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出張料理人として全国でカレーを振る舞う傍ら、カレー教室の講師やカレー本の執筆、本格カレーを自宅で作れるスパイスセットの通販サービス「AIR SPICE」の代表など、多岐に渡る“カレー活動”で知られる水野仁輔さん。そんな水野さんが中心となり、「俺たち、カレー屋になるわ」という合言葉で集まったメンバーの中から、鹿島冬生さんが東京・戸越にカレー店を開業することに。「カレー屋は儲かるのか?」という永遠のテーマと、開業までの道のりを5回の連載で追っていきます。連載3回目の本記事では、一筋縄ではいかなかった物件探しについて、そしてカレー業界の今後について語っていただきます。
正直もっと簡単に見つかると思っていた、物件探し
――鹿島さんが物件探しを始めたのはいつ頃からなんでしょう?
鹿島:間借り営業を始めた一昨年9月頃ですね。
水野:そうすると、(引き渡しが10月だったので)見つかるまで1年くらいかかってるってことですね。
鹿島:正直もっと簡単に見つかると思ってました。みんな大変大変って言うけど、そんなことないでしょって思っていて。でも、やっぱり見つからなかったっていう(苦笑)。――何が1番のネックになったんでしょう?
鹿島:カレー屋をやりたいって言うと、「重飲食ですね」と言われて、「ウチはダメです」って言われるのがすごく多いんですよ。
水野:重飲食ってカレー以外に何があるんですか?
鹿島:ラーメン、焼肉、焼き鳥……。油と匂いと煙が出るお店ですね。――ラーメン屋さんは、たくさん新規オープンしているイメージがありますが……。
鹿島:そう、たくさんあるじゃないですか。インド、ネパールのカレー屋さんもたくさんできてるイメージがあるから、簡単に見つかると思ってたんですよ。――でも、実際に探してみたらOKしてくれる物件が少なかったってことですよね。
鹿島:そうです。だから、まずはネットとかで探し始めたんです。いろんな人にどうやって見つけたかを訊くと、ネットで見つける人もいれば、直接現地へ行って探したほうが早いよっていう人もいて。結局、自分が見つけた手段をオススメしてくれたんだろうなと後から思ったんですけどね。不動産屋にも行ったんですけど、「飲食店を探してる」って言うだけでイイ反応はないですね。「何をやりたいの?」って訊かれて、「カレー屋です」って答えると「あー……。」みたいな。――そんなに敷居が高いんですね。それは、物件数は多いけど重飲食だからNGってことですか?
鹿島:いや、物件数も少ないんです。最初は東横線沿いで、渋谷から自由が丘の間でちょっとオシャレなところがいいなと思って見ていたんですけど、どこへ行っても空き物件がなくて。「空きが出たら連絡しますね」と言われて連絡先を残していっても、電話がかかってきたことはないですね。次にネットで居抜きの専門サイトをいくつか見て、条件を入れて見合ったものが表示されても、電話すると「ウチは飲食ダメです」とか言われるんですよ。店舗物件でこれがいいなと思っても、飲食がダメだったりカレー屋がダメだったり。
水野:飲食っていうハードルがあって、さらに重飲食っていうハードルがあるんだ。そのふたつを越えなきゃいけないってことですもんね。
鹿島:店舗物件の中でも、物販はいいけど飲食はダメっていうのは結構多かったですね。――それでは戸越に決まるまで相当お時間がかかったんですね。
鹿島:そうですね。最初はまだ会社に片足浸かっていたから、何となく探していたんですけど、完全に退職してからは毎日のようにサイトを見てましたね。――少し焦りも感じました?
鹿島:焦りは……そうですね。退職金を貰っていても減るだけですから。どんどん目減りしていくので、そろそろまずいなって気持ちはありましたね。
水野:店を探すときの立地の条件ってどういうものでした?
