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全国・海外から約1,500社が参加する「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰する小阪裕司が商売成功のヒントを毎週お届けします。
「良いもの」を「いかに安くするか」を考え続けた20年
今回は、少なからぬ商人、ビジネスパーソンが、今日のビジネス情勢下、なぜ上手にスムーズに、値上げや安くせず売ることができないか、という問題を話そう。
この20年余り、日本はデフレの下にあった。そこでは「いかに安くするか」がビジネス上で重要とされ、実際に安くできた方が勝った。それゆえ現場では常にいかに安くするかが競われ、評価された。そこに加え、日本の製品は品質が良い。つまり「良いもの」を「いかに安くするか」を考え続けた20年だったと言える。
強調しておきたいが、「20年」だ。人はそれだけ長く、ある特定の方向で物事を考えると、基本、その考え方に頭が慣れる。ここで言えば、「良いもの」を「いかに安くするか」という考え方にすっかり慣れてしまうのだ。そうすると、次のようなことが知らぬうちに苦手となる。大切なのは売り場での工夫
ここで、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある食品スーパーの事例を話そう。
あるとき店主が、新規で入荷してきたあるメーカーのクッキーを食べてみたところ、非常に高い品質、実に美味しかった。しかし残念なことにパッケージがイケてない。それさえ高級感のあるものにすれば売れるはずなのにもったいない、と。
ちなみにこの商品の推奨小売価格は258円。彼が所属するチェーンの本部からの指示だ。定価は300円。定価に対し、1割以上の開きがある。しかし店主は、「本来ならデパ地下で500円くらいの価格で売ってもいい」「絶対に安くしなくても売れる」と判断し、定価に近い298円で販売することにした。
ただ、「味」というのは、実際のところ食べてみないと分からない。しかし、試食を行う手間はかけられない。そこで、POP(店頭販促物)に「デパ地下レベルのおいしさ」「500円の価値がある」と書くなど売り場での価値訴求をあれこれ工夫した結果、売り伸びていった。そうしてこの店が、たった23坪の小ささにもかかわらず、値引きすることもなく、彼が所属するチェーンの中で、地域一番の売上になったという。
店主は言う。自分がいいと思った商品は売れないはずがないし、値下げは意味がないので、あとは売り場での工夫だと。彼のように、自然にこう考えられ、工夫の仕方も多く知る人がいる。片や「良いもの」を「いかに安くするか」の思考に縛られている人たちがいる。この差が、これからの「価格上昇時代」に上手く商売ができるかどうかの差になっていくのである。〇執筆者
小阪裕司(こさかゆうじ)
博士(情報学)/ワクワク系マーケティング開発者
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「心と行動の科学」をもとにしたビジネス理論と実践手法(ワクワク系)を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県・海外から約1500社が参加。近年は研究にも注力し、2011年、博士(情報学)の学位を取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は多方面から高い評価を得ている。2017年からは、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受け、地方銀行、信用金庫との連携が進んでいる。
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