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商圏とは「ある店舗が集客できる地理的な範囲」であり、これを分析することで、人口や消費者の属性、競合店の有無などの地域特性を把握できる。
こういった「商圏分析」による、出店予定地域のいわば「見える化」は、計画的な集客や無駄のない販促活動、商品展開にとって非常に重要で、やみくもにすべての消費者をターゲットにして店舗に呼び込むといった無駄を省き、運営における指針の設定、全体の効率化に役立つ。
そして、皆さんご存知のように、商圏分析は大手チェーン店などが行う大規模出店には欠かせないものであるが、ジョンソンタウンのような「特殊な商圏」には、果たしてどのようなマーケティング戦略があったのか?同業種が多数でも「平和的な店舗間の競争」
今回取材したなかで、商店が混在する住宅地としてこの町が発展したと感じた3つの背景がある。
まず「平和的な店舗間の競争」だ。ジョンソンタウンには飲食店が20店あり、そのうち半数がカフェとして営業するなど、同業種の店舗が多数、軒を連ねており、他店と同様のメニュー提供では、数多くある飲食店のひとつとして埋もれてしまう。だから各店がそれぞれ「北欧」「アジア」「アメリカ」「沖縄」といったコンセプトやテーマを明確に打ち出し、差別化を図っている。
実際に第二回、第三回の連載で登場していただいた飲食店は、カフェのスタイルで営業しているが、それぞれに異なったコンセプトを持っている。
また、古い町並みを徹底して活かすレトロな景観が、町をコンセプチュアルな場所にしていることは既に記した通りだが、この優れた特徴がある一方、各店舗の建物が当然似てくるため、外観で個性を出しにくいというある種のマイナス面も生み出す。だからこそ外看板や印象的なメニュー写真など、店舗前を歩く人を素通りさせない工夫が洗練された形で施されている。町の雰囲気を散策しながら楽しむ人たちのために、食べ歩きメニューをクローズアップして打ち出す店が多いのも、ジョンソンタウンならではだ。
このように店舗同士が近距離で互いに顔を突き合わせながら、個性を競い合える挑戦の場所となり、良好なライバル関係のなかでの切磋琢磨が続き、それが町全体の活気に繋がっていく。
ジョンソンタウンの管理業務を行う株式会社磯野商会の磯野章雄氏にご登場いただいた本連載第一回目に「管理会社とテナント、住民同士、経営者同士、さまざまな立場の人が横の繋がりを保ちながら自由な雰囲気のなかで商売をやれていることが、この町全体ののんびりとした空気感、居心地の良さを育み、個人経営者にとっては商売しやすい場所になっているのかもしれない」――と書いたが、“横の繋がりを大事にしながら自由な雰囲気のなかで商売すること”こそ、ジョンソンタウンの強みとなり、結果的にではあるが、戦略(のようなもの)になった。積極的に行われる店舗間のコラボレーション
2つめは「成熟したコミュニティ」だ。店同士の横の繋がりは、たとえば、積極的に行われる店舗同士のコラボレーションなどに現れている。雑貨店の店頭で他の飲食店の商品であるドーナツを販売するなど、「A店の商品をB店でも売る」――こういったお店間の協働による販促展開が、当たり前のように行われているのだ。「何かがあったときに、みなさんが本当に助けてくれる」と、黒糖カフェカフーの池上小枝子さんが言うように、ジョンソンタウンでは経営者同士が互いに支え合い協力し合う。これは、個人でお店を運営する身にとっては何より心強いことだ。
加えて、「横の繋がり」だけでなく、管理事務所と店舗の「縦の繋がり」もポイントだ。毎日更新される管理事務所のフェイスブックでは、各店舗のちょっとしたニュースが掲載され、店舗との連携が伺える。とはいえ管理事務所から経営や方針に関して過度な干渉があるわけではなく、「付かず離れずでやりやすい」(イーストコンテンツカフェ/赤久保良次さん)、「昔ながらの日本の商店街みたい」(メロウフードカフェ/高橋みきえさん)、と適度だ。この、縦の繋がりのちょうどよい距離間はお店同士の横の繋がりにも良い影響を与えている。ジョンソンタウン愛がこの街の大きな力になる
3つめは「オンリーワンの存在感」だ。約80年にわたるこの町の歴史を守り、古い建物を活かした他にはない異国情緒あふれる町並みは、映画やドラマ、ミュージックビデオなど、多数のロケで使われている(皆さんも、一度はきっと目にしたことがあるはずだ)。この場所が選ばれる理由はやはりオンリーワンな景観であり、それが映像に関わるスタッフたちの目に魅力的に映るのだ。それは観光者として訪れる人たちも同じだろう。そして今回強く感じたのは、外から訪れる私たち以上に、この場所に店を構える経営者たちもこの町を愛しているということだ。
この「ジョンソンタウン愛」は、今回取材をした4人に限らず、他店舗の経営者との会話からも強く感じた。その愛情は、訪れてくれるお客さんはもちろん、大きく見ればライバルとなる他店舗にまで広がり、ポジティブなエネルギーとしてジョンソンタウンの大きな力となっている。自然と出来上がった他所との差別化
一般に商売を成功させるためには、いわゆる「マーケットポテンシャルの高い商圏」への出店が重要だとされている。だがジョンソンタウンは地方都市にあって、立地は駅からも遠く不便――にも拘わらず、地域住民はおろか遠方からも消費者がやってくる、屈指の人気スポットとなった。「オンリーワンで特徴のある店を、と思って一店一店やってきただけ」と管理会社の磯野章雄氏は言う。自分たちにしか生み出せないものを追求してきたことが、ジョンソンタウンが多くの支持を得ることができた大きな理由であることは記してきた通りだが、結果的にこの町の商圏を拡大することになったのは、町並みやお店同士の連携といったここでしか味わうことが出来ない体験、即ち他所との徹底した差別化だった――ということになるだろう。
マーケティングは需要創造と差別化のために生まれ発達してきたという背景もあり、そのノウハウにもとづいてお店を開いたほうが、失敗の確率は減る。だが大手企業が大規模展開するチェーン店ならともかく、個人店舗ではそこに必要以上にこだわらず、まずは自分にしかないもの、自分にしか出せない魅力を徹底的に洗い出し、お店のコンセプトとして彫り込んでいくべきだろう。商圏分析、マーケティングはその次でも遅くはない。ジョンソンタウンという、個人経営の店舗が集まる場所を取材しながらそう感じた。
息の長い店舗経営ができる理由とは?
ジョンソンタウンに出店しているお店も、すべてが順風満帆というわけではない。長年続くお店もあれば、1年ほどで撤退してしまうお店もあるという。この場所で6年間カフェを営んできたメロウフードカフェの高橋みきえさんは「『これしかできないから、このスタイルでやってきた』というお店が残っている」と話す。「お店を開こうと思ったときに大切にすべきは、事業計画書などを通して、自分のやりたいことを丁寧に掘り下げていく作業だ」とも。自分固有のテーマやその根拠を探るなかで 「自分にしか生み出せないオンリーワンなもの」をお店の題材にすることができたのなら、商圏やマーケティング戦略は後からついてくるだろうし、成功に向けて大きな一歩を踏み出せるのではないだろうか。
ジョンソンタウン
埼玉県入間市にある、米軍ハウスと呼ばれる平屋のアメリカン古民家と、平成ハウスと呼ばれる現代的低層新築住宅が、樹々の間に点在して建っている自然豊かなレジデンスプレース。映画やドラマのロケ地として使用されたり、さまざまなメディアに登場し、近年人気を集めている。
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