鹿島:最初はお洒落な沿線でと思っていたので、戸越は違うなって感じていたんです。でも、全然見つからなくて、蔵前でコーヒー屋をやってる友達に「物件を探してるんだけど見つからないんだよね」と相談したら、「じゃあ蔵前に来ればいいじゃない」って話になったんですよ。でも、蔵前も全然物件がないんですよ。今、若い子がたくさん入ってきていて。それで見つからないからだんだん東の方へ行って、浅草とか蔵前の方面をずっとチェックしていて、一度合羽橋で決めようとしたんですよ。
水野:写真しか見てないけど「すごく雰囲気がイイお店でしたよね」ってすごく言われたんですよ。DADA CURRY PROJECTのあるメンバーにね(笑)。「自宅から遠いところは絶対にやめたほうがいい」という経験者からのアドバイス
――「遠いところ」というのは?
鹿島:自宅から遠いところ、ってことですね。ココ(戸越)は近いんですよ。
水野:毎日通うところだからね。DADA CURRY PROJECTのメンバーで、会合の場所でもある「カリ~ アンド スパイスバル カリ~ビト」(飯田橋)の安川さんも、実際に自宅が遠いんですよ。それで、寝る時間が惜しいからお店で、寝袋で寝るようになったんです。そうなっちゃうんですよ、結局。往復2時間とかだと、その2時間寝たほうがいいと、どうしてもなってしまう。自宅から遠いのはダメだよって話は出てました。
鹿島:そんなに言うなら素直に意見を聞いておこうと思ったんですよね。でも、それからなかなか見つからなくって。そしたらこの場所を見つけたんです。半年くらい前に、前のお店が閉めちゃったことは知っていたんです。それで、募集が出たらいいなと思っていたら実際に募集が出て、すぐにコンタクトをとって。――自宅から近いところが決め手になったんですね。
鹿島:近いところがいいなと思うようになったのは、この近くでイベントをやったのがきっかけです。戸越公園にある元おにぎり屋さんを借りてイベントをやったんですけど、知り合いがワーッと来てくれて。ずっとクローズしていたお店だったんですけど、僕がイベントでお店を開けたらいろんな人が来てくれて、「おにぎり屋さん始めるの?」って声を掛けられたりして。「いや、今日は違うんです」って話をしたんですけど、そうやって地域の人や近くに住んでいる人たちがちゃんと気に掛けてくれるってことに気付いたんですよ。――オシャレな場所もいいけれど、地域に根付いて、地域の人に食べてもらうのも大事だと?
鹿島:みんな、地域の人を相手にしないとダメだって言うんですよ。わざわざ来てくれる人もいなくはないけれど、間借り営業をしていても「行くよ、行くよ」と言ってくれる人でも本当に来てくれるのは1割もいないですから。
水野:その話は僕もよく聞いてて、月に1回来てネットで絶賛してくれる人よりも、コンスタントに週2回来てくれる人。どっちも嬉しいけれども、お店にとっては実際の売り上げを担保してくれるのは後者なんですよね。どこにも感想を書かない、言わない人……サイレントマジョリティってやつなのかな(笑)。でもそんな人がお店を支えてくれるんですよね。僕が対談したことのある、「野菜を食べるカレー camp」の佐藤さんの話も印象深いです。「camp」は10年間で全国30軒にお店を拡げたんですけど、そのとき彼が言っていたのは「お店を30軒に拡げても、各1軒ずつは地域商売だ」って。30軒に拡げた今と、1軒だった時とでやり方は全く変わってなくて、お店の前を通るお客様に愛されなかったらダメだと。それを×30軒やっているだけの話だって佐藤さんは言ってたんですよ。30軒経営している人でもそう言ってるってことは、やっぱり地域商売なんですよね。地元で愛されることが第一という。――全国展開していても、まずは目の前のお客様を大事にすることが必要なんですね。
水野:僕もフードトラックでじわじわ実感していることでもあります。フードトラックでも「水野さんがやってるんだったら」と来てくれる人もいるけど、わざわざ遠くから来てくれるのでいつも来てくれるわけではないんです。今はフードトラックをやる場所も曜日もブレブレなんだけど、この1ヵ月間は毎週水曜日新宿に出しますって言うと、どんどんお客様が増えていくんです。青山も木曜日って決めてやると、1週目より2週目、2週目より3週目って増えていくんだけど、4週目にお休みして5週目に出してももうお客様は来ないんですよ。それは、4週目にトラックがないと「アレ?」ってなっちゃうからなんですよね。だから、地元の信用を獲得できるのは大きいと思いますね。インフラをチェックするのは大事だが、解決法はある
――ちなみに、カレー屋さんに適した物件のポイントってあるのでしょうか?
