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【小阪裕司コラム】第191回:お客さんの心が動く物語とは

【小阪裕司コラム】第191回:お客さんの心が動く物語とは

全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。

ある良質な絨毯にまつわる“物語”

 今回は、商品にまつわる物語がいかにお客さんの心を動かすかというお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、輸入絨毯販売店からのご報告。
 仕入れた絨毯についてお客さんとSNSを介してやり取りしている同社だが、店主が今回常連客のAさんにトルコで仕入れたある絨毯を紹介すると、早速返信があった。そこに「試し敷きの手配をお願いします。産地と制作年代を教えていただけると喜びます」とあったので現地の絨毯商に尋ねると、「おそらく40年~45年前のキリムです」の言葉に続いて、こんな話が返って来た。
 「これはかつて私が販売した一枚でした。それを持っていた家の孫が、私に買い戻してくれたのです。色合いは素晴らしく、すべて昔ながらの処理で染められています。彼女(織り手)は自分の羊毛も少し使っていて、それを手で紡ぎ、植物染料で染めていました。私はこのキリムがジレ村で作られたことを覚えています。彼女は何年も前に亡くなりましたが、本当に心の温かい女性で、私たちにキリムの作り方や、植物から染める方法を教えてくれました」。まさに、商品にまつわる物語が返って来たのである。
 一般的に、現地の絨毯商がこのような物語を伝えてくれることは珍しいと店主は言う。早速Aさんに伝えたところ、次のメッセージが返って来た。「心温まるメッセージで感激しました。いつどこで織られたかだけでなく、そのキリムの持つヒストリーを教えていただき、未だ見ぬキリムに対して深い愛情を感じました」。そしてそのメッセージはこのように締めくくられていた。「(そのキリムに)近々お目にかかれるかと思うと今からワクワクしています」。

“情報”だけでなく“物語”がもう一つの価値を伝えた

 先の「試し敷き」のやり取りから、Aさんが常に、まず実物を見て、部屋に合うかどうかを見定めてから購入していることが伺える。しかし今回は見る前から愛着を持ち、すでに購入を決定しているように思える。そして、「商品を買う」というより、「大切なものをお迎えする」感覚になっていることが分かる。この違いを生んだのは、商品にまつわる物語だ。単にお客さんの知りたい「情報」だけを現地に確認して伝えるだけでは決して知り得なかった唯一無二の物語。それを伝えることが商品の価値を伝えることと改めて気づいたと店主は言うが、まさにその通り。それこそが商人の役割なのである。

この記事の執筆

博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者_小阪裕司

博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者

小阪裕司

1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。

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