうなって思ってましたけどね。ほら、壁とかの色味や木の色とのバランスとか、イスの組み合わせとか、全体のトーンがとっても良いですよね。このまま僕が買い取ってお店を始めたいくらい(笑)。僕がこのお店を買ったら、濁点を付けて「ズドン」って名前にしますよ(笑)。――お店は「ストン」と名付けられましたが、どんな意味が込められているんでしょう?
鹿島:それはね、(名前が)落ちてきたんですよ(笑)。
水野:ストンと落ちてきたんだ(笑)。
鹿島:特に意味はないんです。間借り営業のときはずっとプロジェクト名の「DADA CURRY」でやってましたが、「DADA CURRY」も散々意味を訊かれましたね(笑)。
水野:「DADA CURRY」も全く意味がないから、訊かれても困るんだよね。説明のしようがない。
鹿島:「ダダイズムですか?」とか訊かれるんですけど、全然関係ないっていう。――お店の名前にこだわらないっていうのは、水野さんもよくわかりますか?
水野:よくわかりますね~。「AIR SPICE」もどういう意味ですかって訊かれるんだけど、特に意味はないんだよね。だから、後付けだけど“エアーギター”のエアーから取ったって言ってるんです。自宅にスパイスがなくても、あたかも常備しているかのようにカレーが作れるサービスですって。
鹿島:みんな意味を訊きたがりますよね。それと多いのが「どういうカレーなんですか?」っていうのもよく訊かれるんですけど、どんな風に答えようか困っています。
水野:それはきちんと答えを用意しておいた方がいいよね。多分、自分の好みに合うかどうかを知りたいんじゃないかな。ラーメンで言えば次郎系とか、スープはとんこつなのか醤油なのかとか。僕は「スパイスカレー」って言ってます。でも、カレーは全部スパイスでできているからね。スパイスカレーって言われても……ってなるんですよ(笑)。ホテルで出てくるカレーだってスパイスカレーだから、一言で説明するのは難しいですね。――内装工事のお話しに戻りますが、最初からこの仕上がりをイメージして作業を進められたんですか?
鹿島:全部を決めてスタートしたわけじゃないんですよ。インダストリアルっぽい感じが良かったんだけど、行き過ぎちゃうと廃屋みたいになっちゃうので、もう少しモダンな雰囲気にして間を取った感じですね。――木のインテリアがあるのでナチュラルな印象も受けますね。
鹿島:モルタルのカウンターや本棚を置きたいと最初から思っていたんですけど、そんなに予算がないからいかに安く、それっぽく見えるかっていうのは考えてました。結局は大工さんの腕が良かったんですよ。
水野:材料を探しに前橋へ行こうって言っていた大工さん?
鹿島:そうそう。でも、前橋には僕が欲しいものは何ひとつなかった(笑)。
水野:大工さんとは知り合いだったの?
鹿島:大工さんは、上野にある「ROUTE BOOKS」っていう間借り営業をしていたカフェの母体が工務店さんで、そこから紹介してもらったんです。その工務店さんはリノベーションを結構手掛けていて、仕上がりもカッコイイんですよ。それで、店を始めるときに工務店さんに来てもらって、予算を踏まえて相談したら「ウチが入ったら無理です」って言われたのね。
水野:通常の仕事としては受けられないと。
鹿島:そう、予算的に。だから職人さんを紹介してあげるから、自分で全部やればいいよって。それで紹介してもらったんですよ。大工さんにも予算とイメージを伝えて、「わかりました、やりましょう」ということになりましたね。
水野:そういう意味では、この店を始める前に試験的にやっていた間借り営業で繋がった人と店作りをしたんだ。
鹿島:だけど、工事が全部終わらないまま大工さんは別の仕事が始まっちゃって。それで、僕が左官作業もすることになったんだけど、やったことないし、材料の作り方もわからないから、一通りやってくれたのを見つつ、大工さんが帰った後にひとりで作業してました。外の壁は全部僕が塗ったんですよ。
水野:へぇ~、すごいね!――他のお店から譲っていただいた備品もあるとか。
鹿島:テーブルは譲ってもらったっていうか買ったんですよ、結局。近所にインド・ネパール料理の店があったんですけど閉めちゃって、搬出作業をしているときに声を掛けてみたら「何か欲しいものある?」って訊かれて。「テーブルちょうだいよ」って言ったら「安くするよ」って(笑)。天板は傷があったので新しいものに取り換えました。貰ってきたのは、棚柱のパーツですね。友達に美容院の設計をやっている子がいて、閉めるお店があるから取りにきてくれたら好きなのを持っていっていいよって言ってくれて。買うと結構するんですよね。――完成した店舗の満足度はいかがですか?