鹿島:僕は、最初は居抜きで考えてたんですけど、居抜きと言っても造作代を支払うじゃないですか。だけど、中途半端だったり自分の好きじゃない設備に百万単位のお金を払ったりするのはどうかな?って思ったんです。それならば、何もないところから自分でやった方がいいんじゃないかなって思いました。――この物件は引き継ぎの調理器具は何もない状態ですよね?
鹿島:そうです。ここで問題だったのはガスなんです。インフラの問題は他にもあったんですけど。
水野:ガスが通ってないってこと?
鹿島:いや、都市ガスが通ってるんですけど、建物が古かったんで不動産屋も、ここにガスが通っているかわからないって言うんですよ。それで東京ガスに電話して確認してもらったら、通ってはいたんです。今はメーターを外してるだけだと。ただ、飲食店では無理ですって言われました。目の前の国道の下に太いガス管が通っていますが、それに繋がっている管が細くて古いから飲食店をやるのは無理なんですって。困って知り合いの工務店さんに相談したら「プロパン入れればいいじゃない」って言われました。――都市ガスがダメなら、自分でガスを引けばいいって発想ですね。
鹿島:ここに決める前に、隣の駅にもいい物件がありました。でもそこは定期借家の物件で、4年後には契約が終わっちゃう物件だったんですね。それも不動産屋に相談したら、定期借家は初期投資分の回収ができないから絶対にやめた方がいいと言われて。それでも良い物件だったんで決めようとしたんだけど、ガスも水道もダメだったので、この物件は流れたんですよね。――カレー屋さんに限らずですが、インフラはしっかりチェックした方が良いですね。
鹿島:でも、インフラはヤル気になればどうとでもなるのかなとは思いましたね。――これからオープンに向けてどんな予定ですか?
鹿島:(10月下旬時点で)少しずつ工事が入りますが、設計書は何もないんですよ。取り敢えず現場合わせでやりましょう、という話になっているんですが、僕の中ではココはこうしたい、ああしたいっていうのは何となくあります。あと、材料を拾いに行きましょうって話になってます(笑)。――内装の材料をですか?
鹿島:そうです。
水野:インテリア業界に20年いたらそれは良いですよね。センスもあるだろうし。
鹿島:大工さんからの提案で、材料を拾いに行くことになったんですよね。群馬の前橋辺りは、周りにいろんな工場とかがあるので、多分何かあるだろうって話なんだけど。――ブログでスタッフ募集もされていましたよね。
鹿島:あぁ、お手伝い。お手伝いには手を挙げてくれる人がいるんです。この間びっくりしたのが、全然面識のない人から「手伝います」って言ってもらったんですよ。思わず「どうしてですか」って訊いちゃったんですけど、実は僕のFacebookやブログを見てくれていて「ゆくゆくは自分もカレー屋をやりたいんです」って言っていて。一度、料理教室で一緒になったことがあるらしいんですよ。
水野:あぁ、向こうは鹿島さんを知っているんだ。
鹿島:カレー屋をやりたいっていう話をしたら、僕のことを紹介されたらしくて。――それこそ鹿島さんが水野さんにコンタクトを取ったように、同じことが今、鹿島さんにも起きてるんですね。
鹿島:あ~、まぁ、そうですね。
水野:僕らがこういうところにいるからだと思うけど、いつかカレー屋をやりたいって話は結構聞くんですよね。いつか、やりたいんで手伝わせて欲しいって人は結構いそうな感じがしますよね。――将来、カレー屋を営みたいという人が多いんですね。
水野:うん。カレー屋の店主と話しをしていると、働いてるスタッフの何人かは、ゆくゆくは独立したいって言ってるんだって話も結構聞くので、規模はどのくらいかわからないけど、カレー屋さんっていうものに対しては追い風が吹いている感じがしますね。メディアでもカレーのお店の紹介をよく見ますもんね。昔に比べると今はすごく多いですよ。これからは“個性で勝負する”カレーに注目が集まるのでは
――これからどんなカレー屋さんが増えていくと思いますか?
