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【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第3回 理念を日常の労務に活かす

【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第3回 理念を日常の労務に活かす

社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。

スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。
特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。

第3回は、スタッフに辞められにくいお店になるために必要な、理念を活用した労務についてお届けします。

みなさんの会社やお店には理念はありますか?理念があるお店は、うまく活用できていますか?
理念がまだないのであれば理念の作り方を、理念が活用されていないのであれば理念の活用方法を知っていただければと思います。

「前職も飲食店でした」が圧倒的に多い業界

コロナ以降の飲食業界は極度の人手不足です。
だから、応募があったらとにかく採用をしてしまうというシーンも見られます。「とりあえずいてくれるだけでも助かる」と妥協してでも採用する。それはそれで悪いことではないと私は考えています。きちんと理念を活かした労務ができているのであれば、という条件付きですが。

飲食業の人材における特徴の一つですが、雇うスタッフは前職でも飲食店で勤務していた人の方が多い業界です。飲食店勤務経験があるスタッフが多いということは主語がおかしな労務が起きてしまいがちです。
具体的には、「前のお店はこうでした」「前のお店ではこうやっていました」と、主語が“前のお店は”となってしまうのです。冒頭で述べた理念を活かすとは、つまり会社を主語にして労務をすることなのです。「うちのお店はこうです」「うちの会社のやり方はこれです」と自社を主語にする必要があります。

妥協して採用した結果、「前のお店は」という意見ばかりになればお店は大混乱します。会社を主語にして労務をする、ということに対しては絶対に妥協をしてはいけないのです。

理念を日常的に使う

理念教育や社員教育に定評のあるDREAM ON社の赤塚元気社長は言います。
「どんな立派な理念があっても、お店で一番使われている言葉が、結果的に、そのお店の理念になる」と。
お店で飛び交う言葉が「ありがとう」にあふれていれば「ありがとう」が理念になっていくし「コスト下げろ下げろ」であれば、結果的にコスト削減が理念になっていくのです。

労務の観点で理念をどのように使うか。それは、日常的に理念を投げかけるということです。
例えば、「食を通じて笑顔あふれる街づくり」という理念があったとします。「その行動は笑顔につながるの?」などのように、理念の一部を使って投げかけ続けるのです。

飲食店において理念は飾り物ではなく、日常会話に理念を入れ込み、指揮命令につなげていくことが大切です。
理念を会社の判断軸として日常的に使いつづけないと、それこそ、妥協して採用した人や声の大きな意見に右往左往させられることになります。それは理念をしっかり信じて頑張っているスタッフから見ると、仕事がバカらしいものになっていってしまうのです。

会社を主語にして指揮命令すると“辞められにくい”けど“辞めさせやすい”お店になる

ちょっと話は変わりますが、労務トラブルで一番面倒くさいのは解雇トラブルです。その解雇トラブルの99.9%はコミュニケーショントラブルです。

トラブルにならないきちんとしたコミュニケーションをとるには理念が大きく関係しています。それは、「”合わない人”や”合わせる気のない人“に会社が合わせる必要はない」という考え方です。
では、”合わない“ことをどうやって証明するのでしょうか。合わせるべき軸がなくてはダメです。それが”理念“です。会社の考え方がブレブレであれば”合わせる”ものがありません。一方で、会社の考えと行動がブレなければ”合わせるべきもの”がはっきりします。そうすれば、合わせていないことを証明することも簡単です。

会社の考えに合わせるように指導をし続ける、それでも合わせることがなければ「合わない人、合わせる気のない人」であるということを証明することができ、結果、解雇となります。

実際のところ、理念に共感して従うスタッフが大半です。その人たちを守ることが一番大切なことです。ブレないこと、立ち返るところ、それが理念なのです。
「”合わない人”や”合わせる気のない人“に会社が合わせる必要はない」ということを徹底することで、理念が浸透されたお店となり、店長さんも指揮命令しやすい環境を作ることができます。それにより、「辞めさせやすい」けど「辞められにくい」お店になるのです。

今回のキーワード:ブレないお店にするために理念を日常に取り入れる

この記事の執筆

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長_黒部 得善

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長

黒部 得善

1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。

<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)

<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー

<労務AI 公式サイト>
労務AI

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