鹿島:ほぼほぼ望み通りのものができたと思ってます。
水野:素晴らしいですね!――内装工事を進める中で一番苦労したことはなんですか?
鹿島:作業を進めているうちに、微妙なズレみたいなものが出てきましたね。
水野:それは自分の考えと実際の作業とのズレってこと? コミュニケーションのこと?
鹿島:僕が「こうしたい」と言っても、図面がないから言葉で伝えるしかないんです。向こうも「わかった」って言ってくれるんだけど、いざ始めてみるとちょっと違うんじゃないの?っていうことがありました。それで、向こうもだんだんイライラしてしまったりして(苦笑)。例えば、コンセントを「どこにつけますか?欲しいところに印をつけてください」って言われて、印を付けていったんだけど、ここは要るか要らないか私が考えている間に壁を貼られてしまって……(笑)。
水野:(笑)。
鹿島:えぇ~、ちょっと待って!って(笑)。後からコンセント空けてもらいましたけどね。そういうのは少しあったけど、結果的にはまとまったかなと。――お皿や備品もすべて揃えられたんですか?
鹿島:そうですね。お皿や備品は駆け足で買ってきました。合羽橋へ行って。3往復くらいしましたよ。
水野:わかる。合羽橋はモノが多過ぎて疲れるよね(笑)。まるで自分のセンスと違うものも山ほどあるし、これ良さそうだっていうのがあっても、もう少し先の店まで行ったら、もっと良いのがあるかもしれないって思っちゃって(笑)。
鹿島:とりあえず、いろいろ見たいんですよね。
水野:そう、ひとまずここは第一候補って感じで。それに、右に行って、左から帰るってことをしないと両側を見れないからね。楽しいんだけどね。それに、夕方くらいには閉まっちゃうから、一日かけて行かないと。僕はスパイスを入れるチャーミークリアっていうガラスケースを合羽橋で買ってるんだけど、ああいうのも何軒かで売っているから、値段が100円とか50円違ってたりする訳ですよ。こっち側で買って、あっちでもっと安く売ってるとなると、値段を見て凹むよね。――物件の引き渡しからオープンまでにかかった時間は8週間ということですが。
水野:すごいね~。よく間に合ったね。
鹿島:本当は12月の頭にオープンしたかったんですけど、そのためには1週間前に保健所と消防に届けを出さなきゃいけなくて。でも、結局終わらなかったですね(苦笑)。
水野:そのあと、誰かに日取りを決めさせられたって聞いたよ。
鹿島:それは、毎週水曜日に会議をしてるんですよ。そのときに、レセプションを今度の金曜日と土曜日の2日間でやろうと決まって。先週の水曜日にいきなり決まったんですよ。人脈とは動き出してから自然と築かれるもの。まずは「アクションを起こす」人になろう
――まもなくオープン日を迎えるわけですが、カレー屋さんになりたいと思っている方にアドバイスを送るなら、まず何から始めれば良いでしょうか?
鹿島:とりあえずひたすらカレーを作ることからじゃないですか? 結局、経験値だと思うんですよね。何事においても。だから、いっぱい作ったほうがいろんなことがわかると思いますよ。いっぱい作ることで美味しくなるというよりは味が安定しますよね。僕も最初のうちはスパイスの配合をメモしながらカレーを作っていましたから。――おふたりとも、すごく人脈がある方だと思うのですが、開業には人脈も必要でしょうか?
