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【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第17回 お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚にまとめる②役職と責任

【連載】飲食店に届けたい労務コラム|第17回 お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚にまとめる②役職と責任

社会保険労務士で(株)リーガル・リテラシー代表取締役社長の黒部得善氏がお届けする、飲食店経営にフォーカスした労務コラム連載。

スタッフを雇用する店舗経営に欠かせない業務のひとつである労務管理。特にコロナ禍以降の外食業界は深刻な人材不足に悩まされ、「せっかく採用したのにすぐに辞めてしまう」「そもそも応募が来ない」といった悩みのほかに、アルバイトがSNSを使ったトラブルを起こす事例もたびたび耳にするようになり、安定経営とリスク回避という二つの側面で労務管理の重要性が高まっています。

第17回は、『お店でやってほしい仕事をA3用紙1枚にまとめる』シリーズの第2弾。「役職と責任」をテーマに届けします。

前回の振り返り

前回から、お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚で整理するという話をお届けしています。

お店でやってほしい仕事をA3用紙一枚に5つの項目に沿って整理することをマトリクス労務と言いますが、今回は5項目のうちの一つ、労務的な役職の整理についてお話をしていきます。

店長さんに多くを求めすぎていませんか

飲食業界における社員の“平均”労働時間は10年前と比べたら大きく減少しました。とてもよいことです。業界の課題であった「長時間労働では人が採用できない」から「労働時間を短くしていかねばならない」という自浄作用が生まれ、結果として労働時間は大幅な削減に成功したといえます。

しかし一方で、長時間労働の人と残業の少ない人が混在し、結果的に平均労働時間が削減されたという現象もよくみられます。

みなさんのお店では、
「店長は責任感が強いから仕事を抱え込む」
「店長しかできない仕事が多すぎる」
「辞められたら困るから部下の労働時間を肩代わりしている」
「店長は自由に打刻できるから自分の労働時間を調整している」
ということが起きていないでしょうか。

3つ目の例は極端ですが、業務量に対し店長の労働時間が少ない店舗に発生している可能性が高いのであえて書きました。飲食店全体の平均労働時間は大きく減っていますが、店長の労働時間はさほど減っていないという現象。これは「困ったら店長が何でもやってくれる」「店長だったら責任をもってやってくれるはず」という、暗黙の指揮命令の結果です。店長の労働時間だけが長いこの現象を放置すると、結果的に「このお店では店長になりたくない」と思われることにつながり、社員の離職へとつながります。お店でやってほしい仕事が整理されていないと、責任者である店長の業務時間が増えてしまうのです。そうならないために必要なのは、役職別に“果たすべき責任“を定義するということです。


果たすべき責任を定義する

なぜ“果たすべき責任”を定義するのかというと、責任には「100かゼロ」しかないからです。「責任を8割果たしたので給与をアップしてください」とスタッフから言われたら「まずちゃんとやり切ってから言ってくれ」と大半の経営者は言うと思います。責任はやらなければならないことであって「新人店長だから業務量は半分でいいよ」とはならず、新人店長だろうとベテラン店長だろうと、責任があることには変わりはありません。優秀な店長は高いレベルで責任を果たしているのです。

それでは、具体的に責任を定義してみましょう。言葉のレベルとしては3割ぐらいの具体性で定義することを心がけてください。そして、お店における存在意義という視点を意識しながらで定義していきます。

以下に、250社を超えるマトリクス労務で定義された店長の果たすべき責任を傾向分析し、抽出された責任の例を挙げます。

✔コンセプト実現のために、お店を巻き込んで改善し続ける責任
✔お店の見本となるように理念を理解した行動を徹底する責任
✔会社のビジョンを徹底して下に理解させる責任
✔売上目標等の数値目標を達成する責任
✔お客様を喜ばせるスタッフを育成する責任
✔お店で一番”お客様が大好き”な存在である責任

このように定義したら、次は責任に紐づく具体的な業務を書き出していきます。こうすることにより、責任に見合った“してほしい仕事”を導きだすことができます。

果たすべき責任を定義する

キャリアアップとスキルアップは違う

“果たすべき責任”を定義する意味はもう一つあります。それは労務の前提として今まで何度も触れてきた「会社が社員に対し指揮命令する権利を買って、その対価として給与を支払うこと」と大きな関係があります。つまり、「責任に見合った給与を支払う」ということです。上位役職者は偉いから給与が高い、仕事ができるから給与が高い、と誤解されがちですが、労務的な観点では「責任が重いから給与も高い」という意味になります。よくキャリアアップとスキルアップを混同しているケースがありますが、正しく整理すると次のようになります。

キャリアアップ:仕事の責任が重くなる
スキルアップ:仕事の腕があがる

キャリアアップで給与が上がることと、スキルアップで給与が上がることは、まったく違うものなので注意が必要です。

新人にも責任はある

今まで店長の責任について話をしてきましたが、「果たすべき責任」はすべての役職に対して定義をしなくてはなりません。具体的な定義としては

店長:店長が果たすべき責任を定義
副店長:将来、店長になるために、身につけておくべき責任を定義
一般:将来、副店長になるために、身につけておくべき責任を定義
新人/アルバイト:お店で働くために必要な責任

このように、上位役職者の責任を果たすために、今身につけなくてはならない責任を定義していくのです。その際、責任の重さが立場を逆転しないようにしてください。責任の重さは給与の高さに比例します。また、店長の給与水準を高めたいときに、今よりも重い責任を求めるという運用も可能です。

今回のキーワード:お店のみんなに責任を持たせよう

この記事の執筆

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長_黒部 得善

㈱リーガル・リテラシー 代表取締役社長

黒部 得善

1974年名古屋市生まれ。1997年明治学院大学法学部法律学科卒業。同年社会保険労務士合格。
大野実(現:全国社会保険労務士会連合会会長)事務所で修業後、㈱日立国際ビジネスにてSAP・R3のHRモジュールのコンサルを経て、2002年9月㈱リーガル・リテラシー創業。
飲食店の「長時間労働だから人が辞めるのか、人が辞めるから長時間労働なのか」を解決すべく、労務を“見える化”するためのフレームワーク手法”労務マトリクス“開発や、労務AI技術の開発をおこない、労務環境改善に奮闘。

<主な著書・論文>
「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか」(日経BP社)
「就業規則がお店を滅ぼす」(日経BP社)
「勤怠データのデータマイニングを通じた労働集約性の高い飲食業の労働環境の改善」(日本マネジメント学会誌経営教育研究vol.25no.1)

<公式サイト>
(株)リーガル・リテラシー

<労務AI 公式サイト>
労務AI

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