水野:こういう(鹿島さんの)カレー屋さんじゃないですか? 店主が自分のやりたい世界観を曲げずに出すカレー。その代わり、そんなにいっぱい稼げなくてもいい。この世界観に共感してくれるお客様がきっちりついてきてくれたらお互い幸せですよね、っていうお店がここ数年は増えてきましたね。――大衆ウケするカレーよりも、自分の個性で勝負するカレーってことですか?
水野:そうそう。その尺度でいうと、昔に比べてカレー屋さんの自己表現手段としての意識は高まっていると思います。鹿島さんが言っていたように、マーケティングされて丸くなっちゃうよりは、尖がっていてカッコイイっていうお店が多い気がしますね。鹿島さんはどう思いますか?
鹿島:最近はインスタ映えするカレーとか、スパイスカレーとか、後からバラバラ付け加えるカレーとか、僕はその反動がそのうちくるだろうなと思っていて。――正統派に戻るってことですか?
水野:正統派……というか、外側を着飾るのではなく、店主の芯とか美意識が一本通ってるってことかもしれませんね。――実際にインスタ映えするカレーや、エンタメ感のあるカレーが増えているんですか?
水野:いや~、増えてますよ。それで今カレー業界が盛り上がってるのもあります。大事なことだとは思いますけどね。器とかテーブルが素敵で、キャッチ―なカレーっていうのもそれはそれで大事なことだと思いますよ。「“インスタ映え”するカレーの本を来年やりませんか?」って話も来てるくらいなので(笑)。新しいレシピ本の切り口として、“インスタ映え”するとまでは言わないけれど、“美しいカレー”っていうレシピ本を出しませんかっていう(笑)。――それは承諾されたんですか?
水:しましたよ。なぜかと言うと、僕にしか作れない“美しいカレー”があると思ってるし、それを書籍で表現できると思ってるからです。でも、そんな話があるくらいなので、インスタだけじゃなくネットでカレー屋さんの情報が飛び交うようになったから、店主が芯を曲げずに通すスタイルであってもそれに共感するお客様とのマッチングが昔よりしやすくなってるんですよ。どこかの町の片隅で尖がったカレー屋さんがあっても、それが知られるまでに昔は相当時間が掛かったけど、今は店内の写真を見て、料理の写真を見て、ココ好きかもって足を向けてもらいやすくなりましたよね。それはすごく良いことだと思う。だから、個性の強いお店にもお客様が向きやすくなる。――ネットの情報が豊富になったことが、カレー人気の底上げにも繋がってるんですね。
水野:僕はそう思いますね。お互い幸せなのが一番イイですよね。お店をやる側と食べにくるお客様が良い関係で結ばれる。そういう関係はたくさんなくてもいいと思うんですけど、お店も自信を持てますよね。――地元の人だけでなく、SNSやメディアの影響で足を運んでくださるお客様がいたら心強いですね。
「canaeru」も、その一助になれれば嬉しいです。鹿島さんが戸越で開業するカレーとコーヒーの店「ストン」は、2017年12月18日にオープンしました! 鹿島さんの信念が込められたメニューや、自らの手で内装も手掛けたお店の雰囲気などは追ってレポートいたします。お楽しみに!水野仁輔
株式会社エアスパイス代表取締役。「AIR SPICE」を立ち上げ、コンセプト、商品、レシピ開発のすべてを手がける。1999年に立ち上げた「東京カリ~番長」名義で全国各地へ出張し、これまで1,000回を超えるライブクッキングを実施。カレースター(糸井重里さんが命名)として、ほぼ日刊イトイ新聞が運営しているカレー関連プロジェクトを実施。カレーやスパイスに関する著書は40冊以上。
http://www.airspice.jp/
鹿島冬生
東京・戸越に2017年12月、カレーとコーヒーの店「ストン」をオープンしたオーナー。インテリア全般に関わるお仕事を20年以上続けた元サラリーマン。カレー屋を志望する人や「儲かるカレー屋」をやるにはどうしたらいいかという問いを、それぞれの立ち位置で考えたり実践したりしてる「DADA Curry Project」のメンバー。
http://www.plaything.jp/
https://www.facebook.com/ston.tokyo/【カレー屋って儲かるの?】記事一覧はコチラから!
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