鹿島:えっと、僕はそういうのはあまり信用してなかった人なんですよ(笑)。信用していなかったんだけど、発信すると返ってくるんですよね、やっぱり。自分が「カレー屋になりたい」ってことをいろんな人に言うとか、ブログで発信するんですよ。ブログも自己満足でやっていたつもりなんだけど、実はいろんな人が見てるんですよね。この間、まだ工事をしている最中に雑誌の取材が来たんです。扉をノックされて、出たら「ライターなんですけど」って言われて。「なんでウチを知ってるんですか?」って訊いたら、「ブログを見てます」と。すごい!と思ったんですよね。あと工事を始めるときに「毎週水曜日に会議をします」ってブログに書いたら、全然知らない人が5人くらい来たんですよ。――えぇ!? すごいですね。
鹿島:どうして来てくれたの?って訊いてみると、「戸越でカレー屋を作るって言うから来ました」って人や、「間借り営業もするならお手伝いしたいんです」って人が来てくれて。
水野:へぇ~、それはいいねぇ。――来てくださった方の中には、将来カレー屋をやりたいと思っている方もいたんですか?
鹿島:そういう人もいるし、単純にこの辺りに住んでいてカレーが好きだからって人もいますね。――会議ではどんな内容の話をしてるんですか?
鹿島:雑談です(笑)。
一同:(笑)
鹿島:でも、さっき言ったようにそこでいきなりレセプション日が決まったりします。
水野:自分も関わっているんだっていう感覚がお客様には嬉しいんだと思います。それはすごく、“仲間を増やしていく感覚”に近いんだと思う。
鹿島:間借り営業をやるにしても、「あそこ貸してくれるんじゃないの?」とか、そういう情報も集まってくるんですよ。
水野:その結果、間借り営業をした先の大工さんがお店の施工をしてくれたりするわけだからね。僕が思うのは、新しいことをやろうと思った人が「人脈がないから無理かもしれない」って感じていても、人脈って動き始めてから作られていくものの方が多いと思います。先に人脈が必要というわけじゃないというか、これくらい人脈ができたから何かやってみようっていうんじゃなくて、人脈なんかゼロでも動き始めると自然と作られていくんですよね。僕が主宰する『カレーの学校』では、授業のたびに「プレイヤーになってくれ」って生徒にずっと言ってるんです。プレイヤーって“アクションを起こす人”なんですよ。とりあえずやってみる。鹿島さんがこうやって動き出したときにみんなが協力してくれたのは、今ってSNSやネットが盛んで、誰もが情報発信できる時代じゃないですか。だけど、実はプレイヤー自体は少ないと思うんです。自分でアクションを起こす人はあまりいないんですよ。もちろん、どこかのカレー屋に食べに行ってレポートを上げるっていうアクションはよくあるけれども、ゼロから何かを作ってアクションを起こすとか、アウトプットする人は実はすごく少なくて。アクションを起こす人が偉いわけじゃないけれど、やる人が少ないからこそアクションを起こす人が周りに出てくると参加したい、関わりたいって思う人が集まるんですよね。――もしかしたら、自分もアクションを起こしたいって気持ちもあるのかもしれないですね。
水野:そういう気持ちもあるのかもしれない。でも、何がやりたいのかわからなかったり、やりたいことがあってもどうすればいいのかわからなかったり、勇気がなくてなかなかアクションを起こせないって人がほとんどなんですよね。そんな中、そういうことを全部クリアして、ひとまずやってみようって動いた人のところには多分みんなが付いてきてくれる。僕がよく言っているのは、「プレイヤーとはアクションを起こす人で、自分ひとりで何かを始めたら、次に自分の周りにアウトプットして欲しい」と。それから少しずつ範囲を広げていって、そのうち全く知らない人にアクションを起こしてアウトプットする。だから、ドキドキする、緊張の度合いも高まっていくわけですよ。不安になったり、怖くなって辞めたくなったりとかいろいろあるんだけど、そういうことを越えていくと、ステージに立ってプレーする人の自覚や度胸が付いてくるんだと思います。そこまでいけば、今度は反応があることが楽しくなるんですよ。条件が整ったらとか、ここまでやったらとか、そういう話は置いておいて、とりあえず小さなことからやってみるっていう。――開業だけでなく、何事においても当てはまりそうなお話です。
水野:そうですね。あと、僕が心掛けているのは「できるだけ多くの人を巻き込む」ことです。巻き込むっていうのは、多くの人に楽しんでもらうことでもあるし、多くの人に迷惑を掛けることでもあります(笑)。これやろうあれやろうと言って、一緒にやったら面白いよっていうポジティブな巻き込みもあるし、困ってます誰か助けてくださいっていう巻き込みもあるし。いずれにせよ、できるだけいろんな人を巻き込むアクションを起こすと、自分が想像もしていなかった方向に早いスピードで動いたりするんですよね。自分の知らないところで、ひとり歩きしたり、ブログを読んでいた人がいきなり取材に来たりっていうことだって起きるから。それが僕はすごく良いなって思うんですよね。――情報発信が大事という話ですが、鹿島さんもブログでの発信は続けますか?
鹿島:続けた方がいいですよね(笑)。――メニューはもう決まったんでしょうか?
鹿島:チキンカレーとキーマとチャナ(ひよこ豆)。あと、ポークビンダルーを入れようか悩んでます。
水野:盛り合わせみたいに出すんですか?
鹿島:それはね、あんまりやりたくないんですよね。――複数盛りはしたくないっていうのはどういう理由からなんですか?
鹿島:最近、流行りじゃないですか。それはちょっとやりたくないなって(笑)。
水野:それはわかる(笑)。僕のフードトラックもいつも2種類のカレーを出していて「合い掛けはないんですか?」って訊かれるんだけど、合い掛けは絶対しないって決めてるんです。理由は全く一緒ですね。合い掛けやワンプレートにいろいろ盛るのが今の流行りだから、そこには行きたくないっていう(笑)。変な反発心ですね。――カレーとともに出すメニューはありますか?
鹿島:アチャールですね。
水野:アチャールですか! いいですね。アチャールはインドのピクルスのことなんですけど、簡単に言うとオイル漬けなんですよ。僕のやってるフードトラックでも付けているんだけど、「このご飯の横にくっついてるのなんですか?これだけ売ってください」ってものすごい反響なんですよ。ご飯に付いてるアレが食べたくてもう1回おかわりしましたみたいな人もいるくらい(笑)。――アイドルタイムにはコーヒーやスイーツを出されるそうですね。
水野:スイーツはどうするの? 奥さんが作るんだ? それはいいね!
鹿島:コーヒーは前から好きで、ずっと飲んでいたんですよね。お昼と夜だけの営業じゃなかなか厳しいんじゃないかと思っていて、隙間の時間をコーヒーとスイーツが埋めてくれたらいいのかなって思っています。この近所にはコーヒー屋さんがあまりないんですよ、だから穴場なのかと。――オープン目前ですが意気込みは? 準備の疲れは残ってないでしょうか?
鹿島:そんなこと言ってる場合じゃないので、干からびないように頑張ります(笑)。水野仁輔
株式会社エアスパイス代表取締役。「AIR SPICE」を立ち上げ、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。1999年に立ち上げた「東京カリ~番長」名義で全国各地へ出張し、これまで1,000回を超えるライブクッキングを実施。カレースター(糸井重里さんが命名)として、ほぼ日刊イトイ新聞が運営しているカレー関連プロジェクトを実施。カレーやスパイスに関する著書は40冊以上。
http://www.airspice.jp/
鹿島冬生
東京・戸越に2017年12月、カレーとコーヒーの店「ストン」をオープンしたオーナー。インテリア全般に関わるお仕事を20年以上続けた元サラリーマン。カレー屋を志望する人や「儲かるカレー屋」をやるにはどうしたらいいかという問いを、それぞれの立ち位置で考えたり実践したりしてる「DADA Curry Project」のメンバー。
http://www.plaything.jp/
https://www.facebook.com/ston.tokyo/【カレー屋って儲かるの?】記事一覧はコチラから!
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